アイスクリームにミカンにバナナ。そして、マグロの切り身。勿論ネギもたっぷりと!
スーパーで、意気揚々と籠に目的のものを入れていた初音ミクは、買い物メモを確認して表情を暗くした。
(どうしよう・・・・)
万引きをするつもりではないのだが、目的の場所に立ち止った時に店員の視線が妙に気になった。
ソレを手にとった瞬間、店員が犯罪者を発見したような目になりそうで恐い。
実際に、ミクは買うことが許されないものだ。
でも、どうしても欲しい。
普段の明るい表情を曇らせて、ネット界のアイドルは目の前を睨み付けた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
三日前からメイコとマスターの元に泊り込んで収録をしてメイトは、帰路の途中でフラリと寄ったスーパーの意外な場所で意外な人物を見つけてしまった。
珍しい場所に佇む緑の頭が視界に入った時、自然と足がそちらに向いていた。
16歳という年齢設定を与えられている彼女はその可愛らしい顔を顰め、必死に目の前を睨み付けていた。
睨み付けていると言っても、必死に何かを考えている様子はどこか愛らしさがあり、何か困っているのなら助けてやりたい、と思わせる表情だ。
当の本人は必死なのだろうな、と、それほど短い付き合いでもないメイトは軽く頬を緩めながら、不意打ち、とばかりに必死に思考を巡らせているだろうと思われる後頭部に拳を軽く当てた。
「っつ!え?」
「こら、未成年は飲酒禁止だぞ」
「メイトお兄ちゃん!」
突然背後に現れた長身の青年の姿を認めたミクは、先ほどまで顰めていた顔を一気に開放させ、目を見開いた。
「おかえりなさい。メイトお兄ちゃん、お疲れ様!」
「おう、ただいま」
ミクはニコニコとメイトに笑顔を見せながら、キョロキョロと辺りを見回せて、「お姉ちゃんは?」と聞いてきた。
「確か、メイコお姉ちゃんと収録だったよね?一緒じゃないの?」
「俺だけ早く終わったから帰ってきたんだよ。アイツは夜遅くになるんじゃないか?」
「そっかあ・・・」
落胆した事を隠すことなく肩を落とした妹的存在のミクに、メイトは掌で頭を軽くポンポンと叩いてやる。
「まあ、今晩には帰ってくると思うから、もう少し我慢しろ」
「うん」
そう言うミクに苦笑しながら、メイトは「そういえば、」と話を切り替えた。
「なんでここに突っ立ってたんだ?料理酒なら調味料のコーナーだろ?」
先ほどミクが必死に睨み付けていたのは酒のコーナーの棚に陳列する日本酒の数々だった。
ハッと何かに気付いた風に顔を上げたミクは、目を瞬かせながらメイトの腕を取った。
「そうだ!メイトお兄ちゃん!ナイスタイミングだよ!」
「は?」
ミクは目の前の純米酒の瓶を鷲掴みにすると、メイトに突き出してきた。
「お金は後でミクが払うから、コレ買って!」
メイトの存在に異常な程に感動しているミクに、眉間に皴を寄せたメイトは、彼女の足元の籠に視線を下げた。
籠の中のものを確認し、更に眉間に皴を寄せながら、ミクの差し出す瓶を見返した。
「お前、それ何か分かってんのか?」
「分かってるよ。ミクが買っちゃいけないのも分かってるから、メイトお兄ちゃんにお願いしてるの!」
必死にメイトの顔を見上げてくるミクに軽くため息をつき、足元に置かれた籠を彼女の目線まで持ち上げた。
「これ、あいつらの好物だよな?(お前の好物も妙に多いけど)何かのサプライズか何かか?」
「・・・・・・うん」
そう言いながら、ミクは俯きポツリポツリと言葉を漏らした。
「普段ね、ミク仕事で忙しくって皆に何にもしてあげられてないの」
「・・・・・・」
「ミクがどんなに遅く帰っても誰か必ず起きて待ってくれてて『おかえり』って言ってくれるの」
「・・・・・・」
「だからね、皆にありがとうってコトを伝えたくて!特に、メイコお姉ちゃんには本当にお姉ちゃんが好きなものをプレゼントしたいの!」
「・・・・本当に好きなもの?」
「うん!」
「で?コレをお前は自分で買ったって言ってアイツに酌をしてやるつもりなのか?」
「・・・・それは、ちゃんとメイトお兄ちゃんに買ってもらったって言うよ。ミクね、お姉ちゃんがお酒飲んで幸せそうにしている表情が大好きなの!ミクは、一緒に飲んで『乾杯!』ってできないから、だから、せめて喜んでもらうものをあげたいの」
「・・・・・・」
目をキラキラと輝かせて顔を上げたミクに反して、メイトは更に眉間に皴を寄せた。
「お前、本当にアイツの好きなものをやりたいって思ってんのか?」
「うん」
そう言うミクを見下ろし、顎に手を当てて暫し何かを考えていたメイトはミクの手から酒瓶を受け取り、そのまま元の場所に返した。
「え?」
「ちょっと来い」
籠を持っている手とは別の手でミクの腕を掴むと、メイトはそのまま店内を歩き始めた。
(たぶん、あの辺だよな?)
