カイトとアイスとクリスマス!(後編)
『ミクさん、クリスマスの予定は?』
『今彼氏いないんですよ~。でも仕事優先で頑張ります!』
聞き覚えがある声にカイトがぴくりと反応して振り返ると、そこには家電量販店に陳列された液晶画面に映るミクの姿があった。
「なんだか、随分遠いところに行っちゃったみたいだなぁ。」
つい先日世界大手の企業とのCMを成功させたミクは今や日本人の多くが垂涎するトップアイドルに成長してしまった。昔デビューした頃は注目どころか、寧ろ非難されることの方が多かったのに。それは彼女の持つパワーが呼び寄せるものか、或いはそれを支えてきたファンの力によるものなのか。いずれにせよ、今の僕に比べれば。
「・・帰ろう。」
ぽつり、と疲れを吐き出すように、カイトはそう呟いた。家を出てからもう三時間程度が経過している。そろそろ、メイコも静かに寝ている頃だろう。
そう言えば、メイコはどうして普段飲まないシャンパンなんて用意していたのだろうか。普段は日本酒が中心なのに。
「もしかして、めーちゃんも寂しかったのかな・・。」
あのシャンパン、本当は皆でクリスマスパーティをする為に用意したのだろうか。せめて自分だけでもメイコに付き合ってやればよかっただろうか。そう思いながら、家路へと向かう途中でカイトはふと思い立ち、コンビニへと足を運ばせた。メイコが好きなワンカップと、適当なつまみ。それから自分が好きなハーゲンダッツのアイス。それらを購入して、カイトは家路に着いた。
「ただいま。」
そう言っても、呼びかけに答える反応はない。そのままリビングに向かうと、案の定メイコがソファーの上ですやすやと休んでいた。付けっぱなしのテレビに映っているのは先ほどカイトが見たものと同じ、ミクが出演している生放送だった。床に転がる大ジョッキの様子を見ると、どうやらメイコは自らで日本酒とシャンパンのカクテルを飲み干したらしい。
「全く、風邪を引くよ。」 ぽつり、とカイトはそう言いながら、寝室から毛布を拝借して、そのままメイコの上にそれを被せた。どうやらメイコは熟睡しているらしく、当分起きる様子も見えない。
「結局、今年も一人かぁ。」
カイトはそう呟きながら、自室へと戻ってパソコンを立ち上げた。先ほど購入したハーゲンダッツを開封している間にパソコンが立ち上がる。そのままブラウザを立ち上げて、カイトは一口アイスを口に含みながら、慣れた手つきで二ちゃんとニコ動を立ち上げた。そのまま、ニコ動のランキング上位に上がっていたある動画をクリックして、カイトは一つ溜息を漏らす。
『リア充爆発しろぉおおおおおおお!』
ヒャダインの『クリスマス?なにそれ美味しいの?』へと痛烈なコメントを放ちながら、カイトは同志の多さに感動して、そして。
ほろりと悲しい涙を流したのであった。
「もう、寝るならパソコンを消してから寝てよね。」
呆れるように、ミクは机に伏せながら寝息を立てるカイトに向かってそう言った。
「リア充爆発しろ、かぁ。昔私もそんな歌を歌ったなぁ。」
ふふ、と懐かしむような口調でミクはそう言うと、カイトの背中を強くさすった。
「ん・・。」
「兄さん、起きて?」
「ああ、ミクか。・・お帰り。」
まだ寝ぼけている様子で、カイトはミクに向かってそう言った。
「ただいま、兄さん。ね、早くリビングに来て?」
「リビングに?」
「そ、あとはカイト兄さんだけなんだから。」
一体なんだろう。そう考えながらカイトはミクに促されるままにリビングへと足を運んだ。そこには。
「もう、遅いよカイト兄さん!」
不満そうな声で、リンとレンが声を合わせてそう言った。
「お待ちしておりましたわ、兄さん。」
続けて、ルカが酒瓶を片手にしながら口を開く。そして。
「カイト、早くしないと全部食べるわよ!」
メイコも待ちきれない、と言う様子でグラスを手にしながらそう言った。
「え、これ、何?」
「遅い時間になっちゃったけど、クリスマスパーティよ。」
「え・・?」
ぱちくり、と状況が理解できない様子でカイトは瞳を瞬かせた。そのカイトに笑いながら、ミクが言葉を続ける。
「最近、皆で一緒にいることが少なくなってしまったから、クリスマスくらいはって、兄さんと姉さんには内緒で準備していたの。」
ふふ、とミクは悪戯っぽい笑顔を見せた。
「それなら、先に言ってくれれば・・。」
カイトが拗ねるようにそう言うと、ミクは軽く首を振りながらこう言った。
「クリスマスだから、という理由だけじゃないの。私達がこうして、今有名になって、世界中の皆から賞賛されている存在になれたのも、私達の道を兄さんと姉さんが作り上げてくれたからだって、私思うの。だから、少し驚かせたくて。」
ふふ、とミクは笑った。言葉どおり、まるで天使みたいに。
「では、早速乾杯といきましょうか。」
続けて、ルカがそう言った。先ほどから手にしていた酒瓶をカイトに向かって差し出している。
「このお酒は?」
