「ねぇねぇ,パパ」

「なんだい?」






楽しそうな声


……あんなものは,消えればいい

なくなってしまえ

死んでしまえ

世界から忘れ去られてしまえ

































私は,独りで笑う
手足を縛られ,ジユウを奪われ,それでも笑う

笑うことなんてとってもとっても簡単
ただ,口の両端を少し上げればいいだけ

それで,周りに居る馬鹿共は,私があたかも幸せそうにしているように見えるの


どぉう?
簡単でしょう?





































ようこそ

きっと貴方も,兎に連れられてきたのね




大丈夫
そんな怯えたような顔はしないで

怖いことなんて一つも無い


だって,此処は愉快の国なのだから






可哀想に

貴方の心には,幾度も鎖が巻きつけられているのね
痛いでしょう?


分かるわよ
鎖の痛さは私が最も知ってる


だって,私は生まれてこの方,この鎖から開放されたことがないのですから








雁字搦めのその鎖
私の歌声で解いてみせましょう

きっと,楽になれるはずですよ?


怖がらないで下さい
大丈夫

きっと







今夜は特別


遊園地には,私以外にもたくさんの友達がいるの

観覧車でしょ?
それから,お化け屋敷……


でも,怖がらないで
皆皆,今夜だけは貴方だけの忠実な僕
奴隷となるのです


私?
私はどうでしょうか……









貴方もきっとそうなんですね

今まで遊びすぎた
だから,疲れちゃったのね


可哀想に

それでは,私が貴方を快楽へと堕としてあげましょう








此処は,遊園地
楽しい楽しい遊園地

その門をくぐったとき,貴方は冷たいゆりかごの中へと堕ちていくのです


その眺めはきっと,絶景でしょうね








私はね,昔々にあのヒトと約束したの



「この遊園地を閉館させてはいけない」

「この遊園地は永久に続く,ゆーとぴあ」

「この遊園地は僕と君の,誓いの場所」





今でもあのヒトの声は私の脳裏にくっきりと刻まれれている

嗚呼
愛しいあのヒト


再び,この遊園地を訪れることは無いのでしょうか?

















私は,この遊園地の女王
誰よりも気高く,誰よりも麗しく,そして誰よりも弱かった私は女王になった



ねぇ
子羊さん?

貴方は,私の召使になってくださる?
手錠に縛られ,退屈な私を救ってくださる?


こんな,女王を助けてくださる?










メリーゴーランドはくるくる回る
その回転が終わることは無い
永遠にくるくるくるくると回る

木馬が丁度良いんじゃない?
さぁ,乗ってみて



そこに一度乗れば,もう貴方はここからは抜け出せない
永久にこの遊園地の,このメリーゴーランドの,私の虜


だって,このメリーゴーランドからは今までとは全く違った景色が見えるでしょう?
腐った世界,腐った眼では見えなかったもの


理想郷


あのヒトが追い求めていたもの


でもね,ここに居るだけじゃダメ
それじゃあ,一瞬のものになってしまう




欲しいものは貴方も同じでしょう?


永久の快楽


理想郷は,その先にあるのでしょう?
















あの穢れた世界は,壊れてしまったの?

私はあの世界が嫌いだったけど,あのヒトは今もあそこにいる
だから,壊れたら困るの




もし,壊れてしまって捨てられても大丈夫

だって,私はここに居るのだから
いつまでだって,あのヒトの帰りを待っている

だから,安心してください








ねぇ,子羊さん?
貴方にも,帰る場所があるのじゃなくて?


「そんなもの,無くしたよ……」


子羊は応える


そうなの
それはお気の毒に


ココロにも無い言葉


「私は,二人を守れなかった……」


あら,それはいけませんね


「……もし時が戻るなら,もっともっと一緒に居たのに…………」






……面白いじゃない

ねぇ,子羊さん?
貴方はずーっとここに居ていいわ



だって,あのヒトは帰ってこないもの


私はあのヒトに云われたとおりずーっとずーっと待っていた
今だって待っている

でも,あのヒトは来ないじゃない


私は,ただの玩具
いらなくなれば捨てられる


今まで考えたくも無かったこと
でも,もう諦めるわ


私は捨てられたの
ここは,この遊園地はただのごみ箱でしかないの







だから,子羊さん
貴方も,捨てられたのね

可哀想ね


私と同じね





ほら,廻るメリーゴーランドはどう?
そこから見える仮初の理想郷はどう?


