「れ~~ん~~」
名前を呼ばれ、振り返る。
てちてちと歩いているのかかけているのか、わからないスピードでオレを目指しているようだ。
マスターに呼ばれていたのだけど、足を止め声の主を待つ。
オレが足を止めた事に気づくと、嬉しそうにスピードをあげる。
そんなに慌てたら、転んでしまう。そう口にする前に、足を何かに躓かせ前のめりになってしまった。
慌てて駆け寄り、受け止めてやる。
重さなんて感じさせない柔らかな身体。
本来ならば双子であるはずだった……姉。
「れん、どこにいくの?」
転びかけた事など気にも留めずにそう問いかける。
マスターのところに行くと告げると、一緒についてくると言い出した。
「でも、今日は新曲を録音するってマスター言っていたから……」
「れんだけず~る~い~っ! りんも! りんもいっしょに、いくの~!」
駄々っ子モードに入ったリンをとめることは出来ない。
マスターに事情を話すとしよう。
オレは駄々をこねるリンを抱っこし、マスターの元へと急ぐのだった。
鏡音レンの設定としては、性別は男、年齢は14歳で、身長 156cmの体重 47kg。
得意ジャンルはダンス&ロック系ポップスや、歌謡曲~演歌系ポップス。
これは正常にインストールされた。
続いて、鏡音リン。
性別は女、年齢は14歳で、身長 152cmの体重 43kg。
得意ジャンルはエレクトロ&ロック系ポップスとオレと同じ、歌謡曲~演歌系ポップス。
そうなるはずだった。
けれど、マスターがミスしたのか、ソフトに不備があったのか……
インストールされた鏡音リンは設定を完全無視した、未完成状態だった。
年齢は4歳、身長はわずか103cmの体重16Kg。
得意な歌はチューリップの歌。
白いワンピースがよく似合う幼女体系……
少し舌足らずなうえに、ワガママお嬢様だ。
最初、マスターはすぐにアインストールして再インストールをしようとした。
それが当たり前の行動だろう。
オレたちはアインストールをよく思わない。けれど、それを持ち主に悟らせてはいけない。
それが暗黙のルールなのだが、この幼いリンはそんなルールを無視して……泣きやがった。
マスターを散々困らせた結果、アインストールを取りやめ今に至るということだ。
いろいろ調べてみたが、このようなケースはなく原因不明。
マスターに「レン一人で頑張ってくれる?」と聞かれ、頷くしかなかったというわけだ。
「みぎかーったにぃ~むらさきちょぉ~ちょ~♪」
「それは別のレンとリンのマスターが作った曲だから、あんまりマスターの前で歌うなよー? 動画伸びないの、悩んでいるんだからな」
「ねえ、れん~? キスって、ちゅーのこと?」
「そうだよ」
「どうしておへやのすみっこでするの? べつにどこでもいいのにねぇ?」
そう言って頬にキスをされる。……あぁ、可愛いなぁ。
ふと、一つ教えておかないといけないことがあったと思い出す。
「リン、この間会った青いマフラーのやつ、覚えてるか?」
「アイス!」
「違……うのはどうかはさておき、KAITOな?」
そう、先週マスターの友人がKAITOを連れてきた。
そのとき、この状態のリンが珍しいのか、アイツ……ベタベタ触りやがって。
脇とか触って何が楽しいんだっつーの!
(注:兄さんはただ、小さい子をあやしていただけです)
「かいとー」
「そうだ、KAITO。あいつにも、今みたいにいきなりチューしちゃ駄目だからな?」
「どしてー?」
「駄目なものは駄目なんだ! こういうのはな、えーっと……そう、家族としかしちゃ駄目なんだ」
「うー……じゃあ、れんと、ますたーはいいの?」
「んー……マスターはまあ、女の人だしいっか。そう、それだけしかしちゃ駄目」
「わかった! りん、ちゅーはますたーと、れんだけにする~」
「ん、よろしい」
我ながらなかなかの機転の利き方だ。
いや、そこのあなた。ロリ○ンとか言わないで下さい!
オレは大事な姉を如何わしいアイス野郎から救ってあげたのですよ、本当に!
マスターは待ちくたびれていたのか、お気入りのゲームを始めていた。
リンをおろすと、マスターの元に駆け寄り後ろから抱きつき、先ほどのように頬にキスをする。
マスターは驚いたようだったが、少し照れたような笑顔を浮かべリンの頭を撫でていた。
「遅いよー、私は待ちくたびれてしまったよー」
「ごめんって。リンが一緒に来るって駄々こねたんだ」
「それにしても遅すぎるよー」「りんねー、ますたーとれんにいっぱいちゅーするよ!」
「あーもう! 後でそのゲームの裏ダンジョンの行き方教えるから!」「でねでねー、あいすおにーちゃんにはしちゃだめなんだってー」
「よし、それで手を打とう! ……で、何、この子」
ジト目でマスターはリンを指差す。
オレたちの会話に加わりたいくせに、全く別のことを話している。
それはいつもの事なのだが、内容が内容だったからかもしれない。
オレはなんだかさっきリンに言った事が照れ臭くて、そしてなんだか言ってはいけない気がしたために話を逸らそうとする。
それが裏目に出てしまい、マスターは優しい笑みを浮かべたままリンに視線を合わせて問いかけた。
「リーン、どうしていっぱいチューしてくれるの?」
「あのねぇー、りんねー、まえにれんがだいすきなひとにはちゅーするって教えてもらったの!」
「ふむふむ、で?」
「でねでね、りんはね、れんも、ますたーも、みんなだいすきだから、みんなにちゅーしたいの!」
「おー、それはいいことだ」
「うんっ! でもね、れんがねー、あいすのおにーちゃんとはしちゃだめだっていったの。ちゅーはね、かぞくとだけするんだって!」
「ほおおおおおお? アイスって、KAITOのことー? ふーん。そっかぁ。リンはだから私とレンにいっぱいチューするんだ?」
「うんっ!」
リンが嬉しそうにする前でじーっとこっちを見るマスター……
な、なんなんだよ……
「家族と、ねぇ? 私が男だったらそれはどういう言い方になってたのかしら、ねぇ?」
「な、何を……」
「このロリ○ン」
「ち、チガッ!」
「もーいっかい! もーいっかい!」
「それ、アンタの曲じゃないし。しかも私の曲でもないしっ! あぁぁぁぁっ! 今日は録音やめッ! もうやんないっ!」
「あー……だからリン、言ったろぉ?」
「りーんはきょうもこ~ろがりまっす♪」
今日もうちは、にぎやかです。
<つづく……のか?>
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