「どうしても、そこの欠陥品を引き渡してくださらないというのですね、お嬢さん。」

「くどい。・・・・・・あぁ、お前ら犬語で言ってやらないと理解できなかったか。そりゃすまなかったな。わんわんわわーんっ!・・・わかっただろ、とっとと去ね。二度と現れるな。」

犬の鳴き真似という安い挑発に先頭黒スーツのこめかみがひくりと痙攣する。

「交渉決裂だ。帯人、やれ。」

凛歌の合図。
肺に緑の匂いのする空気を送り込み、発声。
大音量のエーデルワイスが公園内に木霊する。
しかしその声は僕の喉からは生じず、何故か黒スーツの方からした。

「貴様らが欠陥品と嘲った存在からのアタックだ。有難く受け取りなっ!」

次の瞬間、灰色の塊が大量に黒スーツに襲来した。
そう、凛歌から餌を貰っていた鳩達だ。
先頭の黒スーツは鳩にたかられて灰色の毛玉状態、他の二人は何とか仲間を救出しようとまごまごしている。

「なにやってる帯人、逃げるぞ!」

凛歌が僕の腕を掴んで走り出す。
小さな身体からは考えられないくらいの力強さだった。

「向こうは7日以内にこっちを捕まえれば勝ちと考えているが、実質こっちは長くて3日逃げ切れば勝ちなんだ。下手に相手を撃沈して投入人数増やされるよりも、今の相手を適当にからかいながら3日持ちこたえた方がらくだ。逃げられるなら逃げた方がいい。」

「それはいいんだけど、あれって・・・?」

僕はもう歌をやめていたけれど、後方からはまだエーデルワイスが響いている。

「さっきネクタイ引っ掴んだときに、これをネクタイの裏に貼っ付けといた。」

凛歌が取り出したのは、ワイシャツのボタンほどの大きさをした外部スピーカー。
ご丁寧に、裏はシール仕様になっている。

「さっき帯人に歌ってもらった『Colomba』な、あれに挿入されている音は鳩笛に近い音域で構成されている。よくマジックショーなんかで鳩を操るのに使うんだが、公園の鳩は無調教だから、音を聞いてもよって来るだけ。このスピーカーは一回曲が入力されたらバッテリーが切れるまで延々リピートすっから、アレを見つけるまでは時間を稼いでくれるはず。」

そのまま凛歌は、ファッション系の店舗が集中したショッピングモールに飛び込む。
そして、周囲を確認して女子トイレに僕を放り込んだ。

「いいか、私が声かけるまではそこで待ってろ、絶対誰が来ても開けんなよ。発信機が潰されるまでの時間を見ると、多分連中の中に女はいない。鳩のこともあるし戻ってくるくらいまでの間なら大丈夫なはず。」

・・・・・・行っちゃったし。
待つことしばし、扉の向こうから凛歌の声が聞こえた。

「帯人、今から渡すものに着替えろ。サイズは大きめを選んで買ってきたから大丈夫なはずだ。」

扉の隙間から紙袋を差し出される。
だけど、これって・・・。

「凛歌・・・・・・。」

「ぐちゃぐちゃ言うな。追撃を振り切るためだ。」

取り付く島もなく、僕は紙袋の中身に視線を落とし、ため息をついた。


トイレから出ると、凛歌は既に着替えを終えていた。
あちこちに薔薇のレースをあしらった、半袖の漆黒のドレス。レースの長手袋に、頭には可愛らしいミニハットが乗っている。
所謂、ゴシックロリータという奴だ。
首には、蝶の痣を隠すために包帯が巻かれている。
眼鏡を外し、普段はノーメイクなのに、うっすらと化粧もしているようだった。
そして、今の僕の格好も、それと大差ないのが問題だった。
ベルベット地のストラップタイプのワンピースに薄生地の姫袖とレースの襟をつけたドレス。凛歌が着ているのと似たような薔薇レースが施されている。
喉仏対策として、首元にはご丁寧に黒いレースのチョーカーを用意されていた。

「・・・・・・可愛いじゃないか。なにが不満なんだ?」

小首を傾げる凛歌。
不満と言うかなんと言うか・・・思いを寄せる相手に可愛いといわれてしまうのも、男としてちょっとどうかと思う。

「こっち来い、化粧するぞ。」

しかも、化粧までされちゃうし。
ファンデーションをはたかれ唇にルージュを引かれながら、ちょっと凹む。
眼帯も外されて黒地に白で薔薇の刺繍がついたやつに交換され、長髪のカツラとレースのヘッドドレスを付けられる。