楽しいでしょう?
儚いでしょう?









ここに居るとね,嫌なことを忘れられるの
全て全て忘れてしまえる

とっても,嬉しいことでしょう?


どうしたの?
どうして,目に水をためているの?

何か,痛いの?



大丈夫
ここにはね,世界で一番痛い,愛がないから





















「ねぇ,パパ」

「……何だ?」

「今日は,わたしの誕生日だよ?」

「それが,どうした?」

「早く,帰ってきてね?」

「……仕事だ」

「パパ……」

「いつも言っているだろう?
 私は仕事で忙しいんだ
 娘の誕生日なんていうそんな小さなことで帰ってこられるか!」


「…………」




















ねぇ,子羊さん?

貴方は時が戻って欲しいと云った
その言葉に嘘はないのよね?


それならね,この列に並ぶと良いわ

この列の先に居るのが,この遊園地の女王
私の中身



今,ここで貴方と話している私は器
本当の女王はそう簡単には外には出てこないのよ





そうそう
えらいじゃない

きちんと並べたわね













暗い暗い影のパレード

だけど,それは世界のどんな光よりも明るく,希望に満ちて光っている


影こそが本当の光


光なんて,ただの飾り
闇を隠すために作られた,なんとも凶悪な兵器


それに比べたら,飾りも無く,ただただ自分の姿を魅せる影はとても美しいものだと思わない?



影のパレードはどこまでも,行き先も分からず続いていきます













これから始まるのは,今まで見たことの無いような素晴らしいパレード
真夜中のお遊戯


誰が望むのか
誰が見るのか

誰が執り行うのか





私?
私は,木馬の上からでも拝見させてもらうわ


哀れな人形達のお遊戯

ふふ
とっても面白そう


今日の一番じゃないかしら?












でもね,一番このお遊戯を楽しみにしているのは,望んでいるのは貴方でしょう?
子羊は,きっと見たいのでしょう?



自分以外の不幸というものを












どうしたのです?
私をじーっと見つめて


私なんかを見つめて楽しいのですか?


貴方のその穢れた瞳の中に私はどのように映っているのですか?



「君は……」

「……×××に似ている」



私は笑います
口を上げます


でも,笑っているからといって勘違いしないで下さいね?


笑っていても,この仮面を取れば,その下にはどんな悍ましい顔が待っていることか








ねぇ,貴方のその腐った脳にはどんな記憶が刻まれているの?
どんな思い出があるの?


「私は,悪い男だった……」


……嫌です
私は,そんな人嫌です
嫌いです
見たくもありません



「私にはもう,愛するものが無い……」






とっても愛おしく,苦しい私を締め付ける言葉


「……私は,やり直せるのだろうか?」


う……
触れてほしくない

でも,私には反抗する力も無い


でも,温かい……
この感覚は久しぶり
もしかしたら,今まで感じたことはなかったかもしれない






私は貴方が嫌い

だけど,この温かさは好き


あのヒトとは違う温かさ

愛が感じられる



あのヒトも,愛をくださった
だけど,これは違う

何か違う








この感覚


それと近づく
肌が触れ合う

動かない,冷たい私を抱き寄せてくれる


そんなヒト







私の大好きなヒト



















あのヒトは,私に愛を囁いた
だけど,それは一瞬

あのヒトは,私を生み出した
だけど,それは己のため

あのヒトは,私を捨てた
だけど,私はまだ捨てられていない

























あのヒトはあの日こう云った


「僕は,ちょっと出かけてくるから
 良い子にしてるんだよ?
 大丈夫,ちょっとだけ待っててね」


分かったわ
私は,良い子にして待ってます


「うん
 じゃあ,行ってきます」


いってらっしゃぁい






私達は悪い子ですね
お互いに約束を破り合いました


貴方は帰って来なかったし,私はもう良い子じゃなくなります



でも,悪いのは私じゃないんですよ?

貴方です
先に約束を破ったのは貴方なんですから





この誓いは,もう壊します
だから,私ももう貴方のものではないんです


分かりますか?


