UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」

 その22「マネージャーさんの名前」


 試験開始の四十分前、わたしはいつも練習で使っているレオタードを着て、上に学校のジャージを着た。
 更衣室を出ると二人の女の子が立っていた。
 二人は丁度ロッカーのキーを受け取ったところだった。
 ピンクの髪の子と栗色を髪の子は同時に振り向いた。わたしを見て足を止めた。
 背丈は二人とも同じくらいで、わたしより少し低そうだった。
 二人の表情は見事に無表情だった。
 二人はわたしの横を通り過ぎ、足早に更衣室に入っていった。
 二人に鍵を渡し終えたマネージャーさんが、わたしに会釈をした。
〔え? どうしたんだろう?〕
「この後、別の仕事の予定があって、行かなきゃならないんだ」
 ああ、そうですか、としか言えない。でも、何とか社交辞令に変換した。
「残念です。マネージャーさんに見てもらえたら、勇気が湧いてくるような気がしたんですけど」
 マネージャーさんの顔は苦笑いだった。
「はは、無理しなくていいよ」
 一瞬で見破られたみたいで、なんだか恥ずかしい。
「ごめんなさい」
 マネージャーさんの気分を害していないか、少し心配になった。
「いや、いいんだよ。これから試験なんだから、そういった気を配れるのが、ちょっと驚き、かな?」
 さわやかというより薄味の笑顔に、大人だなあと感心してしまった。
 それが本心ではないかもしれないけど、マネージャーさんの笑顔は悪くないと思った。
「マネージャーさん、お名前、伺ってもよろしいですか?」
 いつまでも「マネージャーさん」では、この先支障が出るかもしれない。
「ああ」
 一瞬、マネージャーさんはぽかーんとした。
「まだ自己紹介してなかったっけ?」
 あれ。そう言えば、ユフさんのコンサートの時、名前を聞いた気がする。
「僕は、重音哲人(かさねてつと)。事務所のみんなからは『テッド』って、呼ばれてる」
 ん? 今、「かさね」と聞こえたけど。
「重音テトは、僕の従姉妹なんだ」
 そう言われれば、どことなく面影が似ていなくもない、かな。あ、髪の毛だ。縦にロールしてる。揉み上げが少し捻れてて、長い髪の先がロールしてる。
 二十年、テトさんは努力を続けたと言っていた。マネージャーさん、じゃなかった、テッドさんなら、どんなに努力したか知ってるんだろうな。
 聞いてみたいことは沢山あったけど、お仕事の邪魔はできない。
「そうだったんですか」
 少し驚いたふりをしてしまった。本当は、簡単にスルーしてはいけないことなのかもしれないけど、今のわたしはこれが精一杯。
 テッドさんは察してくれたのか、優しい笑顔を向けてくれた。
「時間があったら、昔話でよければ、聞かせてあげるよ」
「はい、そのときは、よろしくお願いします」
 「じゃ」と軽く手を振って、テッドさんは廊下を曲がっていった。
 わたしは椅子に腰を下ろして二人の視線に気付いた。
 小綺麗なスポーツウェアを着た二人はそれだけで可愛らしくて、ちょっと見蕩れるほどだった。スポーツウェアに金色の糸で校名が刺繍で入っているが、同じ市内には無い知らない学校だった。
 茶色い髪の子はわたしの横の椅子に腰を下ろした。

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UV-WARS・ヨワ編#022「マネージャーさんの名前」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「紫苑ヨワ」の物語。

 他に、「初音ミク」「重音テト」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/04/15 09:16:44

文字数:1,367文字

カテゴリ:小説

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