※パラレル要素・カップリング要素あり。ご注意を。

******

 星と月の光、雪降る音。あなたと共に一夜限りの夢を。

 声が、聞こえた。
少女は足を止め、顔を上げる。
微かだけど確かに聞こえる。風に乗って、悲しげででもとても美しいメロディー。
そしてどこまでも透き通った歌声。
「……綺麗……」
ほう、と零れた呟きは心の声そのものだった。
一体誰なのだろう。こんな時間にこんな森の奥で。
会いたい。不意に思う。こんなにも澄んだ声で歌うその人に。
とんっと踏み出した足は、声の方へ向いていた。
足の向くまま、想いのまま、気づいたら走り出していた。

 少女の上を、きらりと一筋の流れ星が空を駆けて行った。

 音が、聞こえた。
少年は足を止め、視線を前に戻す。
微かだけど確かに聞こえる。さくさくさくとリズム良く雪を踏みしめる音。
少しずつこちらに近づいてくる。
「…何だ?」
ぽろ、と零れた呟きは様々な感情を含んでいた。
一体誰だという戸惑い。どうしてここへという怪訝。
そしてこれから来るだろう人物に対する、好奇心。
「……」
少年は少し考え、そして足音の方へ体を向ける。
小さく、一歩踏み出した。

 少年の上で、すっと月が灰色の雲の中へ入っていった。

******

 茂みを抜けると、ぱっと視界が開けた。荒い息を抑え少女は辺りを見渡した。
木々がぐるりと塀のように囲む草地の真ん中に、小さな教会がぽつんと建っている。白い大地の上に舞い降りる雪に溶け込むような、大切にされてきたのだろう白い外壁がとても美しい。
けれど、少女の顔は暗く沈んでいた。
あの声を追っている内に声自体が聞こえなくなったのだ。ただ闇雲に走っているだけでは見つかるはずがない。分かってるのに。
どうしよう。その言葉ばかり浮かんできて、きゅっとドレスの裾を握った。
何でこんなに自分は焦っているのだろうか。
「(…あれは…空耳だったの…?)」
不意によぎった考えを、しかし頭を振って必死に振り払う。
「…そんなこと、ないもん…っ!」
声に出して小さく強く否定する。けれど胸の中の不安を消すには全然足りない。
記憶が作り出した幻聴。耳元で何かが囁いたその表現が余りにも納得出来て、そしてそう思ってしまう自分が…悲しいのだろうか、悔しいのだろうか。
この、頬を流れ落ちていく涙の理由は、何なのだろうか。
「(……ああ、そうか)」
心の中でそう呟いた自分がいた。
暗い夜の森の中、あの声が聞こえた時思ったのだ。もしかしたら、今日だけは。
今夜だけは、本当にお姫様でいられるのかもしれない、と期待してしまったのだ。
それがどれだけ自分に不釣り合いか考えもしないで。
何て、愚かなのだろう。いくら綺麗な服を着ても、どれだけ踊っても、私の手を取ってくれる王子様はいないのに。身の程知らずもいいとこだ。
少女は目尻を強引に拭うと、ぴっと背筋を伸ばした。
さあ、夢は終わり。早く屋敷に戻ろう。服を着替えれば、私はただのメイドに戻る。
痛む胸を無視して元来た道を戻ろうとした、その時。

がさり、と茂みをかき分ける音。さくさく、と雪を踏みしめる音。
そして、微かに聞こえる、あの歌声。

足音と歌声は少女のすぐ後ろで、ぴたりと止まった。
まさか。脳裏を駆け廻る思い。
鼓動が速い。体中が心臓になったかのように、ばくばくと体中を揺らす。
少女は、動けなかった。振り向けば、夢と消えるような気がして。
どうしよう。さっきと同じ言葉はしかし今は違う意味を纏っていた。

    ―月が雲から抜け出し、銀色の光が降り注ぐ。
   教会のステンドグラスが輝き、金色の光が溢れた。―

視線は当然教会へ。息をのむ音が重なる。
先程まで風景としてひっそりと佇んでいたそれは、内側から輝き人々が歌う神に奉げる讃美歌を森に響かせる。
それは正に、至上の音楽。
ほう、とため息をついたのは果たしてどちらだったのか。
この世のものとは思えない景色に見惚れていた少女の前に、すっと差しのべられた手。慌ててその先を辿る。そして、もう一つの視線とぶつかった。

 2人とも息が出来なくなった。
少年の若葉のように鮮やかなエメラルドグリーンの瞳に。少女の冬の天頂のように淡いセルリアンブルーの瞳に。
吸いこまれるように、時を忘れて、ただ互いを見つめ続けた。

      少女は思った。この人は王子様?
                     少年は思った。この子はお姫様?
      少女は思う。これは夢?
                     少年は思う。これは現実?
    
        ―少年は思った。…どちらでもかまわない。

 少年は一旦手を戻すと、足を一歩引いて、優雅に一礼した。
「美しいお嬢さん、…どうか僕と踊って頂けませんか?」
少女は目を見開いた。少年の声は、間違いなくあの歌声と同じもの。
 ―夢、じゃなかった。夢はまだ終わっていなかった。
少女の頬を涙が伝う。少年は驚いて少女の顔を覗き込む。
その優しい視線へ、涙をぬぐって少女は晴れやかに笑った。
花が綻ぶような少女の笑顔は、正にお姫様にふさわしいものだった。

        ―少女は思った。…どうかまだ夜は明けないで。

 少女はドレスの裾をつまんで一礼し、少年の手にそっと自分の手を重ねる。
どちらからともなく、互いの温度を分け合うように、2人は手をつないだ。
そして2人は踊りだす。
音楽は教会の讃美歌。観客は森の木々たち。
少年がそっとメロディを紡ぐと、少女も声を重ねる。
そして2人は歌い出す。
伴奏は互いの呼吸。聴衆は澄んだ空気。
星月の光を浴びながら。心のまま、想いのまま、2人は踊り歌う。
2人の周りを輝く雪が降り注ぐ。金色に、銀色に光を放つ。
少女と少年は見つめ合い、そして微笑み合う。もう2人に言葉はいらなかった。


        ―いつかは終わりを迎える儚い時間だとしても。
         この夜が終わるまでは、2人の Minuit Noel。―


                              Fin.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【リンレン風味】 Minuit Noel ② 【支援】

こんばんは、毎日世界の端っこでリンレンを叫んでいる者です。
続きがやっと打てた…。前回を読んでくださった方、お待たせしました!
この小説はこれで終いです。続きはあなたの御想像にお任せです。

この小説の原曲『Minuit Noel』は本当に良曲!なのに、何 故 伸 び な い ん だ …?! 皆一回聴いてみるといいよ…!そしてマイリスへレッツg(ry あ、再生6000越え、おめでとうございます!
原曲⇒http://www.nicovideo.jp/watch/sm5639103

イケレンと可愛いリンちゃんが書きたかった、はず…なんだけどなあ…?何かぐだぐだしすぎたかもです。てか途中暗い暗い;
時代背景?なにそれ美味しいn(ry

個人的には難産ながらとても楽しかったです。誤字・脱字の指摘、感想・批判どんとこいです。感想もらったら泣いて喜びます←

追記:なぜ途中で必ず一回データ全消しになるのだろう…?操作方法が悪いのかな…?あと作業中ずっとパソコンのプレーヤーで原曲を聴いてたら再生数が50いってたww時間かかりすぎだろ自分ww

閲覧数:515

投稿日:2009/08/11 02:39:53

文字数:2,543文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました