「……あ!」



不意にリンとレン、そしてルカが声をあげて駆け出した。

走っていくその先には、『ネルネル・ネルネ』から出てきたミクとメイコの姿が。

その様子に気づいたのか、少し離れたところで待っていたカイトとグミもミク達の元へ近づいてきた。


「ミクちゃん! もう……大丈夫なの?」

「うん! 平気平気!! もーいくらでも戦えるよっ!!」


どこも異常がないと言いたげにぶんぶん腕を回すが、そんなミクの頭に普段よりは軽いがそれでもそれなりに重いメイコのチョップが打ち下ろされる。


「あがっ」

「命を左右するような嘘をホイホイつくのはやめんかい。……皆聴いて。今の状況を大雑把に説明するわ」


メイコは今ミクの身に起きている出来事、自分の身に起きている異変について説明した。

それを聞いたカイトが自慢げに胸を張る。


「なるほどなるほど……と成れば現状僕こそが最強の戦力というわけだね! フフフさぁ皆の者我についてくるのd」

『調子乗ってんじゃねえバカイト』

「あたしもいるのよー!!」


即座にリンとレンのダブルドロップキックとグミのローリングラリアットが調子に乗るカイトを叩き伏せていたが、実際当たらずとも遠からずである。

ルカは幼児化。ミクには制限時間付。メイコは音波そのものが使えない。

今現在潜在音波を唯一不自由なく自在に扱うことができるカイトと、純粋な火力だけならばヴォカロ町のVOCALOIDを遥かに凌ぐグミが、現実的な戦力と言っても過言ではない。

敵も強くなってきた現状、潜在音波の無いリンとレンは補助としてならともかく戦力としては力不足が否めない。

もしも―――――もしも今日突然、強大な敵が攻めてきたとしたら? いったい誰がそれを抑えきれるだろうか。


メイコの脳裏にふと蘇る光景があった。

それは一年前の光景。がくぽとの戦いの中で、リンとレンの音波術が覚醒した時だ。皆が一撃のもとに倒され、グミは息の根まで止められ、絶体絶命の土壇場での音波術覚醒。

それと同じような奇跡が、そうそう起きるはずもない。リンとレンの潜在音波が覚醒するだとか。ミクの異常がいきなり治るだとか。

願ったところで仕方がないのだが、力の使えないメイコは今、願うことしかできない。


ならば願うとしよう。この子たちが、目を見張るような奇跡を起こしてくれるのを。










《ビィィィィィィィイイ―――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!!》



突如、町中に警報が響き渡った。


「っ!?」

「これは……!!」


周りの町民は慌てふためいて逃げ惑っているが、メイコたちには一発でこれが何を意味するか分かっていた。

リュウトといろはの襲来の後、新しく設置した警報装置。一定以上の大きさの物体や、莫大なエネルギーを抱えた物体が町を取り囲む山々を超えると鳴り響く仕組みになっている。


その警報が鳴り響いているということは――――――――――



「何かとんでもないものが……町に入り込んできた……!!?」

「どうやらそういうことみたいね……!!」


警報が鳴る基準は『リュウトと同等のエネルギー量もしくは1.5倍以上の全長を持つ物体が町を囲む山を越えた瞬間』。

間違いなく―――――超弩級の強さを持った相手だ。


「どっちだ!?」

「カイト! 飛んで!!」

「応!!」


トン、と地面を蹴って跳び上がるカイト。そのまま卑怯プログラムを使って空中にとどまった。


数秒後―――――カイトの表情に驚愕の色が浮かび上がる。慌てて地上に降りてくると、一方を指さして叫んだ。


「東の空に……何かでかい、船みたいなものが浮かんでいる!!」

「船みたいなもの!? ……まさかっ!!?」


突然顔を青くしたグミが走り出した。


「グミちゃん!?」

「っ……みんな!! グミを追うよ!!」


走り出すメイコ。だがそのスピードは―――――普段よりもはるかに遅い。人間に比べれば結構なスピードだが、彼女にとってみれば身体が重く感じるほどだった。


(はは……あたし、今ホント無力だなぁ……)


