鉄の階段を、駆け上がった先に到着した俺は、まず最初に、絶句した。
眼前には、視界を覆いつくす程の巨大な何かが聳え立ち、その周りを色とりどりの作業服を着たクルーが忙しなく駆け回っている。
「これって・・・・・・。」
隣のワラが驚きのあまり声を漏らした。
確かに、突然こんなものが視界に迫ったら言葉をなくすだろう。
だが、俺にはすぐに判断できた。
これが艦長が言っていた、クリプトン製の新型空中攻撃管制機だろう。
雪峰のフライトデッキを丸々多い尽くしてしまったそれは、端から端を見渡してみると、まるで鶴のような細い胴体に前進翼を組み合わせた、巨大な戦闘機のような航空機だった。
その巨体はB-1ランサー爆撃機を軽くしのぎ、フライトデッキの約三分の一を占領してしまっている。
それにしても、ここまで巨大な機体がどうやって着艦したのだろうか。
「あ、おいデルーーー!!」
「ワラさーん!」
聞き覚えのある声のしたほうを見ると、そこではタイト達と共にいる神田少佐とシクが手を振っていた。
「こっちだ!早くこーい!!」
少佐の下に駆け寄ると、セリカ、網走博士のほかに、色の黒い細身の男が経っていた。
「少佐。この男は?」
すると男は怪しい笑みを口元に浮かべた。
「まぁまぁ、ご挨拶は機内のミーティングルームでしようじゃんか?」
その笑みといい、輝かしいスキンヘッドといい、敵意を感じさせない表情ではあるが何気なく気に入らない男だ。
この男は軍の人間か、或いはクリプトン社員か?
「そうだな。みんな、入ってくれ。時間がない。」
少佐に促され、俺達は名も知らぬ機体のタラップを上っていった。
その直後、機内にエンジン音が響き渡った。一体どうやって離陸したのだろうか。
あまり余裕のない通路を通り、俺達はとある天井の低く広い部屋に通された。
スクリーンとプロジェクターがある限り、恐らくここで、具体的な作戦内容が説明されるのだろう。
あの色の黒い男がスクリーンの前に立った。その傍らには、何か物資のつめられたコンテナが大量に山積みされている。
「さて、皆さん現状はもう十分ご理解しているようですし、では自己紹介から行くかね。ようこそ、クリプトンの新型空中攻撃管制機、Soarへ。俺はクリプトンから自ら本作戦に参加することを志願した、クリプトン・フューチャー・メディカルズの社員。名はあえて出せないが、今は「クロギン」と呼んでくれ。このたびは君達にこちらで用意した、今現在使える装備品の全てをここにいる君達に提供しようというわけだ。ナノマシンによるロックは掛かっていないから、安心して使っていい。あーそうそう。君と、君。確かタイト君とデル君だったね。」
「何だ。」
俺とタイトの声が重なった。
「水面基地に置いて来たスニーキングスーツと、後これ、追加の装備類もはいってるから・・・・・・いょっと・・・・・・。」
クロギンと名乗った男は、両手でコンテナの一つを持ち上げ、俺とタイトの足元に一つづつ置いた。
確かに、この会社員のような格好のまま任務には臨めない。
そして、恐らくこの任務に動員されるであろうキク、ワラ、ヤミ、シクにも俺達より巨大なコンテナを渡された。
だが、ミクには何も手渡されなかった。
「あれ、君は陸軍アンドロイドのリストにはのってたっけ?悪いけどこれ以上は用意されていないんだよ。」
「構わない。」
ミクは静かに答えると、腰に装着された高周波ブレードのグリップに手を置いて見せた。
「わたしにはこれがある。だけど、これで絶対に人は斬らない。これは斬るためじゃなく、護るためにあるから・・・・・・。」
「なるほど。なかなか気高い精神だね。ま、頼りにしてるよ。」
クロギンとミクのやり取りで、俺は改めてミクがこの場にいることを疑問に思った。
そうだ・・・・・・。
ミクがいくら元軍用にせよ、俺や少佐の下に全くの字用法も送られず、突如として研究所に現れ、成り行きから仲間に加わった。
俺以外の誰も特にそのことに疑問を持たなかったが、今となってみればあまりにも不自然だ。
一体彼女は、誰の手引きで装備を身に纏い、戦場に現れたのだろうか。
それにもう一つ疑問がある。
俺達が研究所から脱出する際に使用したブラックホーク。
あの機体は無論敵のものであったから、当然ロックが掛かっていたはずだ。
だが、あれは普通に機能し、その上銃座のミニガンも普通に使うことができた。
火窪町の山中からVTOLを使い離脱した際も、彼女はナノマシン抑制剤の注射器を大量に所持し、そして当然のごとく一度機能停止したはずのVTOLも再起動させた。 これは何故だ?
