町はずれの森の奥。私はそこに住んでいた。
今は7月くらい。特にやりたいこともなくて暇だった私はその日窓辺に座って本を読んでいた。
そんな中、外では夏風が窓をノックするようにビュウッと吹いていた。
さっきから見ていて涼しそうだなと思っていた私は読みかけの本を机に置いてイスから立ち上がり、窓を開けてみた。するとそこにはどこからか迷い込んだのだろう、鳥の姿があった。
私は鳥の方に視線を向けてほほ笑んだ。
「どこからきたんだい?」
問いかけてももちろん鳥は答えてくれるはずもなく、むしろ私から逃げるようにどこかに飛んで行ってしまった。私ははぁ…と小さいためいきをつくと、読みかけの本を手にとり、読書を再開し始めた。そんな午後3時。
この世界は案外シンプルなものだ。そんな世界を私は嫌っていた。なぜだろうって?
それは、私がいわゆるこの世界の人がいう「普通の人」が持っていない力を持っているからだった。シンプル=単純だから、普通じゃない私は誰にも理解なんてされないままで。
―――――人と目を合わせてはいけません。
小さい頃から母にそう教えられていた。理由は簡単にいうと相手が石になってしまうから、だそうで。私と母はそんな力を眼に秘めているみたい。そんなことを教えられていた頃の私は幼く、そんなことを気にも留めずに暮らしていた。そのような力がどれだけ普通の人にとっては珍しいものなのかと実感したのは6歳の時くらい。町に行くと私はいつも人に避けられるばかりだった。始めは訳が分からなかったけれどそれくらいになるとさすがに理解できるわけで。そんな私に対する人の目が私は嫌で毎日のように行っていた町にほとんど行かなくなってしまった。
そして、完全に自覚し始めたのは7歳くらいの頃。ある時私は家の近くにある花畑で花冠を作って遊んでいた。すると突然男が2人現れ、こちらを見ながら話しこんでいた。私は遊びに来てくれたのかな、なんて能天気な発想しかできなくて男たちの方に向かってニッと笑いかけた。それがあんなことになろうとは思いもしなかった。
花冠を作り終えて、蝶と戯れていた私を男たちは突然後ろから殴りかかった。何が起きたのか、本当に突然で分からず、そのまま男たちの方を見て茫然としていた私だったけれど少ししてようやく危ないと気付いた。私は無我夢中で叫んだ。しかし男たちは蹴ったりはたいたり、髪を引っ張ったり、とにかく暴力をふるい続ける。その時だった。男たちが突如暴力をふるうのをやめたのだ。恐怖でずっと目をつむっていた私は不思議に思って目を開く。すると1人の男が頭から血を流して倒れていた姿が目に入った。何が起こったかまた分からなくなってただただおろおろしていると誰かから手を引っ張られた。
「逃げましょう…さ…!」
母だった。近くをチラッとみると血のついた石が転がっていた。そういうことか、と私は納得して引っ張られるままに町の方に向かった。けれど少し遅かった。
母が突然転んだのだ。しかもなにかに躓いたのではなく。母の視線の先を見ると倒れていた男が意識を取り戻し、母のスカートの裾をつかんでいたのだ。母もさすがに焦ったのだろう。もう1人の方はそこらへんにおちていた木の棒を拾ってすぐに私たちの頭めがけて力いっぱい振り落とした。私はもうだめだ、と思い、ただ目をギュッとつむっていた。そんな私を母はかばうように抱きしめてくれていた。
それから何分かした時、私は何か様子がおかしいなということに気付いた。いくらたっても痛みが襲ってこないのだ。お母さん、と呼びかけながら母の方を見ると私はすぐに目を見開いた。
母が倒れていた。私は最初殴られただけで意識が少し飛んでいるだけかと思いこもうとしたけれど、やっぱり違かった。
母は息をしていなかった。
男たちはどうしたのだろう、という疑問などもう吹き飛んでいた。ただ私はお母さんの亡骸にすがって泣いた。母は死んだのだ、それはもう驚くほど早く理解ができた。
それ以降男たちがどうなったのかは知らないけれど、たぶん男たちは私のことを知って、捕まえようとしていたのだろう。それから私は完全に「人」を警戒し始め、町には完全に行かなくなった。もう、誰も信じられなくなっていた。
考えると私はどこまでも否定される存在なのだろうか。たとえそれが被害妄想だったとしても、そうとしか思えない。物語の中でさえもいつも怖がられる役ばかりだし、いつも私を認めてくれるのは自分自身の想像だった。ただの自己満足だけれど。
本をキリのいいところで読み終えた私は小さく息をついた。
だれか、この家をたずねてくれる人はいないのだろうか。
と、願いながら。
…ばかみたいだなぁ。
1人笑って、私はイスから立ちあがった。
また、とある夏の日だった。
その日も暇だった私は窓の外を眺めていた。
もし誰かが来たらどんなことをしよう。
どんなことを話そう
そんな妄想ばかり想い浮かべて。
そんな時だった。
「…ここかな。」
突然どこからか誰かの1人ごとが聴こえた。もちろん、自分が無意識に言ったわけじゃない。
じゃあ今のは誰の声なの?
