ミラーズ・アー・シェアリング・ザ・ペイン 第三話「絶える希望」

 ぎらぎらと光を反射させる剣の矛先は、僕に突きつけられた。
 僕は王女の姿を装い、本物の王女を隠れさせた。
 そう。僕はこの革命の日の真実を少しだけ狂わせて、王女の命を救ったんだ。
 そして僕は死ぬだろう。王女の身代わりに。
 王女の命は僕の全てだ。そう思うだけで、『自己犠牲』の勇気が湧いて来た。
 僕と王女を母さんが生んだその日から、僕の命は彼女の為のものだった。そう決められていたし、もしそうでなくても僕はそう在っただろう。
 『それ』は、僕らの未来が大臣たちの勝手な都合で二つに分かれた後も、本当は変わっていなくて。
 そして、あの革命の日に…処刑の鐘の日に繋がったんだ。
 斬首台に登った時も、怖くなかった。僕は、自分の選択に一辺の悔いも無かったから。
 そう。王女は僕の全て。王女の為になることは何でもする。王女のほしい物は何でもあげる。命の危機なら『自己犠牲』は当たり前だった。

 ――三時の鐘が鳴り響いた――

 ああ、これから僕は“悪”の王女として命を落とす。悪くない気分だ。さながら彼女だけの“神様”ってトコロかな・・・?

 『それ』なのに、王女の涙に、気付かなかった。否、気付かない振り――

 教会の鐘が鳴り響き――。



 ――チャイムの鳴る教室で目を覚ました。
(・・・また、この夢かよ)
 レンは、ここ数日に共通する既視感を夢に見た。
 その夢に輪郭は無く、なのに痛みだけが頭に響く。不愉快だった。
 しかも、不愉快はそれだけではない。
「なあ、鏡音ってアレだろ?」
「そうそう、ヤクザとツテがあるとか」
「えー、それマジなんだ」
 教室の中、周りでの陰口は耐えなかった。
 弁解が無駄なのは承知している。元々、このような四面楚歌も覚悟の上である。
 喧嘩の連鎖の始まりは、友人の敵討ちだった。
 理不尽な暴力に憤慨し、怒りに身を任せた結果、友人に怪我を負わせた不良の一味を全滅させていた。
 その時、レンは彼らに対し思った。
 愚者だ、と。
 それを思うと同時に、それを上回る自身の力に気付いた。
 “悪”を滅ぼすための、それ以上の“悪”にすら成るつもりだった。
 そのレンを、クラスメート含め、多くの人々が恐れていることも知った。
「昨日30人殺ったとか」
「病院送りにしたんだろ」
「おっかねぇな、今頃ポックリ逝ってるかも・・・」
 バンッ!
 机を叩いた。そこに居る全ての人間が竦みあがるのが見えた。
 立ち上がり、教室の外に出ると、そこに女性がいるのに気付いた。
 それはレンのよく知る人で、学校の誰しもが名前は聞いたことのある人だ。
「・・・メイコさん」
「その呼び方は親しみがあって好きだけれど、此処は学校。ちゃんと“先生”を付けなさい」
 レンのかつての戦友『守り人』にして、栗布豚高校の若き理事長、メイコが、感情の読めない微笑と共にそこにいた。

「何の用ですか」
 いささか挑発的に言い放つ。メイコはそれに動じず短く言う。
「白々しいわね。自分の行動を振り返れば解る筈よ」
 頬に冷たい汗が伝うのを感じた。
「街で複数のヤクザグループと喧嘩。結果、全員に重軽傷。・・・まあ、さすがだとも言いたいけれど、そうもいかないのよ」
 一旦言葉を切り、レンをからかうように見る。その姿は、レンに不吉なものを感じさせた。メイコが口を開く。

「自宅謹慎処分が決定したわ。期間は未定。なかなか厄介な事になってるからね」

「・・・ッ!」
「ホントは退学でも良かったのよ」
「どういうコトだよ」
「わからない?私の力よ」
 それだけで充分レンには伝わった。この学校に限らず、広い範囲での権力を持つメイコのことだ、自分に情けをかけ、処分を和らげたのだ。
 その力の大きさに、レンは感服している。
「ねぇ、メイコさん。オレが何を叶えたいか、アナタなら解るだろ!?」
 レンが訴えた。その視線を、メイコが変わらぬ表情で見る。
「あら、これ以上の情けをかけてもらいたいの?」
「違ぇ!!」
 レンが声を荒げた。
「なぁ、わかるだろ?この、どうしようもない世の中をさあ!!争いや諍いだらけの世界!!オレは、何か変えたくて、悪い奴らを倒してきたけど、駄目なんだ!!!何も変わってくれないんだ!!!!オレより強いメイコさんなら、もっと良い方向に変えられるんじゃないか?変えられるだろ!?!今より諍いの無い世界をさあ!!」
 レンが一気にまくし立てた。それは、レンが自分の無力を認めた瞬間でもあった。
 故に、自分より強いと認めたメイコなら、自分の悲願を叶えられると信じたのだ。
 それでも――。
「・・・口の利き方に気をつけろといったのよ」
「!・・・」
 メイコは、レンの悲願を無表情で切り捨てた。
「言いたいことはそれだけ?なら行くわよ」
「あ・・・」
 メイコは歩み去ろうとした。
「――そうね。さっきレン君は私を『自分より強い』と言ったわね?」
 メイコが立ち止まり、首だけ横に向けて振り返る。
「でもね――。私はあの“戦争”の時、誰よりも沢山壊したってだけなの。そんな私ではレン君の壊したいものは壊せない。無論、レン君の守りたい人に対しても同じね――じゃ、後は自分で考えなさい」
 そう言い、メイコは本当に歩み去った。
 メイコの言った意味がよく解らなかったレンが、一人その場に取り残された。

