「私の事を殺してって言ったら、あなたは私を殺してくれる?」
何を言っているんだ、コイツは……。
目の前にいるのはいつものミクで、いつもより機嫌が良くて、笑顔がちょっと可愛かった。
なのに……そんな笑顔で、何でそんな物騒な事を言ってるんだよ。
「お前……何言ってるんだよ」
やっとの事で声を絞り出した。掠れてる。格好悪いな、オレ……。
「私はもう、疲れたわ。誰もいない日々を過ごすのは……。私はずっとひとりなのよ。これからもずっと……きっとひとりで生きていくのよ。でも、もうそういうのは終わりにしたいの。ひとりは、もう嫌なの」
「な、何勝手な事を言ってんだよ。お前はひとりなんかじゃないだろ。ミライだって……それに、今はオレだっているだろ」
「そうね。ミライは可愛いわ。あなたの事も、嫌いじゃないわ」
「だったら良いじゃねぇか。そんな物騒な事、言うなよ」
「物騒な事……か」
ミクは静かに笑った。それも最上級の笑顔で。でも、その瞳は何か遠くのものを見ていたようだった。とびっきりの笑顔なのに、何故か悲しく見えた。
「ケイ……私の体にはね、無数のナノマシンが埋め込まれているのよ」
「ナノ……なんだ、それは?」
「あなたの言う、旧時代の技術よ。ナノマシンは、私の体を自動的に修復してくれるの。酸素があれば自己増殖もできるし、私の動力になる電気を作る事もできるのよ。ハード的な損傷は、このナノマシン自体が材料になって、私の体の一部になっていくの。人間が、新陳代謝で細胞を入れ替えていくようにね。
このシステムのおかげで私は、アンドロイドの宿命であるメンテナンスから解放されたのよ」
「……すまない。お前の言っている意味が、よくわからないんだが……」
「つまり、私はずっと生きていく事ができるの。それこそ飲まず食わずで何十年でも、何百年でもね」
オレは言葉を失った。ミクの言っている意味の半分はよくわからなかったが、彼女の笑顔に隠れている寂しそうな瞳を見ていれば、それが彼女にとって辛い事だという事は痛いほど理解できた。
「でも……それでも、お前はひとりじゃないだろ? 凄く長生きできるからって、ひとりじゃないだろ? ミライだってお前の事が大好きだし、オレも……オレも、お前の事は気に入っている。だからひとりじゃないだろ?」
「じゃあ、あなたはあと100年も200年も生きられる? 私と一緒に、それだけの時間を過ごせる?」
「そ、それは……」
「つまり、そういう事なのよ。私は生きている限りずっとひとりなのよ。どんなにどんなに好きな人がいても、どんなに愛している人がいても、みんな私より先にいなくなるわ。いつも最後に残るのは私……」
彼女は俯いた。細い肩が震えていた。拳を握りしめて、何かに堪えているようだった。
「ミク……」
オレはなんて言葉をかけて良いかわからなかった。彼女の悲しみは痛いほどよくわかった。だが、オレにはそれをどうにもできない。彼女の孤独を癒すことなんてできやしない。自分の無力さに打ちひしがれる思いだった。
手のひらが痛かった。見てみると、無意識のうちにオレも拳を固く握りしめていた。爪が、手のひらに痛いほど突き刺さっていた。この痛みが、オレの胸にのし掛かるやり場のない息苦しさを取り去ってくれれば良いのにな……。
「ねぇ、ケイ……」
気が付いたら、ミクは顔を上げてオレを見ていた。彼女のその大きくて綺麗な瞳は潤んでいた。
「お願い……私を殺して……」
な、何を言ってやがるんだ!
だが、その想いは声にはならなかった。ミクのあまりにも悲痛な声に、オレは声を失った。胸が痛かった。まるで全力疾走をしたときのように息苦しくて、いくら空気を吸い込んでも楽にはならない。だから声が出なかった。
「もう嫌なの。あなたに出会っても、きっと私の方が残ってしまう。好きな人がいなくなるのは、おじいちゃんの時だけで十分よ! あんな思い、もうしたくないの!」
ミクは泣きじゃくっていた。小さな子供のように。
そんな彼女を見ているだけで、オレの胸はますますきつく締め上げられた。何か慰めの言葉でもかけてやりたかったが、オレの口からは情けなく漏れる空気の音しか出なかった。
「……あなたになら、殺されても良いわ。あなたは頭が悪くて鈍感で目つきが悪くて、私の好みじゃないけど……でも優しくて、私の我が儘にも憎まれ口を叩きながらもちゃんと付き合ってくれて……あなたのそういう所は、好きよ。だからお願い……」
懇願するように、オレの顔を見上げている。彼女の頬を流れる涙は、とても綺麗だった。綺麗な分だけ、それは悲しかった。彼女の純粋な想いが、涙という形になっているような気がするから。
「おじいちゃん達が見てくれてるから、怖くないわ。むしろ嬉しいくらいなの。やっとおじいちゃんと同じ所に行けるんだもの……」
彼女は一度目をつむった。そして再び目を開けた時には、その瞳に固い決意が込められていた。何に対しても、決して曲がることのない強い意志。ずっとひとりで生きて生きた事に対する、決別を強く願う想いが形になっていた。
そして彼女は──ミクは言った。
「ケイ……私を殺して」
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