浮くと言う経験。そして落ちる感覚。
人間は浮けないけれど、身の回りでは様々なものが浮いている。紙をポイっとやると、紙は浮いてふわふわ落ちる。虫の一部や鳥は、ぱっと羽を開いてはばたいて飛ぶ。気流をみつけてわっと上へ押し上げられてひらひらと行きたいところへ行く。木立の枝の先、色を失った葉は何かの拍子に枝から離れて、はらはらと落ちる。
浮くと言う経験。私たちは――人間は――簡単にそれを得られない。得ようと思えば得られる。それは自分の身を危険にさらす。安全な方法も考えられている。それでも危険に変わりはないから、それで、行う人は少ない。
浮く。それは一歩踏み出すと言うこと。飛行機の外へ、船の外へ。私たちは浮く、と言うことに対して、勇気を払わねばならない。
そして私たちは浮いたその後、落ちる恐怖にゆだねなければならない。短い時間だろうと、長い時間だろうと耐えなければならない。
私は今、海にいる。海岸を離れ、海に入り、どんどんと深いところへ向かっていく。水位があがって、ついに胸くらいまできた時、ついに私は足の届かない場所まで行き着いた。
私がここから一歩踏み出せば、ちっぽけな私は浮くがまま、流されるがままの存在になるだろう。それは長い長い、自分の意志によって行き先を決められない時間だろう。その中で私の意志に意味はあるだろうか。抗うことのできない力の前で、私は何に耐え、何を目標にすればよいのだろう。
私は落ちる。ふわふわと、ひらひらと、はらはらと。必ず。
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