そう思ったとたん、急に頭が真っ白になった。
机に置いていた飲みかけのハーブティをその場にまき散らしてしまったことにも気が回らなかった。
ただ、とにかく隠れなきゃという焦りでいっぱいだった。いや、焦りもあるけれど緊張、それ以上に恐怖を感じていた。あくまで近い表現だけれど。怖いのはあの時のこととまざっているのせいなのかな。あ、これをトラウマっていうんだろうな…いや、そんなことはどうでもいいや。というかこっちにくるのかな?迷ったのかな?それとも私を捕まえに来たの?あぁ、その前に目を合わせたらまずいんじゃないの?とにかく、どうしよう。どうしようどうしようどうしよう……。
色んな疑問を抱えながら隠れる場所を探している間に、その音はなった。
コンコン。
今まで心から聞きたかった音が目の前でなった。
その音が始まりを示したかのようにうれしい気持ちがあふれだした。ただそれと同時にビクッとして後ずさりすると、思わず本に躓いて転んでしまった。それもド派手に。
「いったぁ…。」
私は半泣きになりながら打ったところをさすった。そんな私を無視するかのようにそれは起きた。
「…ちょっと入るね。」
私が想像していたのは、誰かがゆっくりとノックして、私は笑顔で迎えて、そして相手も笑顔で家に入ってきて。
けれどそれは想像しているよりも簡単に、そして以外な展開で開いてしまった。
「どうしたの?」
入ってきたのは、少年だった。
彼は少し驚きながらも私の方へ近寄った。何に驚いているかというと、きっと私が今手で目をふさいでいることだろう。それでも私は目をふさいだまま、こう言った。
「…見ないで…。」
「どうして?」
彼は不思議そうに問うた。なんで?と言うからには、私の力を知らないのだろう。だとしたらもっと危険だ。
「目を見ると石になってしまうの!!危険なの!」
「…。」
案の定、彼は黙ってしまった。それはそうだろう。いきなりそう言われたって気味悪がるだけだ。
しばらくの沈黙が続いた。いつの間にかその場に座っていた彼の方からようやく口を開いた。
「僕だって石になってしまう、と怯えて暮らしてた。」
「…………。」
「けど君は、自分から望んで人を石にすることはないと知ったから。」
「……?」
「君と目を合わせると石になる。それは両親か誰かから聴いたと思う。けれど実際は半分嘘。本当は相手を激しく睨むことで石にする。」
「!!」
ハッとした。そういえば確かに私はあの時男たちと目を合わせたはずだし、町の子たちとも目を合わせていたこともあったのだ。なんで今まで気付かなかったんだろう。
「けれどなんであなたがそれを私に伝えるの?」
私は彼の目を見つめた。彼も私を見つめ返す。
「真実を知って、君に今の世界を教えてあげたかったから。世界はさ、案外怯えなくていいし、怯えられる事もないんだよ?」
その言葉が耳に入った途端、急に糸が切れたように目からしょっぱいなにかが流れてきた。涙だ。
今までそのことを知らなかったことに腹が立った。
あぁ、それにしてもこんなにあっさり受け入れることが出来たのはなぜだろうか。
そうだ、うすうすと気付いていたのかもしれない。
それでも怖くて、真実を知るのが怖くて。
だけれど、私のことを思ってくれている人がいる。
私は、外の世界を知ってもいいのだろうか。
そんな想いが自分の心の中で巡る。
気持ちがあふれだすかのように涙もでる。
しゃくりをあげて思いっきり泣いた。
そんな私の頭を彼は黙って撫でてくれていた。
「落ちついた?」
泣き続けてどれくらいたったのだろう。ようやく泣きやんだ私はこくっと頷いた。それからというものも私は何を話せばいいかも分からなかったし、この人もどうすればいいか分からなかったのかもしれない。それに初対面で泣き顔を見られたのは正直恥ずかしい。
ずっと沈黙が続いていた。