己の役立たずさを噛み締めながらも、敵の場所へと急ぐメイコだった。





しばらく走って町はずれに来たころ。


「!」


悲鳴を上げながら、町民たちがこちらに向かって走ってきた。大方カイトが見たという巨大な船を見て逃げ出してきたのだろう。


「……あっ!! メイコさんに他のVOCALOIDの皆さん……!!」


町民の一人がメイコたちの姿に気づき駆け寄ってきた。


「助けてくれ!! でっかい船みたいなのがやってきて、大砲で町を攻撃しだしてるんだ!!」

「……んですってぇ……!? ……あなたたちは早く逃げなさい!! 私たちが対処する!!」

「は、はいっっ!!」


逃げていく町民たちの方には何も襲ってこないことを確認したメイコたちは前を走るグミの後を追う。


しばらくするとグミが急に足を止め、上を見上げて呆然としていた。


「グミ!? どうしたの!?」

「……あれを見て」

「え……?」


そう言われて一同が上を向くと――――――――――





―――――――――――――――巨大な戦艦が、宙に浮いていた。





『!!!!!!!!!?』


思わず開いた口が閉まらなくなるほどの衝撃を受けたメイコたち。

全長はざっと300mはあろうか。少なくともかの戦艦大和よりは遥かに大きい。

形はまるで剣の様。例えるならば鋭い投げナイフだ。

船体の色は敵の精神に反して鮮やかな白。だが澄んだ純白ではなく、どこか禍々しいほどの白。

船体のあちこちから人の背丈ほどありそうな大砲がいくつも顔をのぞかせている。


―――――まさに文字通りの、空飛ぶ戦艦。


「……………デストロイア」


グミの呆然とした声だけが響く。諦観の入り混じったような声が、戦艦の正体を、存在を、その強さを物語っていた。


「なんですって……?」

「研究者組織『TA&KU』の技術の粋を集めた破壊兵器の結晶……空中戦艦『破壊者(デストロイア)』。圧倒的な攻撃力と圧倒的な防御力で、敵の攻撃を受け付けずに敵を殲滅する正真正銘の破壊兵器……!! 私もアレが飛んだところを2回ほどしか見たことがないけど、まさかあれを引きずり出してくるなんて……!!」

「へぇ……ついに敵も本腰入れて俺たちを殺りに来たってわけか……!!」


レンが拳を手のひらに打ち付けると同時に、全員が臨戦態勢を取ろうとする。


「……でも……なぜ?」


だがグミだけは、未だに何か謎が解けないようだった。


「……何がよ?」

「あの船は敵の軍隊を殲滅するのには向いているけど、小数を倒すのには向いてないのに……私たちを倒すためだけにあんなものを引きずり出してくるなんて……?」


そこまで言ったグミの顔に―――――恐怖の色が浮かび上がった。


「ま……まさか……あいつら……!!」





『私たちを……VOCALOIDを、“この町ごと”消し飛ばすつもり……!?』





『っ!!!!!!!?』


戦慄が走った。

強大な力で敵を殲滅させる戦艦―――――確かに個人を狙うには不向きな代物だろう。敵が手練れともなれば蜂に翻弄される熊同然だ。

だがその敵の『大事なもの』ごと吹き飛ばすことを前提とするならば―――――これ以上に最適な兵器もない。味方は何も考えず残りの燃料だけに気を付けて全砲門を町に向けて放てばいいだけだが、敵は自分たちと共に狙われている物を守って戦わなければならない。

仮に敵がそれを目的に、この巨大戦艦を飛ばしてきたと考えると―――――


「じゃ……じゃあ、まさかあの船……この町に向かって――――――――――」


リンがそこまで言った瞬間―――――地鳴りのような音と共に戦艦の側面に取り付けられた大砲が町に狙いを定めた。


「!!! アレは確か……広範囲粒子砲……カイトさんっ!! バリアを!!」

『言われずとも!! 卑怯プログラム発動『絶対バリア』っ!!』



カイトが蒼いバリアを町全体に張るのと、片側5門、全10門の粒子砲が火を噴くのはほぼ同時だった。

だがバリアが安定するよりも速く―――――禍々しいピンク色をした、十条の極太レーザーがバリアに叩き付けられた!!


『があっ!!?』


バリアを歪ませるほどの凄まじい衝撃。それはバリアを支えているカイトにも伝わる。

衝撃でバリアが歪むと、同時にカイトの体が軋みスパークを放つ。長くは―――――持たない!


