「……ん~……よし、おっちゃん! これとこれ2つずつ、あとこいつ3つにこれ4つね!」
「おうよ! ところであんちゃん、一人旅かなんかかい? このへんじゃ見ない顔だなぁ」
「へへ、一人旅ではないんだけどね。双子の妹と一緒にちょっと冒険ってところかな」
「そいつぁ豪気だねえ! 気に入った、こいつも持ってってこの値段でどうだい!」
「ええ!? こんなに安くしてくれるのかい!?」
「おおよ! 少年少女の旅路がよいものにならんことを、ってか!?」
「サンキューおっちゃん! またいつか来るよ!」
親切な八百屋の店主に大量の野菜や果物をもらったレン。ほくほく顔でリンの元に戻り、二人で歩きだした。
「いやー、まさかこんなにもらえるとは思わなかったなー」
「ホント交渉巧いよねぇ、レン……」
「別に交渉してるつもりはないんだがなぁ……やっぱりこの容姿のせいなんじゃないか?」
リンとレンの容姿は力を得た4年前から少しも変っていない。二人は知らなかったが、『魔蟲』の二人と同じように、一度死に、そして蘇った身体が成長を著しく遅らせていたのだ。
「そうは言ったってさぁ、あたしがやると下手したら追い返されるんだよ?」
「そりゃリンがなんかひどいこと言ってるだけだろー?」
「言ってないよー! ただ世界のために頑張ってるお嬢さんにただでちょーだいって言ってるだけだよー!?」
「それが原因だよ!!」
律にさんざんパシリとして使われたおかげで高レベルの交渉術を手に入れていたレンと違い、生まれてからずっと病院に囲われていたリンはまさに箱入り娘。
4年の月日を経ても、レン以外の人間との付き合い方というのはあまり育っていないようだった。
これはもうしばらく苦労しそうだな―――――そんなことを考え、苦笑していたレン。
《――――――――――――――ドンッッ!!!!》
――――――――――そんな平穏な空気を一瞬で吹っ飛ばす爆音。そして巨大な爆炎。
「なっ!!?」
「爆……発!?」
怯む間もなく、後ろからごつい足音を立てて迷彩服の集団が走り抜けていく。―――――国軍だ。それも、人間以外の相手と戦うことに特化した特殊戦闘部隊。
こんな小さな町に、特殊戦闘部隊が出張ってくることなどほとんどない。
もしあるとすれば―――――相手は人間を超越した、放っておくと大変なことになりかねない大罪人―――――!!
「リン……もしかしたら、『あいつら』が……!!」
「もしかしなくても……いるかもね!!」
力強く地面を蹴った二人は、爆炎の上がる町はずれに向かって走り出した。
「ぐぎゃあっ!!」
「ぎゃああああ!!」
その町はずれでは―――――特殊戦闘部隊相手に、『昆虫少女』と『魔獣少女』が惨劇を繰り広げていた。
ちょっと開けた円状の広場。その中央に陣取った未来と流歌の周りには、突撃しては無残に引きちぎられた部隊員の残骸が散らばっていた。
『あっれれー? こんなもんなのかしらー? 人外戦闘に特化した特殊部隊が聞いて呆れるわね!!』
足元の死体の頭を力任せに踏み潰しながら未来が挑発する。
化け物とは言え、その姿は年端もいかぬ少女。そんな彼女に挑発されては、特殊部隊としてのプライドに傷がつく。
その結果が―――――これだ。
「子娘が……なめんじゃねえぞ!!! 全弾……斉射ぁ!!!!!」
部隊長らしき男の号令で、一斉に機関銃が吠える。
咄嗟に流歌が『雷鷹』へと姿を変え天空高く飛び立ち、ミクはその体に黒い外骨格を纏った。
降り注ぐ銃弾は正確にミクの体を狙う。鉛の弾などではない、5㎜の鉄板さえぶち抜く超合金性の貫通弾だ。
だが―――――一発たりとて通らない。弾がミクの体を撃ち抜くことはなかった。
全て漆黒の鎧にはじき返され、ある弾はその場に落ち、ある弾は跳弾して逆に兵を撃ち抜いていた。
「ば……馬鹿な!!?」
愕然とする部隊長。だがそんな隙を見せている暇はなかった―――――瞬間、背後を稲妻が走る。
悲鳴を上げる間もなく―――――後ろの部隊員たちは消し炭にされる。
そしてその部隊長自身も―――――
「ぐえあっ!!?」
長い長い―――――『ヤンバルテナガコガネ』の右腕に掴み上げられた。
「ぐ……ぐぐ……!!」
『……死ぬ前に面白いことを教えてあげる』
「!?」
『昆虫の標本は大抵胸に針を刺して固定するんだけど……ゾウムシの仲間ってね、標本にするときに胸に針を刺して固定するってことはないの。なんでだかわかる? ……答えは簡単。『硬すぎて針が通らないから』。他の昆虫よりも頑丈な外骨格は簡単には突き破られない。そしてその中でも―――――この『クロカタゾウムシ《黒硬象虫》』の外骨格はずば抜けて硬い。こうして人間大にまで巨大化すれば―――――生半可な銃撃なんぞ通らないのよ』
「……!!」
『だからあなたは弱くないわ。昆虫たちが強すぎただけのこと。気に病むことはない。だから今度は……私に殺されないよう、昆虫に転生してきなさい♪』
