♪理戒フノオ目線
「ツルツルなシンクなんか俺たちが汚してやるぜエェー!」
「だ、誰か助けてーー!!」
薄っぺらな登場曲と、スタッフの合図を聞いて舞台に走る
「とおぉぅ!!マダムの味方スポンジマン!キッチンの平和は俺が守る!!」
よし、今日は効果音とブレてない完璧だ……って、違う違う!!飲み込まれるな俺ぇ!!
なんで、こんな、どうして、こうなったんだ――
1ヶ月前。ちょっと出かけた先にあったデパートの入り口にでかでかと張り出されていた『アルバイト急募!』の張り紙。あの時給料額を見なかったらこんなことには…
我ながら馬鹿だと思う、気付くのが遅かったが。たった週3日であの額は絶対裏があるに決まっている。にも関わらず迷わず担当者の携帯にコールしていた。
「うひゃー!いいのが連れたね!!オネエ!」
「だからオネエじゃなくて雄音(オネ)!変に勘違いされるからやめろよ!」
「勘違いも何もそうじゃーん」
デパートの談話室に呼ばれ担当者らしからぬ女と、何故か高校生ぐらいの男が対面に座っていた。
「あの…面接とかはいいんですか?」
会話が止み、女が履歴書に軽く目を通しこちらを見る
「えーっと、不能君?」
「フノオです」
「あっはは、ごめん☆君、採用ね」
「……はぁ!?」
面接もなしに採用だった。それから聞いた話だと『身長185cm以上の長身の男』を満たしていたら誰でもよかったらしい。
「え。あの、まず何をする…んですか?」
「あー、私堅苦しいの嫌いだから敬語やめてねん。自己紹介が遅れました。化音粧ショウ、脚本役者監督やってまーす!で、こっちのガキがオネエちゃん♪」
「だからネを伸ばすなって!…えっと雄音スティです、脚本演出たまに役者と監督補佐してます。高校生です」
「私の弟分なのよ。舞台とか興味あるらしいからバイトで手伝ってもらってんの」
「…はぁ。で結局何するんですか?舞台とか監督とか」
「あー、うん、フノオ君にはねーヒーローやってもらうわー」
然も自然に、履歴書を見つめ持っていたボールペンを回しながら、さらっと
「…はぁ!?ヒーロー!!?」
というのが事の始まり。それから俺は週3でデパートの屋上でヒーローになった。
いくら屋上の舞台とはいえ覚えることは多いのにたった1週間の研修期間で演技やらいろいろ教え込まれて、それからの3週間は流れを掴みつつなんとか乗り越えてきた。
「表れたなスポンジマン!すでにシンクは我々セッカイーが占拠している!遅かったなァ」
「ふふふ…それはどうかな?」
腰に繋がってる道具から霧吹きとスポンジを手に取り効果音に合わせてポーズを決める
「そ、それは!!」
「いくぞ!お酢スポンジクリーンアターック!!」
「うわアァ!!やられたアアアァ!」
お決まりの動きで悪の手先は退場する。うん、ここまではいいんだ…普通の安っぽいヒーロー劇なんだ。だが
「…やってくれたわね、スポンジマン!」
BGMがガラッ、と変わる一度照明が消え、スポットで舞台袖からヤツが現れる
「アタシの大事な手下をよくもお酢臭くしてくれたわねぇ?」
「垢の女王ライムスケイル!!貴様も綺麗に掃除してやる!」
観客席最前列の野郎数人が喚声を上げる。それもそのはず出てきたのは化音粧ショウ扮する悪の親玉。…無駄に布面積の少ない子供向けとは言えない衣装と女王様キャラにヘンなファンがついているらしい
「こうなったら人間を手当たり次第汚してやるわ!!お前たち、行きなさァい!」
手先2人が観客席を走り回る、無作為に客1人を舞台に連れてくるのがいつもの流れ。それでソレを助けて、ライムを倒して、終わり。それが『いつも』
「連れてきましたライムスケイル様!」
「ご苦労。私に手を出せばこの少女がどうなるかわかってるんでしょうねェ?」
連れて来られたのは紫の長髪の女の子…って。シヲおぉおおぉぉ!!?
「姫サマ―――!!」
観客席からものすごい聞き覚えのある声と共にこちらに駆けてきたのは……ケイ。
「貴様…姫サマをどうする気だ!!」
舞台に飛び入りショウを睨み付けるケイ。ショウは一瞬目を丸くしたが、すぐに不敵な笑みを見せた
「どうもこうも貴方のかわいいオヒメサマを汚してあげるって言ってるのよ?」
ノるのかよ!!続行ですか!?
流れぶち壊して入ってきた勇者(笑)に、新米ヒーローは狼狽えるしかなかった……じゃ、ダメなんだよな。はいはい。アドリブですね、わかります。客も新しい展開に興味津々じゃねーか。
――いいぜ、やってやるよ
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