「いいか、言っちゃ悪いがお前は目立つ。製品版KAITOと同じ顔ってのもあるが、右目の眼帯、やっぱ目立つんだ。かといって外すと今度は傷がある。どっちにしても目印をつけて歩いてるようなもんだ。」

じっ、と真正面から僕の顔を覗き込む凛歌。

「だったら、眼帯をしていても違和感のない格好をすればいい。ついでに、向こうが探しているのは男性型ボーカロイドと小柄な女の2人組。ましてや、普通追われてる側がこんな目立つ格好をするのはありえないし、化粧で顔の要所に陰影をつければパッと見にも気付きにくくなる。・・・こんな格好をするのもそれなりにわけがあるんだ。だからそう、むくれないでくれ。」

上目遣いで困った顔をされる。
可愛い。
ちょっと反則だ。

「で、ものは相談なんだが。」

凛歌がほんの少し、困った顔をする。

「眼鏡を外しているせいで周囲がよく見えない。手を引いてくれ。」

今、僕達は周囲からどう見えているのであろう。
多分、仲のいいゴシックロリータ姉妹。
長身の姉に、小柄な妹・・・ってとこだろう。
妹役の凛歌は、眼鏡がないせいか焦点の合わない視線を周囲に彷徨わせていて、それが現実に存在しながら夢を見ているように見える。
まさに手を引かれるだけのお人形のような印象をかもし出していた。
はっきり言って、可愛い。他の人間、特に男には見せたくない。
それでも、凛歌と手をつないで歩けるのは純粋に嬉しかった。
いつか、姉妹じゃなくて、恋人に見えるように2人で歩けたらいい、と思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

(亜種注意)欠陥品の手で触れ合って13 『Vestito』

欠陥品の手で触れ合って13話、『Vestito(ヴェスティート)』をお送りいたしました。
副題は『ドレス』です。
女装していただいています。帯人ファンの皆様ゴメンナサイっ!(平伏)
萌えの神が私の頭に降臨して託宣を下しました。『自重ダメ、絶対。』。
いや、だって帯人だよ?線が細いし可愛いし、ゴスロリ着せたら似合うと思うんだ・・・(殴)
そして、凛歌が入力していた曲も一部用途が判明しましたね。

それでは、ここまで読んで下さりありがとうございました。
次回もお付き合いいただけると幸いです。

閲覧数:481

投稿日:2009/05/31 15:48:12

文字数:2,413文字

カテゴリ:小説

  • コメント5

  • 関連動画0

  • 烙斗

    烙斗

    使わせてもらいました

    どこにコメントするか迷いましたが一応ここに…
    ゴスロリ帯人うpしました^^^
    色々自重できていませんが見てやって下さい><**

    2009/06/07 22:15:54

  • アリス・ブラウ

    七竈様>
    コメントありがとうございます。
    GJですかニヤニヤしていただけましたか♪
    もちろん、これからもきゅんきゅんな病み病み帯人を書いていく予定なので、お付き合いを願います(ぺこり)

    七の月様>
    コメントありがとうございます。
    妄想の中の帯人はどのような姿になっているのでしょう?
    私は絵心がないので凛歌の姿やゴスロリ帯人をイラスト化することができないので、その分皆様の妄想力に頼りきりでございます。
    ぜひ、可愛いゴスロリ帯人を妄想して下さい♪

    フォルトゥーナ様>
    コメントありがとうございます。
    あぁ、また鼻血と強制終了を・・・。
    鼻血を拭いて下さいまし(保湿ティッシュ差し出し)
    前述したとおり皆様の妄想力が頼りですので、存分に妄想して下さいまし♪

    2009/05/19 22:37:10

  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

    ご意見・ご感想

    ぐぁっは!!(二度目の鼻血)(←自重)

    帯人の女装……ゴスロリ……!!\(>∀<)/
    妄想がヤバい事になっとります!!ニヤニヤする~~~!!

    もう……駄目……また強制終了しまs(ry (←変な奴でごめんなさい)

    2009/05/19 17:19:35

  • 七の月

    七の月

    ご意見・ご感想

    帯…帯人に女装、しかもゴスロリwwwwwwGJなのです!!wwwww

    元々カワイイ帯人が女装したら……

    ……妄想開始……

    か…かぁいいwwwwお持ち帰りぃwwww

    2009/05/19 14:53:20

クリップボードにコピーしました