もしやミクは軍ではなくクリプトンと関係を持っているとも考えられたが、このクロギンという男が何かを知っているようには見えない。
軍でもクリプトンでもなければ、ミクは一体・・・・・・?!
俺が疑問に思っている間に、少佐が前に立ち、プロジェクターから投影される映像をスクリーンに映し出した。
「それでは残された時間が少ないので手早くブリーフィングをはじめよう。」
その脇の机で、セリカ素早い手つきでノートPCのキーを叩くと、スクリーンに巨大な施設の映像が映し出された。
数本の滑走路に、ロケット発射用のマスドライバー。一目で航空開発にかかわる基地だということが判断できる。
「デル達のおかげで英田君のから、クリプトン・フューチャー・ウェポンズ部隊の潜伏場所が判明した。これがその、クリプトン・フューチャー・ウェポンズ宇宙開発基地だ。ここは、元西日本の九州地方あたりに位置している。現在当機は、高度五万フィートまで上昇し、超音速巡航でそこへ向かっている。いいか。ここからよく聞いてくれ。今から、君達の任務と、個々の役割を説明する。」
いよいよか、言わんばかりに、全身の皮膚が張り詰めた。
それは、俺だけではないようだ。
セリカのキー操作にあわせて、スクリーンに投影された映像が変わり、少佐はレーザーポインターを取り出した。
「まず本作戦の目標は、この施設内部に潜入し、ピアシステムの活動を停止させることだ。そうすることで、テロリストも一切の武器兵器が使えなくなり、無人兵器も沈黙する・・・・・・網走博士。あれをデルに。」
「はい・・・・・・デルさん、これを。」
網走博士が差し出したのは一枚の光学ディスクだった。
俺はそのディスクを受け取り少佐の顔を見た。
「これは?」
「陸海空軍の総司令官と防衛省庁長官、そしてクリプトン本社の社長との緊急会議によって、この事件解決のためピアシステムを断片化させ一時的に運行を停止させることが決定した。これはそのためのワームが収められたディスクだ。網走博士とセリカ、それとクロギンが最も現場に近いということで、急遽本社から送られてきたプログラムを組み立てたのだ。」
「なるほど・・・・・・。」
「システムの停止によって敵の装備が使えなくなるが君達の装備は通常通り使用することができる。奴らの兵力の半分以上は無人兵器だ。まずはこちら側が有利になれるだろう。デルには、この基地内部にある、システム運行用のスーパーコンピューターの端末にこれを挿入してほしい。それだけでワームが起動し、まもなくシステムが起動不可能な状態になるだろう。頼めるな。」
少佐が真剣な視線で、俺の瞳を見つめる。
これは・・・・・・・この想いに答えなければならないな。
「分かった。任せてくれ。」
「よし。それとみんな。この作戦の要はたった今、デルに委ねられた。皆には与えられた装備を最大限に利用し、デルの援護に当たってくれ。彼女らの指揮は、タイト。任せたぞ。」
「了解だ。」
タイトもまた威風堂々の表情で頷いた。
「・・・・・・次に、この施設に潜入する方法を説明する・・・・・・。」 その言葉を発した少佐の顔色がただならぬものに変貌した。
網走博士の額や頬からは、一気に弾のような汗が滴り落ちている。
セリカは何のことか理解できていない表情をし、一方、クロギンは腕組みをしてニヤニヤと自慢げな表情を浮かべている。
「まず・・・・・・諸君らには、これに搭乗してもらう・・・・・・。」
スクリーンに映ったのは、ミサイルと酷似した形の「何か」だった。
・・・・・・・悪い予感がする。
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