注意:オリジナルのマスターが出張っています。
   カイメイ風味です。
   以上に不快感を感じられる方は閲覧を避けて下さいませ。







 商店街は人でごった返していた。
 私、MEIKOはKAITOと二人きりで、祭に賑わうそこを歩く羽目に陥っている。

「完全にはぐれちゃったねえ」

 そう呟くKAITOは私の手を握って離さない。これでMEIKOさんまではぐれられたら困る、と言われれば抵抗する余地もないし。
 慣れない下駄で人ごみを歩くから、手を引いてもらえると確かに楽だし。
 …別に、離しがたいわけじゃないんだから。

「ま、リンにはレンが追いついてるでしょうし。ルカとミクにはマスターがついてるから大丈夫じゃない?」
「そうだけどね。…僕はちょっとマスターが心配だなあ…」
「…そう、ね」

 やっぱりKAITOもそこが引っかかってたのね。
 マスターにとって七夕は、…色々と複雑な思いを呼び起こさせる日のはず。
 離れて暮らすあの人を思い浮かべずにはいられないだろう。

「…MEIKOさん?」
「な、何?」
「大丈夫、だよ。僕は離れていかないから」

 何よ突然、と言おうとした瞬間、KAITOが握ってくる手に軽く力を込めた。それでやっと気付く。
 …私、ってば。無意識の内に、KAITOの手を握り返してたんだ。

「っべ、別に、そんなこと思ったわけじゃ…っ」
「そう? 手、離さないでね」
「はぐれたら困るんでしょっ、分かってるわよっ」

 って、何イラついてるの? 私。

「んー、それもだけどさ。離れてたら、僕、寂しくて仕方ないし」

 …うわ。
 言葉と同時にするっと絡まってくる指が自然で、普通に受け入れてしまう。
 指と指を絡める繋ぎ方をすると、自然、身体が近くに寄り添う形になるわけで…。

「やっぱりMEIKOさんが近くに居ないと変な感じがするんだよね。本当、織姫と夏彦みたいになっちゃったら、どうしようって思う」

 …ええっと…。
 優しい声が近くから降ってきてとっても心地良いんだけど。何でこいつはさらっとこんな台詞言えちゃうかな。七夕伝説ってそう考えるとほんと切ないわよね。っていうか皆を探さなくて良いのかしら。一応私たち保護者の名目でここへ来たはずじゃなかった?
 思考が現実逃避を始めて、顔が上げられず、足元を見ながら歩みを進める。

「マスターにとって、…あの人は、そういう人のはずだよね…」

 しばらくの間の後。呟くようなKAITOのそんな言葉に思わず顔を上げた。間近な横顔は、私じゃなくて前を見ている。
 ううん。多分、見てるのは前だけど、思い浮かべてる人がいるんだろう。

「…そうね…」

 私もKAITOと同じ方に目線を向けた。多分、今の私と同じ人のことを、KAITOも思い浮かべてる。

 そんな時、かすかに届いた歌声。

「え?」
「あれ?」

 同じタイミングで声を上げたKAITOを見上げると、KAITOもこちらを見てきていた。

「MEIKOさんにも聴こえた?」
「KAITOにも?」
「あれ、ルカちゃんとミクちゃんの声、だよね?」
「相性良い声よね、ほんと」
「あっちみたいだよ」
「そうね」

 周囲の人の何人かも、歌の聞こえた方に目線を向けているおかげもあって、方向を絞るのは簡単。
 手は離さないまま、ひとつ頷きあって、私とKAITOは歌声の元へと向かった。



 春の桜と秋の桜。夏の夜に響く綺麗なハーモニーに、通行人が足を止めていたりする。
 アンドロイド型VOCALOIDはまだそこまで普及していないから、物珍しさもあるんだろう。…まあ、知っている人でも浴衣姿を見たら足を止めそうな気もする。

「あっ、お兄ちゃーんっ、お姉ちゃーんっ」

 私たちに気付いたミクが歌を止めて嬉しそうに駆け寄ってきた。ルカも歌を止め、周囲の観客に優雅な礼をしている。

「…何やってるの?」
「えへへっ、ミク、歌っちゃいましたっ。届いて何よりですっ」

 …お祭りの空気に完全にあてられてるわね、ミクってば。
 観客への礼を終えたルカがミクの隣に並ぶ。

「ミクに巻き込まれた」
「えーっ、ルカだって嬉しそうに歌ってたじゃないですかーっ」
「当たり前だろう? 歌うのは楽しい」
「ですよねーっ」
「ところで二人とも。マスターはどうしたの?」

