ふふふ・・・。
私は・・・とある心霊スポットの主、とでも名乗っておこうか。
いわゆる「自縛霊」というやつだ。
私は年に1回の楽しみがある。
その年の私の命日に此処に来た人に1日だけ憑いて遊ぶことだ。
さて今年はどんな人が来てくれるのだろうか・・・。
「がっくんこっち!ほらビビるな!」
「ちょ・・・ルカ待ってよー」
どうやら今年はカップルが私の命日に来たようだ。
男のほうも女のほうも綺麗な長髪だから・・・一瞬百合っぽくみえたぞ・・・。
・・・まあそんなことはどうでもいい。どっちに憑こうか迷うが・・・。
「ルカ・・・もう帰ろうよ。ここ絶対出るって!」
「あのね、がっくんが『今年は大丈夫!』って言ったから来てるんだけど!だいたい幽霊なんているわけないでしょ!?」
・・・いるんだが。ここにしっかりと。
この女は幽霊がいないものだと思い込んでるらしい。
コイツを怖がらせたらどれだけおもしろいことだろうか・・・。
とにかく。今年はこの紫髪の男に憑くことにしよう。
でも流石にすぐ憑くのはリスクが高い。
まずはこいつらに付いていってこの男や女についてサーチしないと、とこの何年かで学んだ。
「・・・つまんないの。やっぱなんもいないじゃない。コウモリすらいないし」
「じゃあもう帰るよルカ!今日は僕が料理作るから!」
「ホント!?がっくんの作るご飯大好きなんだよねー。あー楽しみ」
今回憑く男・・・「がっくん」は料理が相当得意なようだ。ずいぶんな主夫だな。
それでもこの女・・・「ルカ」はコイツのことを信頼しているようだ。
これからどんな悪夢の時が始まるとも知らずに・・・くくく・・・。
「早く!がっくん車出して!」
助手席に座ったルカがシートベルトを締めながら言った。
「はいはい・・・そんな焦らなくてもいいじゃん」
「だってお腹空いたんだもん!早くがっくんのご飯が食べたいの!」
「そっかー。ルカ、今日は何食べたい?」
「んー・・・オムライスがいいわ」
「オムライスか・・・分かった。それなら作れそう」
「やった!がっくん大好き!じゃあがっくん家へごー!」
・・・こいつらのイチャイチャには付き合ってられん。
私は先周りしてルカをどう怖がらせようか作戦を練ろう。
「がっくん」の家は以外なことに古い民家だった。
未だに親元から離れられないのか、でもルカが泊まりに来るってことは親は旅行かなんかだろう。
まずは家を散策してからでも遅くない。ちょっといいものがないか探してみよう。
・・・ここまで普通の民家があっていいものだろうか。
居間、台所、寝室、押入れ・・・これといっておもしろいものが無かった。
でもこんな古いんだ。どこかにおもしろいものがあってもおかしくないと、廊下を見ていたら・・・床に蓋みたいなものがあった。
それを開けてみると、なんと梯子があって、さらに下に何かあるではないか!
いつぶりかの興奮を抑え、下へ降りてみた。
おお、これは・・・。
ベッドに手錠、首輪、その他いろんなものがここにはあった。
あの男、見るからにヘタレだと思っていたが、こんなものを持っていたとは・・・おもしろい。
さっきパソコンを見たときにもあったが、なんかいろいろ願望を持っていたようだ。
あいつの願望、私が叶えてやろう・・・ふふふ。
「ただいま~」
「お邪魔しまーす!」
お、ちょうどアイツらが帰ってきたようだ。
男が料理しているときぐらいに憑けばいいか。
「どうする?先ご飯食べる?」
「そうしよっかなー。だから早く!」
「はいはい・・・ルカはゆっくりしててねー」
あ、もうあの男は台所に向かうようだ。
ここで焦らしてもなんの得もない。私も急いで台所に向かった。
「あ、牛乳あと少し・・・まいっか」
私が憑く男は、私がいることも知らずに暢気に卵を割っている。
相当手馴れているのだろう。鼻歌まで歌っている。
でもその鼻歌もそこまでだ・・・さあ、ショーが始まる。
「ふんふ~・・・んなっ!?」
その身体、少し借りるぞ・・・がっくん。
・・・ルカside・・・
がっくんがオムライスを作ってる間、私は結構時間を持て余してたから、ずっとスマホをいじっていた。
ちなみにがっくんの作ったオムライスはめちゃくちゃ美味しい。流石わたしの彼氏だけある・・・へタレだけどね。
そうこうしてるうちに、がっくんがオムライスとお茶をお盆にのせて居間のほうへ来た。
・・・なんかがっくんの様子がおかしいのは気のせいだろうか。
「がっくん・・・目が虚ろだけど、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だよルカ。ルカこそ、さっきの心霊スポットに行って疲れちゃったんじゃない?」
「まっさか~、小説じゃないんだし、ありえないわよ~!」
「・・・ルカ、変換が違うよ。『憑かれた』じゃなくて『疲れた』のほうだよ・・・ほら、お茶でも飲んで落ち着いてよ」
「本当・・・?なんでそんな勘違いしちゃったんだろう。あ、がっくんお茶ありがと」
そう言いながら、がっくんが差し出したお茶を飲んだ。
「そうだ、がっくんさっき・・・」
・・・なんだろう、あたまがくらくらして、なんもかんがえられない。
なんかすっごくねむくなって、まえがよくみえなくて・・・。
最後に見たのは、がっくんの微笑みだった。
・・・真っ暗だ。
目が覚めて、最初に私が思ったことだ。
今、私はなぜか豪華なベッドの上で寝ていた。
ついさっきまで・・・がっくん家の居間にいたのに。
・・・ここは何処だろう?
