――――――
朝、目を覚ますと。
横にいるはずのグミの緑の髪が、僅かに揺れた。
……心無しか、昨日の夜中より短い?
「……おはよう」
試しにそれだけ声をかけてみると。
「あー……はよ……って俺なんでこんなところにいるんだ?」
え、なんか低音?
グミの声がなんか低音?
しかも一人称俺?
「ここ、どこ……ってえーカイコが男になってるー!?」
それはこっちの台詞だ!
……起き上がって来た、俺の彼女だったはずの人間は、男になっていた。
「……ごめん、いろいろと確認したい。いい?」
俺が目の前の青年にそう言うと、そいつもこっくりと頷いた。
しかし、顔立ち、グミに似てるなやっぱり……
髪型も少し短いだけで……
……ちょっと可愛いかも?
いやいや、無い。さすがに無い。男だし。
「えっと、まず、君の名前は?」
「グミヤ」
名前までグミヤなんだ……
「で、君の言ってたカイコって誰?」
「あーっとな……お前そっくりな、女の子なんだけど。俺の彼女。あ、髪はもう少し長くて、声も当然たけーんだけど、声質はお前とよく似てる。昨日俺そいつと一緒にいたはずなんだけど、なぜか男になってた訳で……というかお前の名前何よ?」
「俺はカイトって言うんだけど……」
グミヤはゆっくりとため息をついた。
……俺の方こそ、ため息をつきたい。
何で朝起きた瞬間彼女が男になってるんだ……
「要するに。俺らは二人とも、彼女が男になったと思ってるわけだな……」
「あぁ……そういうことになる」
今度は二人でため息をつく。
と、笑いがこみ上げてきた。
「カイトさん……何で笑ってんのさ」
「いや……何でこんなことになるかなーと思って」
「言えてる」
グミヤも笑い出す。
「今頃グミとカイコさん? だっけ? で同じことやってたりして」
「確かに。でも女同士のがまだビビらないだろうな」
「それは言えてる」
俺たちはしばらく笑い合って、お互いの彼女の自慢をしたり、情報を共有したりしていた。
昔からの仲良しのように思えて。
これはこれでよかったな、とちょっと思ったりして。
――――――
「……っていうね、初夢を見たんだよ。正夢になったらどうしよう」
俺は、美味しそうにお汁粉を食べているグミの横で寝転がっていた。
昨日……今日見た夢を、洗いざらい話す。
「ならないならない。話したら正夢にならないって言うし」
グミはお汁粉を食べるのに夢中だ。
それが何となく寂しくて、ごろごろと床を転がってグミのすぐ横にくっつくと、グミはお汁粉を机に置いてくすりと笑った。
「どうしたの」
「何かね、初夢がさ。グミが男になるって不吉だったし、何となく不安だし。自分が夢の中で安心しているのがもっと怖かったし」
「カーイートー。ただの夢だってば」
結構さっくりしてて、現実主義なところあるんだよな、普段は。グミって。
俺が現実からかけ離れたようなぼんやりした頭をしているからだろうか、少し哀しい。
そう思ったら、グミはふと俺の髪の毛に手を触れた。
「正夢にはならないよ」
「……話したから?」
「そ。何でも話してくれるのは、嬉しい」
「……っ」
素直に、正直に、自分の気持ちをはっきりと口にする。
嬉しい、好き、楽しい。
でも哀しいとか辛いとかはほとんど言わない。
……そういうところが、尊敬したくもなるし、守ってあげたくもなる。
ちょっと、引け目を感じるけれど。
「それに、もし正夢になったら、あたしカイコさん殴っちゃうよ」
「……何で」
「『何で女の子になっちゃったのー!?』って」
……グミなら、やりそうだ。
殴るっていうかこの子なら枕投げそう。
「でも、カイコさんでも元がカイトなら許すかな。少しだけ」
ほんの少しそっぽを向いて、頬を赤く染めて。
そんなところは変わらない。
そのそっぽを向いた頬を引き寄せて口づけると、グミはびっくりしたように俺を見た。
「ちょ、カイト! 何を突然」
「お汁粉ついてたよ」
「嘘でしょ!?」
「嘘。何かその……可愛かったから」
素直に言うのは恥ずかしくて、でも、やっぱり言った方が良いことだから。
ちょっとだけ口にすると、グミはそのまま俺の隣に横になった。
顔が見えないように、背中を俺に向けて。
「どうした」
「……新年明けて一番嬉しかった」
「何が?」
「初夢話してくれたことと、今の言葉」
いつも全然言ってないのは自覚がある。
……やっぱり、言って欲しかったんだなぁ。
言って欲しいなんて、ほとんど言わないけど。
「……今年もよろしく。……俺が好きなのはグミだから」
顔見せてないから言えること。
それだけぼそりと呟くと、長いこと返事は返って来なかった。
「寝てるの?」
「寝てる」
「起きてるじゃん」
「嬉しくて言葉にならなかったんだよ。……あたしも、好きなのはカイトだから」
「……っ」
すごい恥ずかしい。
でも、何かやっぱり幸せだなぁ。
言ってよかった。
「……てか、カイトの恋愛能力って中学生とか高校生ぐらいだよね」
「うるさいなぁ」
「そこも可愛いからいいけど」
「……っ」
「勝った」
「……負けた」
何にだ。
よくわからないけど負けた。
よしここは話をそらそう。
「グミの初夢は何だったのさ」
「……嬉しい夢だったから言わない」
「え、何」
「さっき正夢になった。言わなくてよかったかも」
……本当に、可愛い。
でもこれ以上は恥ずかしくて言えなかったから、全力でグミを抱きしめると、グミは嬉しそうに笑った。
今年はきっと良い年になる。
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