歩き去っていく彼女の姿を、ただ見送っていた。
浮かべた笑顔は引きつっていて。
止まったはずの涙はじわじわと染み出していて。
大きく振った手は震えていて。
そして彼女は、そんな僕を決して振り返らなかった。
…ありがとう。小さく唇を動かしてそんな言葉を紡ぐ。
ありがとう。僕を愛してくれて。
ありがとう。僕を認めてくれて。
ありがとう。僕を守ってくれて。
ありがとう。僕ではなく、自分を選んでくれて。
ありがとう ありがとう ありがとう
彼女の姿が、階段の向こうに消えて行った。最後に見たのは、僕が心の底から綺麗だと思う彼女の長い髪。
彼女の涙は、止まっただろうか。止まっているといい。泣いてほしくない。
『きっと、私の分までレンが泣いてるんだね』
いつか、彼女が僕に言った言葉。ぼろぼろと涙をこぼす僕の頬を拭いながら、言った言葉。
立ち尽くしたままの僕を、何人もの人が追い抜いて行く。止まることのない人の波。僕と彼女の時間のように、止まることなく、留まることなく。
彼女はその波に乗って、去って行った。では、僕はどうしようか。
僕は立ち尽くす。立ち尽くしながら、長い長い日々を思い出す。
僕と彼女の、過ごした日々を。
【泣き虫カレシ 前】
僕と彼女の日々の始まりは、真っ青な青空。
近所の公園の噴水の側。そこで転んで泣いていた僕を、彼女が見つけたのが始まり。
『どうしたの?転んだの?』
大きな瞳をいっぱいに見開いて、彼女は僕を覗きこんできた。
ずきずきと痛む膝を抱えて赤ちゃんみたいに泣きながら、僕は彼女を見上げる。
抜けるような青空を背に、僕を見る彼女の髪の毛が淡く輝いていて、僕は思わず泣きやんだ。
宝石みたいな瞳。絹のような髪の毛。お人形のような女の子。
幼かった僕がそこまで考えていたとはとても思えないけれど、とにかく僕は、彼女に見惚れてしまったのだった。
『ね、大丈夫?』
『う、うん…』
『でも、ケガしてるね。洗おう。バイ菌入っちゃうよ』
ぐい、と僕の手を掴んで、彼女はそのまま僕を水道まで引きずって行った。勢いよく水をかけられ、その冷たさと痛みでまた涙がぼろぼろ溢れてくる。
『う、うぅ~…』
『ごめん、痛かった!?すぐ終わらせるからね』
僕の傷を一生懸命に洗ってくれる彼女を振り払うことなんてとてもできず、僕は洗われている間中、ずっと泣いていた。
洗った傷口の周りを、彼女が丁寧にハンカチで拭ってくれる間に、僕らは自己紹介をした。
そしてそこで僕は、彼女が2軒隣の家に住んでいることを知り、彼女が僕よりも2歳年上だと知ったのだ。
僕・鏡音レンは3歳。彼女・初音ミクは5歳。
この頃の子供が大体そうであるように、僕達はその日以来、特に約束をすることもなく毎日遊んだ。
公園に行き、お互いの家に行き、ちょっと探検しようと町のあちこちを歩き回って、跳ねまわって、はしゃいで。
ふと気が付けば、一緒にいることがお互いに当たり前のような…そんな関係になっていた。
小学校も当然一緒で、僕らは毎日一緒に学校に行って、一緒に帰った。学年が違ったからお互いの授業の終わりが違う日もあったけれど、そんな日は先に帰った方(ほとんど僕だった)が、もう片方の家に先回りして待っているのが常だった。
いつ行っても綺麗で落ちつくミクの家。彼女のお母さんは、彼女によく似ていて朗らかで優しかった。手作りのクッキーは、器用に色々な形で作られていて、猫だったり犬だったり鳥だったり、僕と彼女の姿をしたものなんかも作ってくれた。
よく冷えたジュースとクッキーを食べながら、ミクの帰りを待つ。ふかふかのソファに座って、時折時計を見上げながら。
やがて、がちゃりとドアが開く音と一緒に、「ただいま、お母さん、レン!」と、彼女の明るい声が響く。それを聞いたら、僕は立ち上がってミクを玄関まで迎えに行く。そしてミクは玄関先にランドセルを放り出し、僕はごちそうさまを言って、2人で外に飛び出すのだ。
毎日毎日、繰り返し繰り返し、僕らはそんな日々を過ごした。
明るくて他愛もない毎日。時々ケンカもしたけれど、すぐに仲直りすることができた。
僕とミクは「親友」なんだ。誰よりも仲の良い、誰よりも固い絆で結ばれた。
この頃の僕は、僕とミクのことをそう思っていた。
そんな日々が少しだけ変化したのは、僕が中学に上がった時のこと。
ミクは中学3年生。受験を控えていた。
<NEXT>
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-----------...ネバーランドから帰ったウェンディが気づいたこと【歌詞】
じょるじん
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