(メイコさんがオレの処分を和らげる事が出来たのは、彼女に権力があるからだ)
 歩きなれた夜の路地裏で、レンが考え込む。
(確かに、メイコさんの“戦争”での役割は特攻だった)
 メイコは、かつての“電脳戦争”において、破壊能力を前面に押出し戦った“守り人”屈指の壊し屋だった。
(壊せないって言うのは、今の世界?それは、オレのやってきたことの否定なのか?)
 やがて、何をしたいのか、何を叶えたいのかが解らなくなってきた。
 自分の行動が全て意味の無いものだったのかもしれない。感情に任せた暴動に他ならないのかもしれない。そう思ったのは、今日が初めてではなかった。
 始まりは、突発的な怒りの感情だった。
 その記憶が鮮明に思い浮かぶ。

『――鏡音、聞いてくれ。あいつらヤバイんだ――』
 不良に絡まれ、理不尽な暴力の被害に遭った友人の話を聞いた。
 その友人は、一生傷跡が残るという程の酷い怪我を負わされた。
 湧き上がったのは、純粋な怒りだった。

『――何だお前、たった一人で何するつもりだ?――』
 怒りが、行動を煽らせた。そこで、はじめて見るものを目にした。
 友人に暴力を加えた不良のグループが、まるで根拠の無い自己満足に捉われているように見えた。
 彼らへの怒りは、半分、哀れみにも変わっていた。

『――許してくれ!!そいつには謝るから!!金なら払う、これ以上は――』
 行動は、ひとつの気付きに繋がった。
 彼らの夢から覚めたような表情。社会から逃げた報いとでも思ったのだろうか。
 それを見て、これまで思ってきた“悪”にすら染まる覚悟を決めた。

『――この辺でイキがってるってのはお前だな?痛い目見てもらうぞ――』
 たくさんのことに気付いた。しかし、遅かった。
 秩序となるべく振るっていた力が、いつしか凶悪に荒れ狂っていた。
 自分は本当に“悪”なのか?どうすればいいんだ――!?

 怒りは、また同じところに繋がった。
「――オレが弱いからだ!!」
 まるで、『それ』に捉われているかのように、その叫びを繰り返す。
 かつての“電脳戦争”の時も感じた、自分の『弱さ』だった。
 その時、その場に何かが転がり込むように現れた。
 黒猫だった。
 飢えているのだろう。痩せていて、目に活力が無い。それでも、何かを求めるように、レンを見つめている。
 自暴自棄だったレンは、その弱々しい姿を見て一瞬驚いて、そして思った
消えてくれ、と。
 それにも関わらず、猫はレンを見つめた。
「・・・見るな。オレはお前に何もしない」
 言葉が通じないのは解っている。
「その弱々しい姿を見せるんじゃない」
 苛立ちを発散させるためだった。そうすれば、威嚇にもなるかと思った。
「気に入らないんだ。お前みたいな弱い奴は!!」
 レンが声を荒げても、猫は動じなかった。動かないその姿は、まるで自分の力の無さを映し出す鏡のように見えた。
 耐え切れず、レンが腕を振り上げる。
 その時、
「ッ!?!」
 レンの頬を、誰かの拳が思いっきり殴った。
 殴り飛ばされてよろめいたレンが、顔を上げた。すると、そこにいたのは、
「・・・少しは目を覚ませ、レン」
 伸びる白い足、紺のスカート、同色のブレザー。なびく金髪。
 細い黒猫を拾い上げるその少女は、リンだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

小説 ミラーズ・アー・シェアリング・ザ・ペイン 第三話「絶える希望」

「小説と言えない妄想伝」略して「小説」です。

いやぁー。ほとんど意味不明ですみません。たぶん次回で終わります。
ラスト不安。ラスト不安。
ほんっと疲れた。次回はもっと長くなりそうだ。
でも、色々隠す事なくなるんで楽しく書けるのかな?
これを書ききったら、文章力ついてるのかなぁ?
自分の文章力の無さを痛感して、文章力の向上に生かせたら良いな!

こんな小説でも次回に期待してくださる人がいらっしゃるなら、しばしのお付き合いをお願いしますm(_ _)m

閲覧数:400

投稿日:2009/07/31 21:59:55

文字数:3,631文字

カテゴリ:小説

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