がっくん家にはこんなベッドあるはずない。いや、このベッドは新しく買ったのかもしれないけど・・・。
まず、こんな部屋見たことない。
部屋なら初めてがっくん家に来たときに御母さんに案内してもらったはずなのに。
「ルカが僕から離れるはずがない」
後ろを振り向くと、がっくんがベッドの柵にもたれかかっていた。
そしてがっくんが私のほうへ来た。その眼は妖しげな色で光っていた。
「あ、起きてたの・・・おはよう、ルカ」
そういって、がっくんは微笑んだ。
でもそこにいつもの暖かな笑みは無く、相手を安心させるためにあるような笑みだった。
「・・・がっくんはそんな微笑みかたしないよ?もっとがっくんの微笑みは暖かいのに・・・」
「心外だなぁ・・・僕がルカだけに見せる笑顔、いつも好きって言ってくれるじゃん」
確かに・・・『いつもの』がっくんの笑顔は好きだけど・・・。
・・・怖い。
今のがっくんの笑みはそう感じさせるほどの威圧感があった。
「・・・私を家に帰して!いつもの幸せな日常に帰してよぉ・・・」
「それは無理だよ、ここは理想郷なんだ。ルカは一生ここから出ることはできない。ここで僕と2人きりで幸せに暮らすんだよ」
「そんなの、いやに決まってるでしょ!ここから出てやるわよ!」
私はベットから飛び降り、部屋の中を探ってドアがどこにあるか探した。
その間もがっくんは微笑んだまま。気味が悪くなってくるわ。
暗さにはもう目が慣れてきて、何かを探すのに苦は感じなかったが、とにかく見たことがない部屋だったから何がどこにあるのかすら分からない。
「・・・あった!」
いろんなものにぶつかりながらも、天井に出入り口らしきものがあった時には少し嬉しくなった。
しかも梯子まである!こんなトコに連れ込むくらいだったら梯子くらいとってもいいはずなのにね。
私は少し興奮ぎみに上へと登る。天井に近づき、扉みたいなものを開けようとした。
「あ、開かない・・・なんで・・・」
しかし、どれだけ押しても引いても、その扉が開くことは無かった。
横に引いてもダメ。なんでよ!?
