これでいくつめだろう。手首、腕、手の甲、足。日に日に増える管の数は、まるで私を病院に鎖でつないでいるようだった。
「リン――リン?」ママが声をかける。
「え?ごめんなさい。なあに?」私は少しはっとして、ママを見上げた。
「リンったら、何回も呼んだのに気付かなかったのよ――・・・・じゃあ、ママ達は帰るからね。いい子にしてるのよ」ママとパパがドアの方へ歩いた。
「はあい・・・・」
 そういえば最近、耳が遠くなってきてるみたい・・・・。自分でも分かるぐらい、手が細くなって、骨がごつごつと浮き上がって見える。
 私はいつものように“鎖”をはずし、ベッドから抜け出した。なんだかいつもより、足元がふらつく。体力が急激になくなったみたい。――でも、こんなこと関係ない。私はあなたに会うことが出来るだけで、こんな病院にいるより、元気になれる。それが私の全てなのだから。
 私にとっての長い長い道のりを歩いて、収容所につく。“あなた”の姿が見えた。私は小さく手を振って、痛々しい柵に近づいた。彼も小さく手を振って、ニコッと私に笑いかける。なんだか少し悲しげに見える気がする。どうしたんだろう?なにかあったのかな・・・・?
 彼は手に持った紙飛行機を投げて飛ばした。分厚い、見えない壁を越えた。私はそれをキャッチした。
「またね」私は口の形で伝えた。
 彼は軽く頷くと、悲しげな笑顔を残して去っていった。・・・・私まで悲しくなってくる。少しうつむいていると、ガチャガチャと兵士が近づいてくる音がした。私は急いで向きを変えて、小走りで帰り始めた。
 それから何分経っただろうか。病院はまだまだ遠くにある。いつもなら、もう病院についててもおかしくない。なのに、なぜか今日はまだつかない。まるで、私から病院が遠ざかるように動いてるみたい。だって私は必死であるいてるのに、ずっとずっと遠くにあるんだもの。――もちろん、病院が動くなんて、そんなことありえないのは分かってる。でも私は、本当にそうなんじゃないか、と思い始めた。歩いても歩いても、なかなか前に進まない。いつもより息が切れて、苦しい。足が痛い上に、どうしようもなく重くて、上手に歩けない。手も重いし、疲れて背中が少し猫背になる。視線が下がってせいで、見えるのは黄土だけ。気持ち悪くなってくる。
「――っまだ、つかないの・・・・?」
 痛くなってきた喉で、私は思わず呟いて立ち止まった。足が勝手にしゃがみ込む。私は少し顔を上げて、病院のほうを見た。・・・・やった。あと少しでつく。もう目の前だ。私は切れた息を落ち着かせるために、深呼吸した。そして立ち上がった。
 さっきまではっきり見えていた病院の入り口の線がぼやけて、くるくると回る。もう病院は白いかたまりにしか見えなくて、ちゃんとした形がない。くるくると回る速さが、どんどん速くなる。――・・・・もしかして、私のほうが回ってる?目が回って、本当に酔ってしまいそうだ。気持ちが悪い。
 それでも私は必死で歩いた。もう目の前。あと五歩・・・・四歩――足がもつれる・・・・三歩・・・・二歩――扉に手をかける・・・・一歩――・・・・。
「・・・・やっと着いたわ・・・・」
そう呟くと、すぅっと体の力が抜けて、何も見えなくなった。

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囚人―Prisoner―08#苦鎖

リンがかかってる病気ってどんな病気なんでしょう・・・?
医療とかワカンネ。
レンが落ち込んでた理由は、前回の話からです。

閲覧数:720

投稿日:2009/06/20 16:24:09

文字数:1,356文字

カテゴリ:小説

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