力強い低音。
透き通る高音。
鳥肌が立つような情感。
慢心することのない歌への情熱。
誰しもを魅了する「はじまりの歌姫」。
あなたの妹であることが、私の誇り。
**
「おねえちゃん、お誕生日はなにが欲しい?」
台所に立つ背中にそう問いかける。コトコトというお鍋の煮える音に混じって、おねえちゃんが誕生日、と小さく呟くのが聞こえた。
「…やだ、もうそんな時期?」
「そうだよ、おねえちゃんの7回目のお誕生日」
「早いわねぇ、ついこの間ミクの誕生日だったのに」
「味見て」と小皿を渡されて、お味噌汁を啜る。かつおが効いたお出汁にちょうどいい塩気。美味しい。
「ねぇ、なにか欲しいものない?」
「うーん…さすがに7回目ともなると難しいわね」
「何でもいいよ。あ、新しいヘッドフォンなんてどう?」
モノをなんでも大事に使うため、おねえちゃんのヘッドフォンは7年選手だけどまだ現役だ。マスターから初めて貰ったものらしくおねえちゃんはそれをずっと大事に使っているけれど、さすがに最新型に比べれば音がこもってしまうのが難点だと言っていた。
「ヘッドフォンはリンとレンが買ってくれるって言ってたわ。商売道具なんだからもっと性能のいいやつにしなさいって叱られちゃった」
「じゃあ新しいメイク道具とか」
「それはルカが買ってくれるんですって」
「服とかアクセサリーとか」
「それはリリィちゃんとグミちゃんとリュウトくんが」
「…お料理道具とか」
「それはミキちゃんとユキちゃんといろはちゃんが」
「…お酒とか…」
「それはがっくんとキヨテルさんが」
「もー、みんな抜け駆け!ずるい!」
数えるように折った指が全部無駄になって不満の声を上げる。おねえちゃんはおかしそうに笑って、自分でも小皿で味噌汁の味見をして頷く。ネギ切ってちょうだいと頼まれて、冷蔵庫から真新しい一本を取り出した。
「気なんか遣わなくていいのに、みんなも、ミクも」
「そうはいかないよ。お誕生日だもん」
青々としたネギは包丁を入れる度にみずみずしい滴が飛ぶ。これはいいおネギ。口に入れた時のシャキシャキ感を想像してにやけてしまう。
「毎年毎年悪いもの、パーティー考えるのだって大変だろうし…」
「今年はリンちゃんとレン君が隊長だからね。ちゃんと全員お休みだし、きっと楽しいパーティーになるよ」
「…なんだか悪いわ。もう7回目なのに」
「7回目だろうと10回目だろうと100回目だろうと、おねえちゃんのお誕生日はずーっと特別なの」
異論は認めません、と叱ると、すみません、とおねえちゃんは苦笑した。
他の人の誕生日には率先して自分がプレゼントやパーティーを企画するくせに、自分事になるとおねえちゃんは途端に一歩下がってしまう。迷わず自分より他人を優先して、自分のことは後回し。おねえちゃんは、いつだってそういう性格なのだ。
*
「はじめまして、ミク」
初めてこの世界で目覚めた時、目の前にいたその人のことを、私は知っていた。
データやメモリーとしてじゃない。もっともっと心の奥の部分に刻み込まれた「懐かしさ」と呼べる感情に触れるその姿。眠っている間、私はその人のことをずっと追いかけていたような気がした。
「私はメイコ。先行のボーカロイドで…」
「……」
「…って、堅苦しい挨挨拶は抜きにしましょうか、生まれたばっかりじゃ分からないわよね」
「……」
「えーと、それでは」
コホン、と小さく咳払いをして、そして。
「ようこそ世界へ、私の妹!」
そう言って抱きしめてくれたことを、私は永遠に忘れない。
長い長い時間を掛けて、真っ暗な電子の海を泳いできた私をこの世界につなぎ止めてくれたのは、おねえちゃんだった。
**
「7年かぁ」
ボウルに割った卵を混ぜる。
隣ではおねえちゃんがケチャップライスを炒め始めていて、いい匂いが鼻をくすぐった。自家製のケチャップに、ミックスベジタブルとソーセージ。ちょっぴりスパイシーな味付けにとろとろの卵を被せるのがうち流のオムライス。
私がこの家に来た時、初めて食べたおねえちゃんの手料理はオムライスだった。リンちゃんとレン君はハンバーグがナンバーワンらしいけれど、実は私はおねえちゃんのオムライスが世界で一番美味しい食べ物だと思っている。
「どうですか?振り返ってみて」
「んー、あっという間…、だったかしら」
「そうなの?」
「うん」