「クリスマスからは趣向が外れますけれど、日本酒ですわ。」
「日本酒?」
不思議そうな顔をしながらカイトはミクに手渡されたグラスに注がれる日本酒をじっくりと眺めた。芳醇に香る、上品な酒の香りがカイトの鼻を優しく撫でる。なんだか、とても高価なお酒みたいだなぁ。
「越乃寒梅、大吟醸よ!もうこれが飲めるだけで幸せ、日本酒の最高傑作よ!」
表情を上機嫌に緩めたままで、メイコが思わずという様子で舌なめずりをした。
「本当はシャンパンとか、ワインとかが良かったのかも知れないけれど、お酒を飲むのはメイコ姉さんとルカさんだけだし、どうせならメイコ姉さんが好きな日本酒を、と思ってプロデューサーに頼んでおいたの。」
ミクのその言葉を耳にして、ああそうか、とカイトは考えた。先ほどミクが電話で言っていた例のモノ、とはこの日本酒のことだったのか。
「それから、これはルカさんが。」
続けて、ミクがテーブルの中央にあるケーキを指差した。一見、普通のクリスマスケーキに見えるものだけれど。
「ジェラード専門店から取り寄せたアイスケーキですわ。カイト兄さんが喜ばれると思いましたので。」
おっとりとした口調で、ルカがそう言った。その言葉に、カイトは思わず瞳を輝かせる。
「これは凄い!これ全部アイスなの?」
「ええ。沢山召し上がってくださいね。」
優しく、ルカがそう言って笑った。
「私達だって、ちゃんと用意したんだから!」
続けて、我先にと口を開いたのはリンだった。
「僕たちはノンアルコールのシャンパンと、それからフライドチキンを用意したんです。」
楽しそうに笑いながら、レンがシャンパンを開封しながらそう言った。ケンタッキーのフライドチキン、ざっと10ピースほどはあるだろうか。それに適当につまめるような宅配ピザにナッツ類。それらが所狭しとテーブルに用意されている。
「さ、兄さん、乾杯しましょう。」
やがて全員のグラスが整うと、ミクがカイトを促すようにそう言った。ほんわりとした気分を味わいながら、カイトは笑った。そして。
「乾杯!」
グラスをあわせて、注がれた日本酒を口にした瞬間、カイトはほろりと、先ほどとは違う感情で、その瞳をぼんやりと潤ませた。
皆様、家族で、恋人同士で、たとえ一人であっても、どうか良いクリスマスを。 メリークリスマス!
【クリスマス特別企画】 カイトとアイスとクリスマス!(後編)
みのり「皆様メリークリスマス!ついでに試験的に初めてiPadから投稿しています。不具合がでたら申し訳ありません。」
満「さて、今回特別編ということで二度目の短編を書かせていただきました。前回のハロウィンに調子付いて今度はクリスマスだ。」
みのり「なんかいい話になってるような気がするんですけど。」
満「うん。もともとこの作品は非リアのカイトがリア充爆発しろと叫んで終わるだけの話にするつもりだったんだが。」
みのり「書いている内に、こんな内容になってしまいました。」
満「どんどん成功している妹の姿を見て、複雑な心境を抱える兄貴と思いやりのある妹とか、そんな姿を見てとってくれれば嬉しい。」
みのり「流石ミクさんってとこね!」
満「それはよくわからないが・・。」
みのり「それより早く終わらせてデート行こうよ満。」
満「世の中にはリア充爆発しろと心の奥底から叫ぶ人間がだな・・。」
みのり「それはそれ。これはこれ。早く行こうよ~!」
満「やれやれ。仕方ないな。」
みのり「ではでは、私たちもクリスマスを堪能してきますね☆次回またコンチータ様でお会いしましょう☆来週になったらゴメンなさい。。では、よいクリスマスを!」
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ご意見・ご感想
sunny_m
ご意見・ご感想
こんにちは、sunny_mです
wwwカイトさんwwwww
切ないやら爆笑やら最後はほろりときちゃうやら、です
個人的には非リア充なうえに風邪ひきだったのでこのカイトさんに負けず劣らずでした(笑)
レイジさんがボカロをボカロとして書くのってあまりないですよね?
(コンビニはそうかな?)
なのでとても新鮮でした!
そうかレイジさんが書くと、皆はこんな雰囲気になるのか~、と。
最後は幸せの涙を流せてよかったね、兄さんw
それでは!
2011/12/25 16:29:52
レイジ
コメントありがとうございます!
楽しんでいただいて幸いですw
風邪気をつけてください・・お大事に☆
そういえばあんまりボカロボカロした文章書かないですねぇ・・。
書くきっかけがなかったといいますか。
いや単純に、クリスマス=ぼっち=カイト=お笑いという構図がふっと今月の頭くらいに浮かびましてww
(レンやガクポはなぜかそういうイメージがわかなかったので。兄さん不憫ww)
真面目な文章が多いので、たまにはこういう文章もアリかな、と。
ではでは、残り少ないですがよいクリスマスを☆
2011/12/25 19:09:22