「ルカ・・・鍵はココにあるよ・・・?ま、これがなきゃ絶対に出れないから、渡す気はさらさらないけど」
余裕の笑みを浮かべてこっちへ来るがっくんが、さっきまで手に持ってた鍵をポケットの中に入れた。
「・・・通報よ!警察に通報してやるわよ!」
梯子から降り、がっくんにそう叫んだあと、ポケットに入ってたスマホを取り出した。
「ルカー、ここ、圏外だよ♪」
楽しそうに言うがっくん。手には圏外表示のスマホ。
・・・涙が溢れてきた。
「あはは、泣き顔のルカも可愛いなぁ」
涙がぼろぼろ溢れ出る私に対して、がっくんは相変わらずの笑みを浮かべている。
「・・・狂ってる。がっくんは狂ってるわ!」
「そうかもね、でもルカが僕を狂わせたんだよ?ルカが可愛いから」
がっくんはそう言いながらこっちへ歩み寄った。
室内だから靴は履いてなかった。だがそれがさらに私の恐怖心を高めた。
「いやっ・・・来ないで・・・」
「無理だよ。そんな怯えた表情のルカを前にして、近寄らないなんて、ね」
そう言って、がっくんは私の顎をぐいっと上にあげた。
近くで見るがっくんの顔は、さっき以上に怖いと感じた。
「さてと・・・逃げようとしたルカにはお仕置きが必要だよね」
「お仕置き・・・!?」
「うん、僕なしじゃ生きていけないようにするから・・・楽しみにしててね♪」
がっくんは歪んだ笑顔になった。
そしてその後・・・
「ん、んむっ!?」
・・・唇を押しつけてきた。
あまりに強引、しかもこの状況だったから、私の腕はがっくんを離すのに精一杯だったが、唇が離れることは無かった。
そして何秒経っただろうか。
ようやく唇を離してくれたと思ったら、いきなり眠気が襲ってきた。
「がっくんなんて、もう・・・大きら・・・」
意識は、そこで途切れた。
・・・幽霊side・・・
地下室の床で倒れたルカ、もうそろそろ恐怖は植わっているだろうか。
やっぱ男の身体というのは力も強いしいいものだ。私も男に生まれたかったな。
でも流石に女を抱っこしてここに来るのは少々難儀だったかな、と今更ながら思う。
まぁ、ルカの眼は明らかに怯えた眼をしていたからいいだろう。
「すぅ・・・すぅ・・・」
今さっきまであんなことされてたのに、大人しそうに寝てるな。
私がこの男に憑ける時間はあと少し。
それまでに仕上げて、この身体を寝かせなければ。
まずは、ルカの身体をベッドまで運ぶか。
・・・ルカside・・・
私が再び目を覚ましたとき、さっきと同じベッドの上にいるのに気付き、改めてあの出来事が夢じゃなかったということを感じさせた。
どこかに逃げ道がないか探そうと起き上がったら、左の方からジャラ、という音が聞こえた。
「嘘・・・何これ・・・」
音の正体、それはなんと手錠だった。
手錠は、私の手首といつの間にかベッドの脇に付けられた柵の両方に付けられてた。
しかも、右にも同じように手錠がついていた。
どれだけ振ってもジャラジャラいうだけで外れない。なんでこんなもの付けたんだろう・・・。
外そうと奮闘して何分経ったんだろう。ここには時計がないから時間はおろか、今が朝か夜かも分からない。
そしたら、いきなり上から光が刺してきた。
「何で地下の掃除なんか・・・ルカっ!?」
そこには、懐中電灯を持ったがっくんがいた。
「ひっ・・・な、なにもしないで・・・もう逃げないから・・・」
「ルカ、何言ってんの?・・・ってこの手錠どうしたの!?今外すから!」
がっくんは理解できないような仕草でこっちに駆け寄ってきた。
そんなこと言ったって、外さないでまた私を怖がらせるんでしょ・・・と思っていたら、意外なことにあっさり外した。
「・・・がっくんの、ばかぁ・・・!」
「わあ、ちょっとルカ、泣かないで!お願いだから!」
私は、知らぬうちにまた涙を流してたみたい。
そんな私を見て、がっくんはいつもの暖かい笑みで私の頭を撫でた。
「んで、ルカ。何であんなところにいたの?」
私たちはあの場所から梯子で登ってきて、今はがっくんちの居間でがっくんお手製のオムライスを食べている。
やっぱり、このオムライスは美味しい。食べてて安心する味だ。
「・・・分からないわ。私も気付いたらあそこにいたし。というか、がっくんが地下まで運んだんじゃないの?」
「それが・・・僕、なんか知らないけど記憶が抜け落ちてるんだ。『ついさっき』が一昨日なんだよ・・・」
「ふーん。でも、私本当に怖かった・・・もう一生、あそこには行きたくないわ」
「・・・うん、それがいいよ。僕も記憶が抜け落ちてたんだし。さ、早くオムライス食べないと、さめちゃうよ?」
そういって、がっくんが微笑んだ。
その微笑みが、なぜか寂しそうだったのは私の見間違いだと思いたい。
・・・幽霊side・・・
あのヘタレめ。私がせっかくルカを逃げれないようにしてやったのに、なんで外すんだ。
でもまあ、ルカには確実に恐怖を植えつけれただろう。幽霊冥利に尽きるな。
最後のアイツの笑み・・・まぁ、ヘタレだがいつまでもそうではないだろう。
次は、私はショーの『観客』として見れるといいな・・・。
まあ、頑張れよ。ヘタレ。
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