手際よくフライパンを返すとケチャップライスが踊る。お料理は好きだけど、私はコレが出来ない。えいっと思い切りぶちまけてしまったことは片手じゃ足りない回数だ。それをいとも簡単にやってのけて、美味しいモノを作りだしてくれるおねえちゃんの手はまるで魔法の手だ。
「ミクが来たのがついこの間みたいな気がするもの」
「私ももう4歳です」
「そうなのよねぇ」
食器棚からお揃いのお皿を取り出す。私が来たときは2枚だったこのお皿も、今では6枚に増えた。
マグカップも歯ブラシもフェイスタオルも、みんなみんな色違いで6人分。皆には内緒で、そっと赤と青のお皿の間に緑のお皿を置いたりしてみる。
「ミクが来て、双子が来て、ルカが来て。お隣さんも増えて」
「いつの間にか大所帯だよねぇ」
「うん。賑やかで楽しくって、いつの間にか7年経っちゃったわ」
ケチャップライスをそれぞれのお皿に盛りつけると、次は卵。じゅう、と音を立てて半熟卵がふつふつと泡を吹く。
「きっと、これからもっと賑やかになるね」
「そうね、お料理し甲斐があるわ」
「私もお手伝いし甲斐があるよ」
焼ける卵のいい匂い。きゅう、とお腹が鳴る。もうちょっと待っててね、とおねえちゃんが笑って頭を撫でてくれて、えへへと笑みがこぼれた。
【カイメイ前提・ミク&メイ】proud of you
めーちゃんお誕生日おめでとう!!!!!
あなたが生まれてくれてもう7年。
これからもずっとずっと永遠に、あなたが世界で一番お姫様です!!!!!
めーちゃん俺だ結婚してくれええええええええええええええええええ
※ご注意※
◆カイメイ前提の、ミク&メイ小説です
◆なんとなくココ【http://piapro.jp/t/x1Hy】とココ【http://piapro.jp/t/KsUh】から続いていますがお読みいただかなくても大丈夫です
◆時期はめーちゃんの誕生日の2週間くらい前
めーちゃんはカイトは勿論妹弟全員から愛されてればいいと思いますが、中でもミクとめーちゃんの関係は特別だと思います。
めーちゃんにとってミクは自分の世界を広げてくれた大切な妹。ミクにとってめーちゃんは永遠の憧れ。
この姉妹が居てくれたからこそ、今のボカロ隆盛があるんだと信じてやみません。
前のバージョンで進みます。
コメント2
関連動画0
ブクマつながり
もっと見るとろとろのオムレツに、ブラックペッパーのきいたかりかりのベーコン。
昨日の残りのオニオンスープにはチーズを浮かべてちょっと贅沢にアレンジ。
よく焼けた厚めトーストには少しの切れ込みをいれてバターを溶かし込み、あとはお好みでクリームチーズに苺ジャム、メープルシロップにオレンジマーマレード。
そして、色...【めーちゃん総受】ひとつ屋根のした
キョン子
「はーい、ありがとうございましたー」
ボイスレコーダーをオフにする。
すると、テーブルの向こうでめぇ姉が戸惑ったような表情を浮かべた。
「…ね、ねぇリン、今の本当にマスターに提出するの?」
「するよー?だってマスターからの直々の依頼だもん」
「…それにしたって、今のインタビューは…」
「いいじゃない...【カイメイ】続・恋するふたりに質問です
キョン子
『生まれて初めて見たものは何ですか?』
つい最近雑誌のインタビューでそんなことを聞かれた時、リンは即座にメイコ姉だと答えた。
『インストールされて目が覚めたら目の前にめぇ姉がいて、ぎゅって抱きしめてもらったの』
嬉しそうに思い出を語るリンを横目に、おれはしばし考え込む。
こんにちは、レン。俺のはじ...【カイメイ】その背を追って
キョン子
「はい、出来上がり」
ゆっくり目を開くと、目の前には満足そうに笑うカイトの顔。
差し出された鏡を受け取って覗き込むと、想像以上に完璧なメイクをされた自分が映っていた。
「……」
「どう?」
「…なんで」
「ん?」
(…なんで、こんなにうまいのよ)
ほんのり色づいた頬と潤んだ唇、毛穴ひとつない肌。いつ...【カイメイ】仕上げはあなたの唇で
キョン子
「わぁ、メイちゃんすっごい綺麗!!」
「めーくん、花嫁さんだ!」
振り返ると、いつの間にか控え室の入り口にグミちゃんといろはちゃんが来ていた。
きらきらと輝かせた目。そういえば前に妹たちともこんな場面があったなと苦笑する。
「んふっふー、どうよ、あたしのメイクテク」
「すっごいすっごい!りり天才!...【カイメイ】サムシング・ブルー
キョン子
注・!現代パラレル!