『ぐぅぅぅ……んの……オオオオオッ!!!』


必死に耐えるカイト。だが―――――バリアが耐え切れない。粒子砲の凄まじい圧力が――――ついにバリアにヒビを入れた!!


「まずい……!! リン!!」

「う、うん!!」


飛び出してきたリンとレンの手がパン、と合わさり、そして掲げられる。


『ツイン・サウンド・バリア!!』


凛とした声が響き、絶対バリアのヒビの入ったところを覆うように黄色いバリアが展開した。


(カイト兄みたいに町全部を覆うのは俺らの力じゃ無理だ……でも!!)

(ヒビを覆うくらいなら……!!)


しかしそれでも力が足りない。全力を注ぎこんでいても、リンとレンのバリアはすぐに壊れ、カイトのバリアにかかる負担が増えていく。

何度バリアを再生させても同じこと―――自分たちの無力さを呪った。


が―――――数分後。不意に全身にかかる圧力が消えた。


『……?』


思わず瞑っていた眼を開いてみると――――粒子砲が止んでいる。先ほどまでの轟音が嘘のように静まり返っている。船も動きを止めているようだ。


「これは……」

「たぶん……クールタイムじゃないかな」


呆けている一同の後ろで、グミがポツリとつぶやいた。

これほど強大な兵器。通常武器ならともかく、あんな大砲を噴き出し続ければ白熱状態になってしまうのだろう。


「く……なんて……火力だよ……!!」


よろめき膝をつくカイト。慌ててリンとレンが回復に回った。だが自分たちもつかれているせいか、思うように回復が進まない。

その間、残りの面々は上空に留まる戦艦を恨めし気な目で見つめていた。


「あれ……なんとか引きずりおろせないかな?」

「ルカ!?」

「てゆーかやってみないとわかんないよね!! でぇえい『サイコ・サウンド』っ!!」


小さな体で力いっぱい叫ぶルカ。天に伸ばした両手から放たれた念動音波が船に向かって伸びていく。

―――――が、空気の揺らめきは船まで届くことなく解けて消えた。当然だ。『サイコ・サウンド』は純粋な念力ではない。どんなに念動力を持っていても所詮は音波なのだ。勢いを失えばただの空気として霧散消失する。


「う~~~~~っっ!! えぇああ!! うりゃああ!!」


幾度も手を振り回し、音波を飛ばすルカ。しかし何度やっても同じこと。音波は船に届くことなくその勢いを弱めてしまう。


「ふええぇ……いぃ……」


『サイコ・サウンド』を連発したことで疲れてしまったのか、振り回した手に振り回されて尻餅をついてしまう。

ただでさえ体力や身体能力の落ちている状態の彼女にとって、『サイコ・サウンド』連発はあまりにも負担のかかる行為なのだ。


「ああもう、無茶するから……!」

「だって……だって……」


それでもなお声を張り上げんとするルカを抑えながらも、メイコはここまで小さな少女が戦わんとする一因が自分にあるであろうことを痛感していた。


(責めて……あたしの音波が使えれば……!!)


歯痒さを抑えきることができないメイコ。『メイコバースト改』ならば確実に届く距離だった。


そんなメイコを―――――後ろから見つめるミク。

そして何かを決意したように―――――前に出た。


「……皆」

『え?』





『20分のうちに対策を考えて。私があの船を足止めする』





『な……なぁっ!!?』


皆から驚愕の声が溢れたのとほぼ同時に、飛びかかったメイコがミクの胸ぐらを掴んだ。


「ミク!!! あんた何馬鹿なこと言ってんの!!? あんたにはリミッターが……!!」

「そのリミッターが尽きる前に戻ってくるわよ!!」

「そんな保証がどこにあるっていうのよ!!?」

「だけど他に誰が戦えるっていうのよ!! ルカ姉は子供になっちゃってるしメイコ姐は音波が使えない!! カイト兄さんとリンとレンは町を守らなきゃいけない!! グミちゃんは戦えるかもしれないけど、でも次に砲撃が来た時の迎撃要因として地上にいなきゃいけないでしょ!?」


