いつも、私の傍に居てくれるレン。
愛しくて、愛しくて、たまらない。
【大切なもの】
「ただいまー」
私は看護学校に通う19歳。朝は早くて夜は遅い。
「おかえりなさーい、マスター!」
私はマンションの一室に住んでいて、レンは私の帰りをずっと待ってくれている。
彼の好きなゲームや漫画などを、彼の好きな時間に手にできるような環境にしている代わりに、ひとつだけ、約束事。
『マスターのいない時に、レンは勝手に外に出てはいけない』
事故、誘拐、その他もろもろの危険から彼を守るための規律。彼は良い子で、それを破ることはない。
「あのね、今日、ついに『ドラコングエスト』の超難関シーンをクリアしたの!」
「すごいじゃん」
夕飯の時間は2人で、私が帰ってから。
レンはその日にあったことを話してくれる。彼は一生懸命に喋っていて、それが可愛い。
今日のおかずはコロッケ。まんまるいのが、2つ。
「…あれ?レン、右手使わないの?」
右利きのレンが、今日は左手をぷるぷるさせながら箸を使っていた。
「えーと…『両利き』って言うんだっけ、右手も左手も使える人のこと。俺、『両利き』になりたいんだ」
「ふーん?」
適当な相槌を打ちながらも微笑んでしまうのは、私が『両利き』だからだ。
それが彼の理由かどうかはわからないけれど、そうだったらいいな、と思う。
「ごちそうさまー!」
「ごちそうさまでした」
夕飯を完食したレンは、お皿を左手で台所に持っていこうとする。
「レン、それは右手を使ったほうがいいよ」
「でも、練習だから」
「いや、でも…揺れてるし」
なんか変だ。どうして右手を使わないんだろう?
「………っ!」
_ガシャーン
1歩踏み込んだ瞬間、レンがお皿を落とした。
「マス…ごめんなさ…い」
「いいけど…これからは気をつけてよ」
私は席を立ち、彼が落としたお皿を拾おうとした。彼も拾おうとしたらしく、咄嗟に右手を伸ばす。
「あ…っ」
「……レン?」
彼が右手を引っ込めた。よく見ると、左手は左足に添えていた。
「どうしたの?」
「何でも…ない」
「何でもなくないでしょ?右手、見せてごらん」
「………!」
私は声を失ってしまった。
彼の右腕は包帯で巻かれていた。それは、あの黒いアームカバーで隠れていたのだ。
「…レン、」
「…………」
急いで左足も調べると、同じようなことになっていた。
「どうしたの…これ」
「…………」
「答えなさい。答えないと、アンインストールしちゃうよ」
「……ごめん、なさい。約束、やぶった…」
「…え?」
「1人で外に出てみたくて、約束破っちゃったんだ。そしたら…車にぶつかって……」
「……そんな」
「大丈夫だよ?俺、ボーカロイドだもん。ロボットだもん。修理したし、ちょっとだけ包帯しとくだけでいい、って…」
「なんで言わないの、そんな大事なこと!」
「…だって」
怒られるのが怖かったの?約束破ったから罪悪感があったの?ねぇ、なんで?
厳しい口調で問い詰める私はレンに詰め寄った。そして手を動かした。彼は目をつぶった。
「………マス、ター」
私はレンを抱きしめていた。
「…マスター、…マス、ター」
「…………」
「ねぇ、…マスター?」
「……よかった」
「…え?」
「レンが死ななくて」
「………!」
レンは驚いたらしい。でも、すぐに苦笑した。
「大丈夫だよ。俺、ボーカロイドだもん。ロボットだもん。死なないよ…」
「部品が1つでも欠けたら、レンがレンじゃなくなっちゃうかもしれないじゃん」
「…………」
力のない左手で、彼も私を抱き返した。
「あのね…マスター」
「何…?」
「俺…言わなかったの、怒られるの怖いとか、罪悪感とか、そんなのもあったけど…」
「けど…?」
その後の君の言葉が、不謹慎だけど嬉しかった。
「約束破ったから、マスターに嫌われるのがイヤだった」
失わなくてよかった、大切な、大切な君。
ずっと一緒に居られますように。
コメント1
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ご意見・ご感想
桜 風驪
ご意見・ご感想
ええ子や! 健気な子や!!
俺もそのレンをインストールしたいですwww
2010/08/18 20:32:25
氷空
> 風驪さん
レンはええ子ですよ!ええ子なんですよ!!
もし自分の部屋でレンが、マスターである自分が学校から帰ってくるのとかを待ってたら可愛いだろうなぁとか思いますよね(´ω`*)
2010/08/19 11:08:33