にこやかに笑うと同時に―――――二本の爪が部隊長の頭を握りつぶした。首から上を失った体はその場に力なく崩れ落ちた。
化け物。怪物。関わってはいけない。生き残った部隊員もそうだが、野次馬たちも同じ事を考えていた。
少しでも触れれば殺される―――――そのことが本能でわかっていた。
『未来。もう増援は来ないみたいだよ』
『そうみたいだねぇ……結局『ミラウンドツインズ』はどうしたのかしら?』
『私達が来る前にどっかいっちゃったとか?』
『かもねぇ……だとしたら、この町にはもう用がないし……焼き払っちゃおっか!』
軽々と言ってのけた未来の尾が、巨大な『ミイデラゴミムシ《三井寺芥虫》』の腹部へと変わる。
ついでオニヤンマの羽を展開し、空高くへと飛び上がった。同時に流歌は『焔猿』へと変化し、地上に炎を走らせる。
その炎は通りを駆け抜け、町全体に広がる。―――――これから未来が放とうとしている火炎を町中に伝達するためのいわば伝達役だ。
このコンビネーションこそ―――――『魔蟲』が幾千の町を焼き尽くしてきた、『地獄の業火の大行進』。
『行くよっ……!! ベンゾ・カノンっっっ!!!!!!!』
巨大なゴミムシ砲身から撃ち出されたガスの塊―――――100度を超える超高音のガスは瞬く間に発火し、巨大な火炎へと姿を変えて街に襲い掛かる!!
野次馬たちは恐怖にとらわれて動けない。誰にももう止められない――――――――――――――
――――――――――いや、一人いた。野次馬の遥か後ろから飛び込んできた少女が。
――――――――――右腕に身の丈を超える巨大な『アームストロングカノン』を装備した少女が―――――いた。
『るあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』
《――――――――――――――――――――ドゥン!!!!》
雄叫びをあげながら放たれた砲弾は―――――巨大な火炎弾を巻き込むほどの回転を与えられて、未来に向かって突っ込んでいく。
『!!!?』
間一髪のところで体をそらし、直撃を免れる。ヂリヂリと砲弾とクロカタゾウムシの鎧がこすれる音が響く。
そのまま火炎を巻き込んだ砲弾は天空の彼方へと飛んでいき、遠方で轟音を鳴らした。
『なっ……!? あんた――――――――――』
流歌が少女に向かって炎を走らせようとするが――――――――――
『させるかよ!!!』
『うわっ!!!?』
巨大な鷹の爪が流歌に襲い掛かった。これまた間一髪で飛び退って回避。ルカのいた場所の地面が粉々に砕け散った。
降り立ったのは―――――黄金の鷲の体に、純白の獅子の体―――――グリフォンだ。
だがその姿は瞬く間に人間の姿へと変わる。翼も獅子の足も消え、現れたのは青い犬耳と蒼の白の毛をたっぷりと蓄えた巨大な尾を持った、金髪の少年。
『……!! その姿……!!』
流歌も、地上に降りてきた未来も。
そして野次馬たちも――――――突如現れた少年少女が何者か、既に分かっているようだった。
「み……ミラウンドツインズだ!!」
「噂の機械少女と獣憑きの少年!!」
「助けに来てくれたんだ!!」
『頑張れーっ!! ミラウンドツインズーっ!!!』
一気に沸き立つ野次馬。
それらを一瞥してから―――――
『静まれええええええええええええええええっっ!!!!』
レンが声を張り上げながら、大きく地面に足を叩き付けた。ズン、と響く足音が野次馬を一発で黙らせる。
「……死にたくなかったら、さっさとどっかいきな」
「えっ……」
「いいから早く……」
『逃げろおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!』
再びの大声で肝を冷やしたのか、野次馬たちは一気に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
広場に残ったのは―――――常軌を逸脱した、4人の獣憑きだけ。
テトに選ばれた、“四獣”だけだった。
「……まったく、なんてことしてくれんのよ。一気に町ごと消し飛ばすチャンスだったのに」
静寂を破って口を開いたのは未来だった。
いきなりの暴言―――未来にとってはもはや日常に近い行為なのだが―――にリンが怒りを隠そうともせず詰め寄ろうとするが、レンがそれを軽く制して話しかける。
「……あんたらが噂の『魔蟲』だな。どうもその化け物じみた……獣憑きとしても過剰な力……やはりお前らも、テトに“憑くられた”獣憑きか」
「そういうあんたたちこそ同じでしょ? 『ミラウンドツインズ』。テトさんに死の縁から救ってもらっておいて、人間の味方だなんて何様のつもり?」
「全面的にってわけじゃないさ。俺たちも人間の黒いところは知ってるからな。そういう奴等にちょーっとお仕置きする旅をしてるだけだ。ついでに俺は、テトにケンカ売ろうとしてるんだけどな」
