「さぁ、ここからが本番だ!」
その言葉と同時に突き出される、鋭利な刃。
だがそれはこの男の腕、重音テッドから繰り出されるグロテスクな触手だ。
「うおぁ!!」
その腕は思いのほか長く伸び、俺の鼻先で空を切る。
「どうした?お前からは仕掛けてこないのか?」
奴の顔に浮かぶ余裕の笑みが月明かりに照らされ、同時に俺をにらみつける。
「くっ・・・・・・!」
反撃できぬまま、俺はなおも奴の触手に弄ばれている。
触手の先の巨大な鍵爪が幾度も振り下ろされ、俺はそれを手にあるライフルで受け止める。ライフルの損傷が激しく、これ以上は持ちそうにない。
これでは、いずれ・・・・・・。
「・・・・・・食らえ!」
触手の攻撃が終了した直後に、俺は奴に銃口を向け、引き金を引いた。
「おっと!!」
だが、奴の異常な身体能力でかわされる。
続いて弾丸を放つが、どれも奴の姿を捉えることなく、空しく空中を突き抜けていく。
「ハッ!無駄なことよ。」
触手の鍵爪が俺のライフルを直撃し、破裂音と共にライフルが崩壊した。
最後の武器が・・・・・・いや、まだ麻酔銃が残っていたはずだ。
だが、麻酔銃程度でこいつを無力化することは不可能に等しい。
「遊びは終わりだ!!」
一瞬、奴の攻撃が止んだかと思うと俺の左右にあの触手が伸び、よけるまもなく一瞬で俺の胴体に巻きつき、俺は拘束された状態となった。
「俺はな。お前をブチ壊せまでとは言われちゃいないんだよ・・・・・・だが、あまり抵抗するようであれば少しは痛い目にあってもらうぞ?」
奴の触手が、容赦なく俺の体を締め付ける。
「うぐぁああッ!!」
「さて・・・・・・ではこれからどうしてやろうか・・・・・・なぁに安心しろ。ボスなら多少ぐちゃぐちゃになっても元通りに戻してくださる。」
重音テッドの笑みからいやらしいアクセントの言葉が漏れる。
このまま・・・・・・こんな奴に・・・・・・。
「先ずはどうしてやろうか・・・・・・そうだ。背骨を砕いて立てなくしてやろう。」
やられるのは・・・・・・!!
「ごめんだ!!!」
俺は両腕で奴の触手をつかみ上げ、力の限りねじり上げた。
気色悪い粘液と何かの内臓のようなやわらかい感触が手のひらにこびりつく。
「何ぃッ!」
生物の器官に近いその触手は、俺の腕力で成す術もなく引きちぎれた。
地面に鍵爪が落ち、切れ目から黄色い体液が噴出する。
「うぉあアアアアアアアッ!!!!」
重音デッドが絶叫し、月明かりに苦悶の表情を浮かばせる。
奴の拘束が解かれた瞬間、俺は奴に向けて突進し、力の限り奴の腹部を蹴り上げた。
「ごぶゥッ!!!」
浮力で俺と奴の体が空高く飛び上がる。
「お返しだッ!!!!」
これで、終わりにさせてもらう。
同時に奴の首を握り締め、そして、振り上げた拳で殴打による反撃を開始した。
「は!!」
一発!
「ふんッ!!!」
二発!
「いやあッッ!!!」
三発!
「だぁッッッ!!!!」
四発!
合計四発、俺の拳から放たれた渾身の殴打は重音テッドの顔面に叩きつけられ、奴の体は地面へと叩きつけられる。
着地と同時に、奴の片方の触手が鍵爪を振り上げるが、俺はそれを掴むと全力を振り絞り引き上げた。
これで・・・・・・!
