注意:実体化VOCALOIDが出て来ます。
オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイ風味が入って来ると思います。
苦手な方はご注意下さいませ。
[この前はメールをありがとう。わたしはどうしても情報に遅れがちなのでああいうメールをもらえると助かるよ。
あの後自分なりにも調べてみたけれども、やはりメイコもアペンドの話が出ているようだね。
我が家には既にカイトもメイコも居るから、と思っていたけれども、そうだね。まずは聞いてみたいな。新しい音を。
迎えるかどうかはやはり聞いてからだろうね。
ついうっかり今に安住しそうになったけれど、当のメイコから喝を入れられてしまってね。
思う気持ちで足を止めてくれるな、と。
本当にもう、メイコには敵わないよ。
わたしが出会った、わたしの世界を広げてくれた、わたしを救い上げてくれた、大切な「音」だと思っていたけれど。
単にそれだけでは済まなくなって来ているみたいだ。
これからも、わたしの音を表現するために必要ならきっと新しい音を求めるだろう。
欲しいと思ったらきっと迎え入れることだろう。
だから今はまだ、どちらにするかは分からない、というのが正確なところかな。
わたしの手元の「音」たちもまだ使いこなせていないくらいだしね。
そうそう。今ちょっとね、ミクが落ち込んでいるようなんだ。
わたしの晩酌に付き合って酔っ払ったのが相当堪えたみたいでね。
ミク自身は飲んでいないのに、器用なものだよね。空間で酔えることもあるとは聞いていたけれども目の当たりにすると不思議で可愛いものだ。
ルカが気にして宥めてはくれているけれども、復帰には時間がかかりそうでね。だからこそミクにちょっと歌って欲しいものが出来そうなのだけれど。
良ければそれに、君も一枚噛んでくれないかな、と思って。
時間があるようなら考えてくれると嬉しいな。
父と母への歌、をね、ミクに歌って欲しいなと思っているんだ。
本人たちには言えないけれど、わたしにとっては、カイトとメイコが二組目の両親みたいなものだから。
わたしの音を、最初に、生み出すことを教えてくれたから。
……いつか親離れをするまでは、きっと、手放せないのだろうね。
まあ、提案の話はさておいても、また時間を作って一緒に飲みたいね。
その時を楽しみに、今はまず、目の前のものからこなしておくよ。
君も、身体には充分気をつけて。
今回は本当にありがとう。またの機会を楽しみにしておくよ。
西原 紫苑]
パソコンの中のメールは、当然ながら数日経っても変化などありはしなかった。
全員での飲み会を繰り広げ、ぐだぐだな翌日を迎えてから、数日。
紫苑はメイコが読んでしまった例のメールを改めて読み返し、返信ボタンを押して文章を入力した。署名まで入力し終えてから念のため読み返して、送信のボタンをクリックする。
数秒の内に「送信しました」のメッセージが表示され、紫苑は思わず目を伏せていた。
電子の世界の処理の早さが、VOCALOIDたちに流れている時の早さを示しているようで。
紫苑はパソコンをスリープモードにして立ち上がる。今も紫苑のVOCALOIDたちが紫苑を待っていることだろう。
時を経て、変わっていっても、なくなっていっても、今があったことを残すために。
紫苑は生まれた決意と音を抱えて、手元の「音」たちの中に響く、己の「音」を探しに向かった。
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