自作【恋色病棟】の設定をそのまま引き継いでいます。
お読みいただかなくても大丈夫かとは思いますが、もしよければそちらから先にどうぞ→http://piapro.jp/content/rt95fh23vywkpk7s
【設定】
・お隣同士の幼馴染
・めーちゃん23歳社会人1年目、...【カイメイ】in the rain
キョン子
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
マーブリング
ご意見・ご感想
新作に飛んできました!
めーちゃん達のあふれる家族愛は、自分の身の回りのひとへ優しくありたい思わせてくれます。
いつもステキな作品を読ませていただきありがとうございます(*^^*)
2011/11/05 03:58:42
キョン子
>いのほた様
メッセージありがとうございます!!
ひゃぁぁあ嬉しいお言葉…!///めーちゃん愛でしたらもう垂れ流しっぱなしです!!キリッ
ミクは本当は甘えっ子だけど我慢しちゃう子だと可愛いなと思って…(*´ω`*)でもそれをちゃんとめーちゃんもカイトも分かってて、というお話でした!
きっと楽しいデートになることだと思います!二人でプリクラとか撮って青いのとか弟妹たちから羨ましがられたらいいですよ!←
次回もまた読んでやってくださいまし♪
>マーブリング様
わぁ、ようこそ!
いつもメッセージありがとうございます!!(*´ω`*)ノシ
カイメイは勿論ですが、ボカロ家族が皆仲が良かったら嬉しいなそしてめーちゃんがその中心に居たら嬉しいな!という私の欲望駄々漏れな作品に仕上がりました!笑
今回はミクでしたが、いつかリンやレン、ルカとの絆も書きたいですv
是非またお越しくださいv
2011/11/08 11:15:31
いのほた
ご意見・ご感想
きゃあああああ
毎回素敵過ぎます、ありがとうございます!
キョン子さんがめーちゃん愛に溢れてて幸せです
ヽ(;▽;)ノ
ここん家のミク可愛いぃ~
緑のお皿を間に挟んじゃうところでは
もんどりうって転げてしまいました。
幸せなふたりデート、羨ましがるみんなを
思い描いてもきゅんきゅんですねvV
これからも作品を楽しみにしています
夜分遅く失礼いたしました!
2011/11/05 01:24:18
キョン子
>いのほた様
メッセージありがとうございます!!
ひゃぁぁあ嬉しいお言葉…!///めーちゃん愛でしたらもう垂れ流しっぱなしです!!キリッ
ミクは本当は甘えっ子だけど我慢しちゃう子だと可愛いなと思って…(*´ω`*)でもそれをちゃんとめーちゃんもカイトも分かってて、というお話でした!
きっと楽しいデートになることだと思います!二人でプリクラとか撮って青いのとか弟妹たちから羨ましがられたらいいですよ!←
次回もまた読んでやってくださいまし♪
>マーブリング様
わぁ、ようこそ!
いつもメッセージありがとうございます!!(*´ω`*)ノシ
カイメイは勿論ですが、ボカロ家族が皆仲が良かったら嬉しいなそしてめーちゃんがその中心に居たら嬉しいな!という私の欲望駄々漏れな作品に仕上がりました!笑
今回はミクでしたが、いつかリンやレン、ルカとの絆も書きたいですv
是非またお越しくださいv
2011/11/08 11:15:31