「…ねぇ。カイト先生。」
「なぁに、レン君??」
「こんな事聞くのもどうかと思うんですけど…。」
「?」
入院生活の一日目が終わろうとする頃、僕とカイト先生は夕日の眩しい屋上で話し込んでいた。
「…ほんっとに言いづらいんですが…。」
「なぁに??」
僕は意を決して口を開く。
「この病院って、なんでこんなに人少ないんですか??」
今までずっと感じていた疑問をぶつける。
…この病院は、患者、医師、看護師、全てを含む“人”が少な過ぎる。ここだってわりと立派な病院だし、外見もそこそこデカイ。
けれど、入院してる患者も、働いている医師も、看護師も、ほとんどいない。ホントにこんな人数で病院は機能するのだろうかというほどに。
それを聞いたカイト先生は、少しだけ目を伏せただけで特に驚く様子もなく、「…あー、ばれちゃったかぁ。」と言った。
「さすがに嫌でも気づきますよ。これだけ人少ないと。」
「そっか。」
と、カイト先生が目を細め、微笑しながら目の前をまっすぐ指差す。
「ねぇ、あの看板の向こうの大きな建物わかる??」
僕は目を細めて看板の向こう側を見据える。いかにも作り立てと言うような、白い大きな建物が見えた。
遠目でもわかるくらい派手な作りをしている。まるで外国の古城のような精巧な石造りの飾り。この病院が5階建てであるのに対し、向こうは…少なくとも2倍はあるだろうか。
「あそこもね、ここと同じ、病院なんだ。」
「病院!?」
驚いた。まさかあんな無駄に豪華な建物が病院だなんて。
「…病院って、白くて清潔感のある建物のことじゃないんですか…??」
「んー、ホントはそのはずなんだけどねぇ…。」
はは、と眉を八の字にして苦笑するカイト先生。
「…で、その病院がどうかしたんですか??」
「この病院潰そうとしてるの。」
「…は?」
「今行った通り。」
「…つまり、あっちの病院の営業にはこの病院が邪魔だから、この病院に潰れてほしいと。」
「察しが良いね。」
「良く言われます。」
「ま、そういう事になるかな~。」
つくづく呑気な先生だ。この病院が潰れそうになっているというのに。
「そういえばレン君、治療中に気付いたんだけど…」
先生が急に真面目な顔をする。なにか重要なことでもあるのだろうか。思わず僕はゴクリ、と息を飲む。
そして先生が慎重に口を開いた。
「…タトゥー、入れてる??」
「…は?」
何を突然。タトゥーなど入れている訳無いだろう。校則で禁止されているし、その前にタトゥーを入れた記憶すらない。痛そうだし。つか痛いらしいし。
テレビなどで呻き声を上げながらタトゥーを彫る人達を顔を顰めながら見ていたのを思い出した。
「入れてる訳無いじゃないですか、何考えてるんですか。」
「でも、これ。」
そう言ってカイト先生は僕に一枚の写真を見せる。
「な…っ!!」
それは恐らく僕の足首の写真。そこには、真っ赤な六亡星の様な模様のタトゥーの様なものが入っていた。うわぁ悪趣味。
「治療中に撮った写真なんだけど。…レン君、ちょっと足の包帯とってくれる?」
「言われなくてもそうしますって。」
入れた覚えのないタトゥー。誰よりも早く、まっさきに自分で確認したい。そう思って、素早く自分の足に負かれている包帯を外す作業に取り掛かる。
弾力性のない真っ白な包帯を時々指に絡ませつつ、何とか外し終わり、足を見る。
「え。」
「あ、やっぱり。」
が、そこには何もなかった。
何度も見ても、目を擦っても、そこにはただ、比較的白い自分の足があるだけだった。
「カイト先生。」
「ん?」
「その写真…インチキだったんですか…?」
「違うよ。ちゃんと日付入ってるし。」
「じゃあ何でっ…!?」
・・・
「消えたんだよ」
「…きえ…た…?」
「そう、消えたの。処置中に。」
それからカイト先生は処置中に起こった出来事を話してくれた。
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