 KAITOの発言にはっとなった。そうだ、この二人と居るはずなのに。

「あ、マスターですか? 電話がかかってきて、ちょっと行くところが出来た、って言ってましたよ?」
「リンとレンをよろしく、と言われたが…、正直探し当てられる気がしない」
「人が一杯いますからねっ」
「そうしたら、私たちの歌声なら届くかも、とミクが言い出して」
「で、楽しいし歌っちゃったんですっ」

 …これは結果オーライと言って良いのかしら…。
 とはいえマスター、こんな時間にどこへ…? って、考えるまでもない、か。

「なるほどね」
「で、お兄ちゃんとお姉ちゃんはいつま…」
「ミク、言うな」

 何かを言おうとしたミクの言葉を切るルカ。あ、と小さく声を上げて、ミクが口を押さえる。

「何よ?」
「いや、メイコは聞かない方が良いと思う」
「…その言い方はどうなのよ」
「んっと、MEIKOさん」
「何よKAITO、あんたまで」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「え?」

 ぎゅ、と一際強く手を握り締められる。って、そういえばあんな握り方のままだったっ。ミクが指摘しようとするはずだわ…っ。
 思わずKAITOの方を見ると、真剣な青の眼差しがあった。
 そのまま真顔でKAITOが言い放つ。

「居間のエアコンつけっ放しだったの、思い出しちゃった」
「って、莫迦かあんたはーっ!」

 なんて電力の無駄遣いよっ。ただでさえVOCALOID六人も抱えてるってのにっ。

「ほんと、悪いんだけど。こっちのことは僕が任されておくから。お願い出来る?」
「分かったわよっ」

 叩きつけるように答える私をじいっと見つめてくる青の瞳。…って、あ、まさかこいつ。
 少し寂しそうな笑顔…マスターそっくりの笑顔になって、KAITOが手を緩める。
 …繋いだ時と同じように、当たり前のように離れる手。

「ごめんね。よろしくね」

 …ああもう、この莫迦は…っ。

「ミク、ルカ。KAITOと一緒にリンとレンをよろしく」
「あ、はぁいっ」
「1人で大丈夫か?」
「うん。ちょっと足も痛くなってきたし、先に戻るわ。じゃ、頼んだわよ」
「…分かった」

 祭にあてられたミクと、言動には出ていないけどやっぱり楽しんでいるルカを見て。
 最後にちらっとだけKAITOに目線を送ってから、私は家へ戻り始めた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

七夕祭 5

メイコの一人称になると何故か書く速度が上がります。

良く考えたらボカロ六人+マスターを書いてるんだから文章量も増えますよね…。
長くてスミマセンが、続きます。

閲覧数:373

投稿日:2009/07/05 14:20:14

文字数:2,791文字

カテゴリ:小説

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  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    >つんばるさん
    こんにちは~。
    浴衣のせいかむやみに素直なメイコさん。っていうかカイトが色々やりすぎてる気はしますね。恋人繋ぎをさせてみたかったんです。ニヤニヤして頂けたなら何より。
    やっぱり天然タラシですねこのにーさん。いいなあ羨ましい(何

    マスターの事情はこれから出て来ます。小難しい話とか取り交えつつになりそうですが。
    ちなみに、こっそり今までの作品とリンクしていないでもないです。家には大きな笹が飾ってあるのでしょうw

    7人。書き分け…られてる、でしょうか? たまに台詞だけで話を進めたりするので。
    自分の中では分かってしまう分、ちゃんと伝わっているか不安になります…。でもやります。頑張ります。
    応援有難う御座いますっ。

    2009/07/05 13:01:18

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    浴衣デート浴衣デート!( ゜∀゜)o彡゜カイメイカイメイ!( ゜∀゜)o彡゜
    ……すみません、自重なんてどこかにぽいして忘れてきたつんばるです(ダメだこいつ

    なんだかんだで結局カイトにされるがままのめーちゃんを見て、これはいいツンデレとひとりニヤニヤしておりますw
    目と目でわかり合っちゃうカイメイがすんごくいい雰囲気な反面、マスターさんの事情が気になります……。
    総勢7人を書き分けるってたいへんですよね……自分は無理やり少人数にしてごまかす癖があるので見習いたいです。
    それでは、次回もたのしみにしておりますー!

    2009/07/05 09:44:33

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