レンの言葉に、未来と流歌の眉がピクリと動く。
「……ふざけてるの? 人間の本性は悪よ。そんなことをしたって、結局は全てを滅ぼすことに―――――」
「違うな。人間の本性に善悪なんてもんはない。暮らす環境によって善悪の心が構築されるだけだ。お前たちは本当に……人間が生まれた時点で悪意たっぷりだとでも考えているのか?」
レンの的確な返答に思わず言葉に詰まる流歌。
だが―――――――――――――――
「ええ、思ってるわよ」
「未来!?」
――――――――――未来は違った。圧倒的な自信を目に宿して、そう答えたのだ。
「……私もね。人間を殺し始めた頃はあんたたちみたいに考えた時もあったわ。本当にみんな殺す必要があるのか。心から真っ白な人もいるんじゃないか。一人になって冷静になった時、何度かそんなことを考えた。……でもね」
ぎりり、と拳を握りしめながら言葉を続ける未来。力を込めすぎた腕は、僅かに変化し黒い外骨格を浮かび上がらせていた。
「戦っていく中で知ったの……人間の愚かしき行動を。町のため国のためと言って戦っておきながら、いざ自分の身に危険が迫ると仲間を見捨てて逃げ出したり、仲間を盾にしたり……戦いの中以外でも、人間の行いに辟易したこともあった……! 自らの欲するものはどんな手段を使ってでも手に入れ、それを邪魔するものはすべて排除……その中でどれだけの山々がコンクリートに変わったか……!!」
レンを静かに睨みつけると、その眼前にヤンバルテナガコガネの前脚を突き付けた。
「あなた言ったわね。『人間の本性に善悪などない』と。そうね……確かに生まれつき善に傾いてたり悪に傾倒してる人間はいないかもね。……でも仮に人間の本性を定義するとすれば、『支配欲』と『自己中心的』だと私は考えている。全てを手に入れようとする『強欲』と、世界を自分たちの都合に良いようにつくりかえようとする『傲慢』。それが人間というゴミ屑よ」
一瞬未来の体が震えたかと思うと―――――――――一気に背中の翅が展開し、両足が『ノミバッタ』の肢へと変化した。
『そんなゴミ屑が世界を支配しようというならば……!! 私は全力でそれを止める!! 人間なんか……滅ぼしてくれるわ!!!』
未来が吠えると同時に、レンとリンも臨戦態勢へと入った。
「リン!! 例の作戦で行くぞ!!」
「ラジャ!! ……死なないでよ!?」
「お互い様だぜ!? ……はっ!!」
――――――――――次の瞬間。
「うわっ!!?」
『流歌!?』
グリフォンに変化したレンの前脚が、ルカをがっしりと捕まえ、そしてそのまま山の向こうへと飛んで行ってしまった。
「わあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
『流歌ぁっ!!』
『よそ見してると――――――――――』
はっとした未来が振り返ると―――――目の前にはグレネードランチャーを装備したリンが迫っていた。
鈍器として振り下ろされるランチャーを、とっさにカブトムシの腕で受け止める。
『危ないよ?』
『あんた……ふざけた真似をっ……!!』
『19億人も殺してきたコンビ相手に2対2を挑むことの方がよっぽどふざけた真似だと思うよ?』
『うる……さいっ!!!!』
力強くランチャーを弾きリンを吹っ飛ばすと、両腕をヤンバルテナガコガネに変化させて体勢を整えた。
リンもまた、両腕をグレネードランチャーに変化させて構える。
『まずは正々堂々一対一だよ!! さぁ……懲らしめてあげるわ、『昆虫少女ミク』!!!』
『……小娘が……なめんじゃないわよ、『大砲少女リン』!!!!』
自然の機能美の結晶と、人間の技術の結晶。
それらを宿した少女二人が、今ぶつかろうとしていた――――――――――。
四獣物語~獣憑戦争編②~
四獣、衝突。
こんにちはTurndogです。
今回未来が使った昆虫の力で新しく出ました『クロカタゾウムシ』。
奄美諸島に住む超頑丈なゾウムシで、人間が踏んだくらいじゃ潰れない外骨格を持ちます。一度見てみたいんだけど金と暇がない←
そして『ミイデラゴミムシ』。二種類のガスを反応させて100度の高熱毒ガスを噴射します。人間大で放てば火炎放射不可避。キャーコワイw
あと『ヤンバルテナガコガネ』は前足がめっちゃ長い絶滅危惧種のコガネムシです。
まぁその辺詳しく聞きたかったら私に直接聞くか、ちずさんに話してあるので私の話した内容コピーしてもらってください←
あとリンちゃんの武器変化には大きさの制限ないです。だから細い右腕一本が軍艦に取り付けられるような大砲にもなります。こっちもコワーいw
この二人のおかげで魔獣と聖獣が空気です。あれれー?ww
そして未来さんの語り。これほぼ私の心情です。
勿論今では人間滅べとか考えちゃいないですけどww
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