私はもう,貴方の人形ではないんです



































私は,ここの女王
あと少しだけだけど,君臨させてね?

大丈夫
安心して


この仕事が終わったら,すぐに貴方の元に行くから
それまで,もう少し……






もうすぐ,この鎖も崩れる
そうしたら私は自由なんでしょうね


そうなったら,私は逃げるでしょうか?

貴方の元には行かず,己の行きたい方向に歩いていくでしょうか?



それを見た貴方はどう思うでしょうか?

悲しみますか?
怒りますか?


何も思いませんか?









やっぱり,最後の場所はここがいいわね
この木馬は,お気に入りよ


この木馬はね,私と一緒なの
あのヒトによって作られた,お人形
哀れな操り人形


でも,もう操り主さえいなくなった
そんな私達に存在価値はあるのかしら?











ここから見えるのは,腐った世界
理想郷なんてありやしない


そんなものがあるのなら,こんな遊園地も必要ない


あるように見えても,それは上辺だけ
実際そこに存在しているのは,ただのごみ













さようなら,遊園地

楽しかったわ


私,作られてから初めて,この門をくぐるの
くぐってくる人は今までたくさん見てきたけど,私がくぐるのは初めてなの




ちょっと不安

女王がいなくなって,この国は大丈夫かしら?
壊れちゃわない?


大丈夫なら,私は行きます
大丈夫じゃなくても,私は行きます

だって,もうここには戻ってこないでしょうから



私には,新たな遊園地が出来たのです
この古い遊園地はもう閉館です





さようなら



































私の前に現れた哀れな男は私を遊園地の外に連れ出した
外の世界を見たかったけれど,彼は見せてはくれなかった





目を開けると,そこは一つの部屋だった


「今日からは,ここが君の部屋だからね」


また,遊園地が出来てしまいそう


「私は誓うよ」


誓いという言葉は嫌い


「君は,私の×××だ」




「私は,永遠に君を愛そう」





そうですか

では,私からも一つ誓いを立てましょう



貴方は,私のお父様ではありません
私を生み出したあのヒトは,ここにはいません



でも,貴方が私のことをそう呼ぶのであれば,私も呼んだほうが良いのでしょうか?
呼ぶだけでは物足りませんか?



でもね
私にはココロがありません

ただの人形ですから




だから,愛を注ぐことは出来ないのです
これは,決して変えることの出来ない事実です




お父様,私は永遠に貴方の傍に居続けますよ?














それで,貴方が狂気に狂っても,私は知りません
私には関係の無いことです





貴方は私を愛すると誓った


破ることは決して赦されません

分かっていますね?





これは,愛の底無し沼
一度はまったら,絶対に抜け出せない
はまったら,それは貴方の責任です





?


どうして,そんな顔で私を見るのですか?



「愛してるよ」



そうですねぇ






それでは,あのヒトが作ってくれた歌でも歌いまし

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

マダム・メリーゴーランド  ……遊園地といったら,やっぱジェットコースターだよねw!!…………

ここまで読んでくださった貴方
ありがとうございます!


まずは,素晴らしき原曲様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm11958275






今までのペースと比べると,前の投稿から少し時間が空きましたが,
今回は久しぶりに悪ノP様で!!


「何書こうかなぁ……」と丸一日ぐらい,それで時間持っていかれましたw

で,「まぁ,何か書こう!」
と思って,PCの電源入れてるときに,口ずさんでた曲がこれだった,
ということで書かせていただきました!!




個人的には『マダム・メリーゴーランド』→『悪徳のジャッジメント』→『箱庭の少女』という順番での解釈でいきました!

いや,最後っていう選択肢もあったんですけど,
「どんな風に書こうかなぁ……」とか考えてるうちにこの順番になりました



ガレリアン(悪徳のジャッジメント主人公・箱庭のお父さん)は,事故で妻と娘さんを亡くすみたいなので,
それで,ショックで,人形屋さん行って,何か娘と似た人形発見したし! 的な内容ですwww








ご意見・感想いただけると,とても嬉しいです!!
よろしくお願い致します!!!

閲覧数:846

投稿日:2011/04/10 01:13:27

文字数:5,306文字

カテゴリ:小説

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