4 セシル　その1




ギルドに参加し行動してみると、なるほどと思うことがたくさんある。たしかに自分一人でやるRPGとは違う。仲間と協力して行動しないといけない。
一人では難しくてできないことも仲間とならできるようになる。単純で当たり前なことではあるがゲームとしていろいろな人と行動を共にするのが面白い。
　ゲームを始めて2週間くらいたっただろうか、この頃にはレンが夢中になる理由が少しわかってくるようになり、私自身ゲームをする時間が多くなってしまった。
　さすがに学校をサボったりはしないが家から帰ってくるとすぐパソコンを付けるようになった。ギルド内の特に仲のいい人達とはよく行動を共にする。
　ほとんどの人が働いている社会人であり夜ゲームの世界に入って来る。なので一緒にゲームをしていると深夜0時をすぎることもよくあり、私は寝不足の日が多くなった。当然学校の勉強もできが悪くなってきた。少し控えないとだめだなと思っているがなかなかそうもできない。人と一緒に行動していると途中で今日はもう寝ますとは非常に言い出しにくい。これは実際にオンラインゲームというものをやってみないとわからないことではあるが、途中で誰か行動しているメンバーが抜けると、残ったメンバーだけで先に進めるのが困難になるケースがある。なのでみんなで同意してそろそろ終了にしましょうかという話になるまでやめることができない。
　さらに定期的にゲームのイベントで大きな戦争などがあり、ギルドメンバーといろいろな作戦などを立てて行動するようになる。
　私の参加したギルドには50人以上のメンバーがいる。しかし、全員がメンバーとしてそれらしい行動をしているわけではない。名前だけ登録していて全然参加しない人もいる。
　もともとレンがギルド内では主力メンバーとして活躍していた。そのレンにいつも私は付いていたので自然と私もギルドの主力メンバーとなっていた。何かギルドで行動するときや会議をするときには私も参加するようになっていた。そんなふうに図らずとも私のギルド内での地位は上がってきてしまっていたので、なかなかもうあんまりこのゲームはやりませんと言える感じではなかった。と言っても私はゲームをすごく楽しんでいる。ただ、夜遅くまで遊ぶのはどうにか控えたいと考えている。
　レンを夢中にさせ、不覚にも私までも夢中にさせたこのオンラインゲーム。一通りどんなものかを知ることができた。ただゲームをするのではなく他人と出会い協力し、他人と争う。そこが面白い。このゲームが普通に一人でやるゲームだったら私はやってないと思う。
　日本全国、中には海外から参加している数千人のゲームプレーヤと時間を共にする。これはとても不思議な感覚がした。
　だいぶゲームにもギルドにも慣れた私には、気になる人がいた。ギルドマスターのセシルさんである。
　20代半ばくらいで社会人らしいがいつもいる。ほぼ毎日ゲームにINしている。そして夜遅くまでいる。ゲームに関しての知識も非常に豊富である。
確かに最初レンが言っていた通り、セシルさんの知識がすごいというのが今の私には解る。
　このセシルさんのいいところはギルドのメンバーによく声をかけアドバイスをしたり、誰とパーティを組んだほうがいいとか的確に指示をしている。
そのおかげでギルドのメンバーは効率よくゲームを進められている。セシルさんはこのゲームの世界では有名な人らしくいろいろな人から一目置かれている。ゲームのことを中心に書いたブログを持っており、見ている人、ファン登録をしている人が多い。セシルさんがいるということでギルドに入ってくる人もいる。
　そんな彼の普段の行動を見ているとゲームをしているというより人の世話をしている感じである。自分自身の何かやりたいことよりも他人のやりたいことに付き合って行動していることが多い。それは自分よりもゲームキャラクターのレベルが低い人でも差別なしに手伝っている。
　正直な話、自分よりもレベルの低い人と行動するのは自分のほうは得るものがほとんどないのでダルいという点はある。それでもセシルさんは何一つ面倒くさがらずにサポートをする。さすがギルドのマスターだなと私は感心していた。他のギルドのメンバーからも信頼が厚く、マスターに反発する人はいない。実際に私もよくセシルさんに手伝ってもらっている。特に最初レンにこのギルドに連れてこられた後、始めたばかりの私によく声をかけてくれた。クエストを手伝ってくれる上、アイテムもたくさんくれる。なんとなくただマスターとしてやってくれるのではなく、本当に親切で優しい人だというのが私には伝わってきた。そうしていくうちに私はだんだんセシルさんに惹かれていくようになった。



4　セシル　その2へ続く