そんな沈黙をやぶるように彼は服のポケットからなにやら四角いものを出してきた。その次には細い何かの先に丸っぽいものがついているものを出してきた。…これって本当になんだろう、と思ってその物体を眺めていると彼は突然私の耳の中にその丸っぽい部分を入れてきた。
「え!?ちょ…。」
「あ、ちょっとさしたまんまにしといて。」
不思議に思いながらも彼の言う事を聞いてさしたままにしているととんでもないことが起きた。
なんと、その物体から音が流れだしたのだ。今まで聞いたことのない、不思議で、キレイな。
その時の私の顔はかなり笑えるものだったのかもしれない。だって、相当おどろいてしまっていたから。
「何これ、すごい…!」
ただただ関心している私を見て彼はニッと笑いかけた。
「これは音楽プレーヤーっていってね。いろいろやってるとこの中に音楽を入れることができるんだ。あ、今耳にさしたのはイヤホンっていってこれがないと音楽プレーヤーで聞けないんだよね。」
「へぇ…。」
想像していたものと全然違う。けれど、私は感動するしかなかった。
「ねぇ、他にもこんなものができてるの?」
「うん、ありすぎて何教えればいいか分かんないくらい。」
「そっか…!」
「あ、ごめんね、今日はちょっと時間なくなってきたから帰らないと。」
「そっかぁ…。」
突然告げられて、少しショボンとした私に彼は微笑んだ。
「また、ここに来るよ。今度はもっといろんなものを教えてあげる。」
「ホント!?…楽しみにしてるねっ!」
私はパァッと顔を輝かせた。彼は微笑んだまま「うん。」と頷き、私の耳から「イヤホン」をとってポケットの中にしまいこんだ。
「あ、そうだ。」
立ち上がりかけていた彼はふと思い出したかのように座り、からっていたリュックの中を探り出した。何かなと思いながらもその様子を眺めていると彼は私に何かを差し出してきた。
「これは?」
それは、真っ白なフードだった。
「あげる。仲間になってよ。」
「…誰の?」
「僕たちの。」
「仲間」か…。
しばらく考え、私は結論を出した。
「もちろん。あなたたちなら、信じられる。」
「そっか。じゃあ次来た時は仲間も連れてくるよ。じゃあ、本当に行くね。」
「うん、またね。フードとか、いろいろありがとう。」
「ん。」
私たちはそのまま別れた。
あの少年が行ってしまったあと、私はずっと考えていた。
結局は、母が死んだのは私のせいだった。あのとき母が死んだのは殴られたからじゃなく、力を使いすぎたからなのだろう。男たちは石になったのだ。…ただの想像だけれど。
だけど、母が私に今みたいに人をさけて生きていくのを望むはずがない。嘘をついたのはきっと、私が幼すぎたからなのだろう。母は、私のことをいつも思ってくれていた。
だから私はこれから、少しずつ外の世界を知って生きたい。
――――あれから何日か過ぎた。
私は相変わらずな毎日を過ごしている。事件があったわけでもないけれど。今、花の水やりをしているところだった。
「やっほ。元気?」
後ろから明るい声が聴こえてきたのは本当に突然だった。
振り返るとそこには、あの時の少年がこちらに向かって手を振っていた。その彼の隣にはその少年と同じ歳であろうツインテールの少女がいた。もしかして、仲間というのはこの人なのだろうか。
「元気。あなたは?」
「元気だよ。」
「そっか。」
そんな、普通のやりとりをしていた。そんな時。
「そういえば、名前言ってなかったね。僕の名前は―――。」
『想像フォレスト』 自己解釈
初めましてヨッシーです!もう小説とかあんまり書かないもんだからすごくgdgdしてます、完結アッサリしすぎだろΣ(゜д゜;)とか思いながらも結局出させてもらいました!無礼をお許しください(_
素敵過ぎる本家さま→http://www.nicovideo.jp/watch/sm16846374
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