あなたと会えなくなって、もう何ヶ月経っただろう?私の体は、石のように固まってしまって、体を起こすことさえ出来なくなっていた。隣には心電図。口に呼吸器。そして数が増えていく、鎖のような管。まるでもう、私をここから動かさないとでもいうように。・・・・お迎えはもうすぐ来るのかな・・・・?
私はうっすら開けていた目を、閉じた。あなたの笑顔がはっきりと映る。あのとき、強がらなければ良かった。もっと、素直になればよかった。結局、私はあなたに何も伝えられなかった。“好き”って。たった二文字なのに、言えなかった。文字にすることも出来なかった。私、あなたの名前すら知らなかったのよ・・・・?それなのに、本当はお別れなんかしたく無かったよ。もっともっと、たくさんおしゃべりしたかった。今もどこかで、私の知ってる笑顔で笑うあなたに、会いたい。会いたい。
「・・・・会いたい・・・・」
涙を顔を伝うのが分かった。
 私が次に目を開けた時、そこは草原だった。お日様がさして植物があって、明るいのに、どこか悲しげな雰囲気だ。水彩絵の具で描いたような空は、明るいのに・・・・。
 遠くから、紙飛行機が飛んでくる。私はいつものように手を伸ばして、紙飛行機を取ろうとした。また、お話できるかもしれない。でも紙飛行機は私を無視して、通り過ぎた。私は紙飛行機を追いかけた。走れないはずの足で。動かないはずの両手で。必死で紙飛行機を追いかける。遠くにあの金髪の後ろ姿が見えた。背中を向けて、立っている。紙飛行機はあなたの周りのくるくる飛んで、姿を消した。あなたも紙飛行機と一緒に――。
「待って!」
膝がガクっとくず折れた。
 私がまた目を開けた時、白い天井が見えた。病室だった。
「・・・・リン」パパの声。
 私は声がするほうを見た。パパは少し笑って、私の細い骨の浮きでた手を握った。握り返したくても、力が出ない。もう一つの手が、私のもう片方の手を握った。優しくて、暖かくて、安心する。ママの手だ。
「大丈夫よ、リン」ママの優しい声がする。
 ママの言葉に心の中で頷き、私はまた目を閉じた。やっぱり浮かぶのは、あなたの笑顔だった。
 ねえ。光の当たらない花は、いくら水をやっても肥料をやっても、枯れてしまうんだって。私も同じだったよ。でも私には、少しだけ光が当たっていたの。あなたが手紙をくれたから、私は笑顔になれた。今日まで、生きてくることが出来た。初めての手紙が凄く嬉しくて、何度も何度も読んだ。一度しか聴いたことの無いあなたの声が、あなたの文字から聞こえてくるみたいで、繰り返して読んだ。内容を覚えるくらい、何度も何度も。手紙の内容を、全部覚えてしまうぐらい。今も大事に、紙飛行機を宝箱に入れてるの。パパには秘密よ?もう、文字も目もかすんで手紙も読めないよ。それでも・・・・内容はちゃんと覚えてるから・・・・大丈夫・・・・――。
 部屋に無機質な音が響く。そろそろこの音ともお別れかな・・・・。
「・・・・お願い・・・・もし、これが最後なら――・・・・行かせて。あなたのもとへ・・・・」

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囚人―Prisoner―14#紙飛行機

ついに。。。。リン・・・・・。うわぁぁああ((泣。
リンはずっと闘病生活続けてて、すげえ前から命が危なかったので、
感情的にはレンより落ち着いた最後をイメージして書きました。
あとはエピローグだけです。

閲覧数:876

投稿日:2009/07/11 15:44:08

文字数:1,281文字

カテゴリ:小説

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