心は風に、意識は宿に、荒れすさぶ海に体はある。すべては別々の位置にあって、一つを形作っている。
心は風に乗ってどこか知らない場所に飛んでいってしまった。意識はじっと宿にいるばかり。荒れすさぶ海にあって体はもみくちゃになっている。
意識は残酷なまでに明晰だ。恐怖に怯え、寂しさに震えている。どこかに飛び出すことも、叫びだすことも求められていない。
あぁ心をどう捕らえよう、あぁ体をどう掬い上げよう。離れ離れのそれぞれは、風吹きすさぶ原野に建てられた、一つの宿の夢を見るのだ。
彼らは一つに繋がっている――。それゆえに同じ夢を見る。
ある日風の気ままな運びに連れられて、高波が乱暴に弾いたその先が、意識の待つ軒先であったらと彼らは願うのだ。
偶然に彼らが一堂に会した時、彼らは寄り添って眠るのだ。長い長い長旅を終えて、深い深い安堵に包まれて、彼らは一つになって眠るのだ。彼らが過ごした長い時間は語るべくもない。彼らが離れていた時も、彼らは一つであったのだから。
それでも一つになった時、それぞれは別の夢を見る。心は、なぜ吹き飛ばされねばならなかったか。意識は、どうして平静に保って居なければならなかったか。体は、どうして流れに委ねねばならなかったか。それぞれが、それぞれの理由を、突き止める旅に夢の中で出発するのだ。
彼らは一様に、以前一つだった場所に、夢の中で立ち戻る。
そこで彼らは、ばらばらになった理由を知る。心を放り、意識を保ち、疲れるに任せて体を投げ打った。そうしなければ生きられなかった頃に――。
心はそっと夜風に乗って、星空の下に舞い出て、体はばたばたと暴れて宿を立ち、意識は眠りこけて、そっと涙をながすのだった。
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