「ちょっと、メイトお兄ちゃん!」
後ろでミクが不服そうな声を上げていたが、そのようなことを気にすることなく、店内をグルグルと歩き回る。
目的のものを見つけ、
「これ・・・?」
「アイツには、コレをやれよ」
そう言って、メイトは掌くらいの大きさに白い液体の入った袋をミクの掌に乗せた。
訳が分からない、という風に見上げてきたミクの頭に先ほどと同じように掌を頭の上にポンポンと乗せながら柔らかい表情を見せた。
「お前、甘酒嫌いか?」
「ううん。好きだよ」
「なら、問題ないな。それくらいならお前でも作れるだろ?帰ってきたアイツにはソレ作って待っててやれよ」
「え?」
ミクは改めて、掌にある『甘酒』と書かれた袋に視線を落とす。
「アイツは確かにどうしようもない大の酒好きの飲兵衛だけどな、自分が好きなものを一人で楽しむってことより、お前とか、リンとかレンとかルカと一緒にいる時間の方がずっと好きなんだよ」
「・・・・・」
腑に落ちない、という表情でメイトを見るミクの頭に、再びメイトはポン、と掌で叩いた。
「甘酒だったら、お前も一緒に飲めるだろ?『乾杯!』ってできるんじゃないのか?」
「・・・・メイトお兄ちゃん」
「一方的に相手が好きなモノをくれてやるより、忙しいお前がアイツとの時間を作ったってコトの方が喜ぶと思うけどな」
「・・・・・・」
世界に認められ、誰からも愛される歌姫は自信のない様子でメイトを見返した。
「本当に、メイコお姉ちゃん、喜んでくれるかな?」
「おい、お前、俺を誰だと思ってるんだ?」
口の端をニッと上げてメイトはミクの顔を覗きこむ。
「俺はメイコの何だ?あいつのことは、俺が良く分かってるんだよ」
そう言いながら、まだ眉間に皴を寄せているその顔の額を指で弾いてやった。
「!っつ!痛っ!」
額を押えて頬を膨らますミクの表情に、メイトが声を出して笑えば、その様子を見ていたミクの表情も次第に解れていくのか分かった。
大丈夫だ。
「お前、アイツのことが本当に好きなんだな」
そう言ってやると、頬をピンク色に染めて勢い良い「うん!」という返事が返ってきた。
「大好き!」
そうか。
その返事に、メイトの表情も緩む。
「もちろん、メイトお兄ちゃんも大好きだよ」といいながら腕を組んでくる妹的存在の少女に対して、メイトは「ありがとよ」と言いながら頭をポンポンと叩いた。
「アイツも、お前のことが大好きだよ」
その言葉に、更に頬をピンクに染めてミクは頬が綻ばせた。
「うん、ありがとう!」
Fin・・・・・・?
【ミク+MEITO】 お酒買って!
ミクとMEITO兄ちゃんです
メイコ大好きなミクの話
何か身体が痒くなるような話ですが、とりあえずのジャブと思って頂ければ幸いです。
メトカコ『ぎゅーってさせて!』 に密かに続いたりして・・・
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