俺様天才プログラマ
「ただいま戻ったでおじゃる」
外観からは廃墟に等しい軽度汚染地域の一角、そこに『絶叫の悪魔亭』はあった。まるで大昔の酒場みたいな妙な名前だが、その栄華は朽ちている看板とともに既に失われていた。
樫の木で出来た分厚い扉の先は暗く、人の気配は感じない。がらんどうの広間に調度品はほとんどなく、倒れた円卓と足の折れた椅子がいくつかあるのみだった。
「誰もいないな。仲間が何人かいるんじゃなかったのか?」
軽く床をつま先で擦ると埃が舞い、訝しむ。
「そのはずだが……。ジハドどのそこを歩いてはならぬっ!」
ビュン、と微かな風切り音がジハドの鼻先を掠めた。なるほど、ここの床は通行用ではなく罠のためにあるのか。
「あぶねぇな、トラップの位置くらいはあらかじめ――」
言いかけ、
「ずっきゅ~ん、わたしの胸に恋のキューピッドが!」
「3分クッキング!」
「ゆ、夕澪どの、痛くないのでおじゃるか……」
ずびゅっ、と深々と突き刺さった矢を抜いた夕澪だが、見る見るうちに傷が塞がり全く負傷した様子はない。
「ときめいちゃったっ☆」
「いや、普通死んでるだろ。というかやっぱり不死身なのか」
「まぁあの世の管理人アビリティは伊達じゃないってことで」
世の周りは怪物ばかりだな、とタロウは小さく嘆息するのであった。
「こら、なに遊んでんのよあんたたち。早くしないと置いてっちゃうんだから」
声がしたほうを向くとサクヤが天井に張り付いていた。まるで、
「おっきいヤモリぃ~」
「違うわよスク水女! これはトラップを回避しつつ埃まみれの部屋に足跡を残さないという画期的な――」
すいすいとマテリアルスーツを解除して部屋を渡りきったジハドは煙草をふかし、夕澪はあぐらをかいてあくびをしている。
「あんたたち、絶対ろくな死に方しないわよ」
『いえ、もう死んでますので』
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