「終わりだ!!!」
「うわあァァァァァァァ!!!!」
重音テッドの体は地面から吹き飛び空中に舞い上がった瞬間、俺の頭上を飛び越え頭部から地面に激突した。
すさまじい砂煙が舞い上がる中、俺は力ない触手を振りほどいた。
やっと終わってくれた・・・・・・。
視線をおろすと、いつの何か俺の体は無残な有様になっていた。
逃走に続く戦闘のせいで、俺の着ている服は所々が張り裂け、泥塗れになっていた。
それだけでなく、重音テッドの触手を引きちぎった際に、その切れ目から噴出した黄色い体液が全身に降りかかり、言葉にできない異臭を放っている。
せっかく少佐が見立ててくれた服が台無しだ・・・・・・あとで弁償を迫られるだろう。
ともかく、これで無事、栄田道子を皆の所に送り届けることができる。
救援が来るのも、あと数分だ。
砂煙が収まり、その中に見えたのは頭部だけ地面に埋もれている奴の姿だった。
あれだけの攻撃を加えたら、流石のこいつも無事ではいられないだろう。
万が一死んでいないとしても、気絶しているのならそれでもいい。
だがたった一人でこいつのお守りをするのは嫌気が差す。
俺は夜空を見上げ、息を吸い込んだ。
「タイト!!タイトぉ!!!」
俺の声が、夜の森に響き渡った。
夜空へ浸透するように響くその声は、タイトの耳にも聞こえたことだろう。
我ながらいい声をしている。これなら、あのボーカロイドに張り合えるんじゃないか・・・・・・いや、まさかな。
そのとき、背後で何か不気味な音が聞こえた。
土の盛りかえるような・・・・・・。
まさか?!
振り返ると、それまで石像のように動かなかった重音テッドの体が動き出し、地面に埋まった頭部が体ごと地中から起き上がった。
「貴様ぁ~~~!!」
「くそッ・・・・・・!!」
やはりキメラの生命力は半端ではないようだ。
ましてや俺の打撃程度では気絶させることもできなかった。
「殺してやる!!必ずぐちゃぐちゃにしてブチ壊してやる!!!!」
叫び声をあげると、奴のちぎれた触手の切れ目から血管や筋肉らしきものが伸び、形を形成し、一瞬で再生してしまった。
「こいつ・・・・・・!!」
「今すぐ・・・・・・死ねぇッッッッッ!!!!!」
奴の両腕が空中に振りあがり、鍵爪が俺に向けられる。
何故・・・・・・何故だ?!
そのとき、どこからか二発の銃声が響き渡り、重音テッドの触手から体液の飛沫が舞い上がった。
「ぐぁッ?!」
「そこまでだ!!!」
声のした方向を見ると、林に続く土手の上でタイトがライフルを構えていた。その横には、キクと栄田道子の姿が。
「タイト!!」
「デル。援護ができなくてすまなかった。だが敵の残党は全て片付けておいた。」
「お前も・・・・・・殺してやるッ!!」
威勢よくテッドが叫ぶが、次の瞬間にはタイトに胸を射抜かれた。
「く・・・・・・おおぉぉおお・・・・・・!!!」
「無駄な抵抗はよせ。もう、お前の負けだ。」
タイトが告げたとき、どこからか地面に響き渡り、振動を起こすような轟音が聞こえてきた。
その轟音が、次第に近づいてくる。
そして、森の上にジェットエンジンの爆音が無数に飛び交い、俺達の頭上で停止した。
巨大な鳥のような機体、それは陸軍が所有する兵員輸送用VTOL、AV-20の姿だった。
『こちら陸軍空挺部隊。アンドロイド諸君、助けに来たぞ。』
SUCCESSOR’s OF JIHAD第五十三話「ABANDON ALL HOPE」
「ABANDON ALL HOPE」(short ver)
song by TEDD KASANE
赤く 染まり行く君
灰に 染まり行く世界
死と苦痛の 混じる風 体を蝕んでく
退廃的で積極的な
この吹きすさぶ風の行方を見つめて
今 この腐った世界と
未だ 腐り切れない僕と
細胞まで入りこんで僕にそっと微笑む幻影 嗚呼 嗚呼 笑う
この 視界に色がなくなっても
未だ それを捨てきれずに
不意に 無意味 痛み 走る・・・・・・
捨て去ろう 全てを
今まで記憶したもの全て「くだらない」と切り捨てて
闇の渦中に 飲まれていく 君の姿さえ
いつか笑いあった記憶
いつか泣きあった記憶
最後に思い出して 静かに涙 零す
喩え記憶のどこかでカケラを拾い上げても
過去なんて無いと 決めた そう全てを捨て去って
耳 悲鳴 嗚呼 鼓膜 立て続けに打ち鳴らし
いつしか僕も亡者の中に引き込まれてゆく
必死に握った君の腕
僕をまた握り締めた
まだ 消えない
今も僕はここにいる 灰色の世界を見つめて
死の淵で見たんだ 君の微笑みを
いつか笑いあった記憶
いつか泣きあった記憶
全て無に帰してしまえば もう何も 失わない
今も僕は見つめてる この風の行く先を 君と
地獄まで ついてきてよ
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