そう言って空の船を見やる。巨大で禍々しい白い船体。今は静かに、小さな駆動音のみが響くだけだが、いつ砲が火を噴くか、いつミサイルの雨が降るか分かったものではない。


「……20分。それだけあればいろんなことができる。町の人を避難させることも、何かうまくあの船を墜とす方法を考えることも……っ!!」

「……ミク……」


一度ちらりと自分の手を見て、そして決心したようにその手を握りしめて―――――叫んだ。





『EXTENDっ!!!!』





途端に弾ける6色の光。その光の中で、ブラウスが、スカートが、瞬く間に白いスーツとメカニカルパーツへと姿を変えていく。

メカニカルな形状へと形を変えた髪飾りが淡いピンクに光を放つと同時に―――――空気を唸らせながらミクの体が天空高く跳ね上がっていった。

飛び去っていく彼女を呆然と見送る一同。

しかしすぐに我に返ったメイコがカイトに向かって叫んだ。


「カイト!! あんたはハクに連絡して!! 私はネルを呼ぶわ!!」

「応!!」

「グミとリンレンは敵の攻撃に備えて!! 特にリンとレンはいつでもバリアを張れるように準備しておいてちょうだい!!」

「了解っ!!」


即座に臨戦態勢につく。そんな中で、メイコは空へと飛んでいった妹分の描いた空気の奇跡を睨んでいた。










『ミク……!! 絶対に……絶対に死ぬんじゃないわよ……!!!』

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

輝く鏡、拡がる音 Ⅲ~破壊者《デストロイア》~

最悪の状況。
こんにちはTurndogです。

まともに戦えるのが二人だけ。
その状況で巨大戦艦襲来。
考えうるだけの最悪の戦況がVOCALOID軍団を襲います。

そんな中で頑張るロリルカちゃんマジ大天使(お前はこんな時に何を

ところで書いた文章見てて思ったんだけど俺さりげなくフラグ立ててるよね。
無意識ってこわーい(棒

閲覧数:234

投稿日:2014/05/31 22:32:22

文字数:5,909文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    盛 り 上 が っ て ま い り ま し た
    ゆるりーですどうもどうもありがとうございまし(ry

    駆け出すグミちゃんダッシュダッシュ!
    若しかしたらここのボカロはボルトさんより足が速いのではとどうでもいいことを考えました。

    超巨大兵器だと!?
    それを個人企業(企業じゃねえよ)が普通に作れる世の中になったのか!なんでそんな金あるんだ!羨ましい!(そこかよ
    こんなのがポンポン来るんじゃ我が家のがっくん永住できないじゃないですかやだー!(※永住しません)
    あと「2回ほどしか見たことがない」って充分すぎるくらい大事件。
    四獣物語の四人とこの兵器だとやっぱり四獣物語のが強いですよね(謎の決めつけ)。

    カイトのバリアが効かない…だと…
    あれですよね、変なサイト開いちゃってもウイルスがバンバンきちゃうのをバーンと防ぐくらいには役立ちますよね←

    ルカちゃんなう!

    皆めーちゃんだって頑張ってるんだからあまり言っちゃだめよ。
    もうやめて!めーちゃんのライフはもう0よ!

    さりげない「ハクを呼べ」。
    これはとうとうハクさんの「あまりに卑怯な力」のお披露目が近いということですな?
    どんな力なのか想像もつきません。
    「相手の戦力をそっくりそのままこちらの戦力にできる」とか←んなわけない

    はてさてどのように撃退するのか楽しみです。
    面白いコメント残そうと思いましたが無理でした。

    2014/06/01 00:16:26

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      フィナーレに向かって突っ走り始めたぜ!w
      選挙か!(どんなツッコミだ

      絶対速いってw
      しかも持久力ボルトさんの数万倍だぜ絶対←

      相変わらずゆるりーさんいい点突くなぁ……(あえてどこがいい点だったのかとは言わない
      いやいやゆるがっくんならチョーク(表面は炭酸カルシウムだが中身は純金製)マシンガンブチ込んで轟沈させそうな気がするよ!←
      まぁこんな巨大戦艦2回も出動させるってむしろ何があったんだよってレベルだけどw
      4人合わされば多分強い(多分なのかよ

      ルカちゃんルカちゃんルカちゃんなう!!!

      大黒柱だって腐る時があるんです(大事故寸前だそれ
      (`・ω・´)つげんきのかたまり(まさに外道

      その通り! かもしれないしただの雑用かもしれない!(おい
      彼女の力を見た時っ!! 貴女は思わず『なんて卑怯な力なんだ』と呟くだろうっ!!《何キャラ

      充分楽しいコメントでございますw

      2014/06/01 01:19:00

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