いったいどこから狂ってしまったのだろう・・・
 初音先輩に告って見事に玉砕したあの時か・・・いや、先輩の返事がどうであれ、それ以前に俺が告白してもしなくても、この事態にはおちいっていたに違いない。あいつだ。すべてはあいつが俺の日常に侵入した時から狂いはじめていた。あいつはいつからこうなることを考えていたのか・・・この現状さえもあいつにとっては通過点にすぎないのか・・・。
 ・・・先輩だけにはこれ以上迷惑をかけられない。俺と関わったばかりに先輩は傷ついた。きっと今も怯えているのだろう。オーバーに聞こえるかもしれないけど、本当に初音先輩は学園のアイドルだ。俺はバカだしチビだし、とても先輩とはつりあわない。そんなことはわかってたけど、それでも自分の気持ちに決着をつけておかないと先に進めない気がして、俺は身の程もわきまえず先輩に突撃した。好意を寄せられることに慣れているはずの先輩は、意外にも俺の唐突な告白に戸惑いの色を見せ少しばかり沈黙。やがて、やや音域の高い、それでいて落ち着いた声で一言「ごめんね」と呟いたあのときの先輩の、申し訳なさそうな姿は、それでもやっぱり綺麗で、可愛くて、今もあのうつむいた表情が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
 アタックして砕け散った俺の蛮勇は、誰かに視られていたのかアッという間にクラスの連中へ知れ渡り、俺は散々ひやかしを受ける羽目になった。フられて周囲からネタにされる俺のあまりのダサさに大笑いした双子の妹リンは、その日しきりにゲームの相手をしろと言ってきて、俺たちは一晩中マリオカートで対戦した。強がってその実落ち込んでいた俺を察したあいつなりの気遣いだったのかもしれない。そんな俺の話題も日々起こる他愛ないゴシップに押し流され始めた頃、亞北は転校してきた。

 東北地方から来た時季はずれの転校生、亞北ネル。この独特な名前を持つ彼女は、性格的にもまた独特のものを持っていた。自らクラスメートに壁を作り馴染もうとしない。頭の左脇で結った髪が稲穂のように垂れ、足を組み、いつも不機嫌そうな眼差しでケータイを弄っている。家族や友達とメールをしている風でもなく、2ちゃんねるに私たちの悪口を書いているんだと、一部女子の間で噂が立ったりしていたようだ。転校から一月と経たず、彼女の雰囲気に不快感を募らせた女生徒達によって幼稚な嫌がらせが始まった。
 放課後、偶然亞北の下駄箱に手を突っ込んでいる女子グループに出くわす。そこに亞北の姿はない。少しうんざりして俺は「そういうの恥ずかしいからやめろよ」と、ため息がてら彼女たちに声をかけていた。同じ教室にいる奴が10年前のドラマみたいなイジメの典型をなぞっていることに対し、俺も一丁前に恥を感じていたのかもしれない。女子グループは「軽いジョークじゃん」と俺の言葉を受け流しながら結局亞北のローファーには触れずに去っていった。・・・そうだ、クラスの空気がおかしなことになっていた・・・そんな折に、あの事件は起きた。プールの時間に初音先輩の下着が紛失したのだ。

 この学校の女子更衣室はプールに隣接するカタチで建てられたプレハブで、特に鍵もついてないし、一クラス分の女子の数をカバーできる程度仕切られた棚があるくらいで、一般的な更衣室がどういった造りかは知らないけど、印象としては粗末なものだと思った。校庭からは体育館を挟んだ裏手にあたり人目に付かない。やろうとすれば誰でも盗れるような状態だ。それでも女子が水泳中に忍び込んで下着を盗むなんてバカは過去に例がない。先輩は「私の勘違いかもしれないし、後でもう一度探してみるよ」と努めてにこやかに振る舞い、その後の授業も制服の下に体操着を着けて受ていたらしい。すでに周知となっていた俺の失恋と結びつけて俺が盗ったんじゃないか、俺がストーカーになったんじゃないかと疑いをかける連中もいたが、それはあくまでもくだらない冗談であって、誰も真に受けてはいない。・・・少なくとも、それが俺の鞄から出てくるまでは・・・。

つづく

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【レンネル小説】少年は嘲笑(わら)われる。#01

ネル×レン、レン×ネルのラブストーリーです。
ただし、極めて凶暴に描かれており、
本来のキャラクターイメージと異なる可能性があります。
その点をご理解いただいた上でお読みくださいませ。

閲覧数:863

投稿日:2010/11/14 11:00:38

文字数:1,672文字

カテゴリ:小説

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