眼前に広がるは全てを飲み込む黒と、長い時を経て届いた小さな光たち。
手の先には希望の旅の途中だった宇宙船。
ヘルメットの中に真球の小さな水が浮かび、ぶつかって大きくなっていく。
真空、届く筈の無い等速に離れていく船の中の仲間を、音割れする程の声で叫んだ。

『リン、君は』

全てのデータ、出逢ってからのクルーの様子、家族へのメッセージ、遺言、最後のコトバ。

『頼んだよ』

頭を振っても仕方がない。マスターの指示に…いや、願いを拒む事なんて、出来ない。

『はい』

無理やり笑顔を作って、中のスプリングが軋んでいる気がした。
研究の成果を、仲間たちの言葉、表情…見てきた全てを、必ず必ず…持って帰らないと。
何年かかっても。保護服やボディが太陽熱や摩擦で溶けようと。

「キャプテン…マスター…みんな…」

外作業に出た時の無邪気な笑いは忘れない。感情を搭載された事を嬉しく、そして今はひどく憎む。
どうして助手用の私が遺される。マスターたちを助けられない。
人間視では小豆大くらいに遠くなった頃、自分の光学望遠映像ではしっかりと見えていたが…小さくスパークし、亀裂が入り、小さな爆発が更なる亀裂と爆発を呼んで。

「…っ!」

両手で無音で飛んでくる破片から守る。
呆気なさにまぶたも閉じれず、残酷にも消滅までの全てを映像記録として焼き付けてしまった。
強すぎる光に一時的に映像がダウンする。
自己修復の間、何回、何十回、何百回と最後がリピートされる。
本当に私は旅立った星に向かって進んでいるのだろうか。あと…秒とは判るが、バグで繰り返される映像ではあそこに留まっているような錯覚を感じさせる。

「イヤだよ…マスター…どうしたら…何も聞こえないのは…寒いのは…寂しいよ…壊れちゃうよ…」

小さく呟いて、また黙り込んだ。早く直って欲しいという気持ちが薄らいでくる。

「…てる…奏で……わらーっ」

気が付いたら口ずさんでいた。何千回目の頃だろう。マスターが趣味でプログラムした歌という娯楽だ。

「かえ…ろ…また明日ってー…」

クルーの前で披露したら拍手され、誉められた。私は立派なクルーの一人なのだと言った。嬉しかった…な。

…そうか。

「マスター…この娯楽を歌っていれば、良いんだ、ね…?」

ずっと、帰りつくまで。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説】等速で、あたためるように

リンが補助・記録用アンドロイドとして乗った宇宙船という設定です。
空から女の子が降ってくる…以前の話ですが。母星からみたらずっと落ちてる事になる…
大気圏突入する前に助けられたら良いのですが……
続き書くべき?蛇足?

因みに文字数は携帯うpの限界に挑戦でした。

閲覧数:102

投稿日:2009/08/18 17:38:10

文字数:970文字

カテゴリ:小説

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