炬燵で暖を取りつつ、レンは上に置かれた篭から蜜柑を一つ手に取る。
この炬燵はここ最近、急に寒さが強くなった為にマスターが引っ張り出した物だ。
「今年は積もるかもな」なんて言ってのを思い出しながらも、彼としてはどっちでも興味はないらしい。


「レ~ン~…」


そう名前を呼ばれて視線を右に向ければ、足どころか両手も炬燵に突っ込んだ双子の姉がいる。
そんな姿に呆れながら、レンは彼女に声をかけた。


「あのさリン…蜜柑ぐらい、自分で剥きなよ」

「やーよ…寒いもん」


そう答えたリンは身体を丸くし、ますます炬燵の奥に潜り込む。
レンは溜め息を溢しながら、自分が食べる訳でもない蜜柑の皮を剥いていく。
そうして現れた中身を一切れ取ってリンに差し出せば、それを口に含んだ目の前の少女の顔が幸せそうに緩んだ。


「ホント好きだよね…蜜柑」

「だって美味しいんだもん。レンが剥いた蜜柑なら、美味しさも倍増だよ♪」

「はいはい。お褒めいただき、ありがとうございます」


言い合いながら口を開いて次の蜜柑を待つリンを見ながら、レンは雛鳥に餌をやる親鳥の気持ちがなんとく分かった気がした。
そして同時に、嫌がる事なくこの状況を当たり前に受け入れている自分に、呆れを覚える。


「そういえば、マスター達は?」

「買い物に行ったよ、暫くしたら帰ってくると思う」


レンの答えに対して、リンは「ふ~ん…」と薄い反応を示す。
その様子から、彼女の興味は別の所にあるとレンは予想した。


「最近のマスターとテトさんさ、仲良いと思わない?」

「…あの二人が仲良いのは、最初からでしょ」


レンは呆れたように言うが、彼女が言いたい事は理解していた。
リンはその言葉に、不満そうに言う。


「違うの!明らかに前より、その………仲良くなってるの!!」

「さっきと言ってることが一緒だよ」


レンは苦笑しながら蜜柑を差し出し、リンがそれを不満顔で口にする。
睨むようにしてこちらに向けられる視線に、溜め息を溢しながら彼は言った。


「まあ、言いたいことが分からない訳じゃないけどさ」

「でしょ!?」


同意を得られて、途端に明るい反応をするリン。
レンは新しい蜜柑を手に取って、皮を剥いていく。


「相変わらず、距離感は変わってないみたいだけどね」

「そうなんだよね…もっと分かりやすいぐらいに、仲良くすればいいのに」


それはそれでどうだろうと思いつつ、レンは蜜柑を口に運ぶ。
リンからしてみればあの二人の関係は、どうにも焦れったく感じるらしい。


「僕はあの二人らしくて、悪くないと思うけど?」

「それは…そうなんだけどさ」


レンの言葉に、リンはどこか納得しきれていない様子だ。
しかし開いた口に蜜柑を運ぶレンにとっては、そんな所にあまり興味はあまりない様子で。


「…リン。せっかく二人きりなのに、マスター達の話ばかりするのはどうかと思うよ?」

「…え?あ~………」


レンはそう言って、リンとの距離を少しばかり詰めた。
その言葉に含まれる僅かな感情を察したリンは、言葉を濁しながら後退りする。


「で、でも二人きりの時じゃないと、こんな話なんて出来ないでしょ?」

「………確かに、それもそうだね」


その言い分に納得した様子を見せて、レンは元の位置へと身体を戻す。
ホッとして体勢を戻したリンは、口の中に残った皮を飲み込もうとした。
しかしそれが難行してるのか、苦しそうな顔をしてそれを飲み下す。


「リン?大丈夫?」

「う、ん…大丈夫。ちょっと、飲み込みづらかっただけだから」


心配そうな顔するレンに、リンは軽く咳き込みながら答える。


「たまにこういうのがあるから、この薄皮って苦手なんだよね」

「じゃあ、これも剥こうか?」

「さすがに気が引けるよ…これ、剥きにくいし」


一応は皮を剥いて貰ってる事を気にしてるらしく、リンは申し訳なさそうに言う。
先の発言はあるが、レンからしてみれば別に気にはなってないようではあるが。


「それぐらい、別に構わないのに」

「私が気にするの!」


頑固だなと思いながら蜜柑をリンの口に運ぼうとして、急にレンの手の動きが止まる。
後わずかの所でお預け状態にされたリンは、レンの行動に疑問を抱きながらも催促の声をあげた。


「レーンー」

「急かさないでよ、良いこと思い付いたからさ」


そう言ってレンは、リンの口に入る筈だった蜜柑を自らの口に放り込んでしまった。
全く予測していなかった彼の行動に、リンは声を大きくして訴える。


「それリンの蜜か―――っ!?」









だがリンの言葉は、それ以上は続かなかった。
それはレンの口が、リン自身の口を塞いでしまったからである。


「~~~~っ!?」


いきなりの事にパニックになったリンが、レンを押し退けようとする。
しかしいつの間にか彼女の両手はレンによって抑えられていて、抵抗する事さえ許されなかった。
身動きさえままならないリンは、その場にされるがままに押し倒される。


「…ん………っ」


レンは口の中の蜜柑を歯で軽く潰して果汁を絞り出し、それを舌を器用に使ってリンの口内に流し込む。
リンがそれをこくりと飲み込んだのを確認して、レンは口を離して口に残った物を飲み下した。


「っ………はぁ…」

「美味しかった?リン」


顔を赤くして息を荒くする目の前の少女に、レンは満足したように笑う。
そんな少年を睨むように見て、呼吸を整えながらリンは呟いた。


「…レン、怒ってるでしょ」

「怒ってるわけじゃないよ…ただリンがマスター達の話ばっかりするから、ちょっと腹が立っただけ」


レンは言いながら、優しくリンの頬を撫でる。
どうやら先程の事を、彼はまだ気にしていたらしい。


「二人きりでいる時くらい、僕だけを見ててよ」

「いくらなんでも、執着心が強くない?」


そう呆れたように言って、リンもレンの頬に手を添える。
だがその表情には声とは裏腹に、どこか嬉しげな笑みが浮かんでいた。


「強くもなるよ。…僕はリンと一緒にいれるなら、何も要らない」

「…それは、ちょっと悲しくないかな?」


レンの言葉に、リンの笑みに寂しげな様子が浮かぶ。
そんな顔をする少女に、レンは疑問を投げ掛ける。


「なんで?リンは、僕と一緒にいるのは嫌?」

「そうじゃないの…。私は、マスター達も好きだって言いたいの」


リンそう答えて、頬に添えていた手をゆっくりと下ろす。
その後に自身の頬に当てられた少年の手を、優しく包むように自分の手を重ねた。


「もちろん私だって、一番好きなのはレンだよ?…でもそれは、レン以外は嫌いって事じゃない」


その声は微かに震えていて、不安の色が見え隠れする。
レンはそんなリンの声を、ただ黙って聞いていた。


「レンだってマスター達の事、好きでしょ?」

「………嫌い、ではないよ」


リンの問いに、レンは苦笑混じりに答える。
だがそんなひねくれた答えも、リンにとっては十分だったようだ。


「だったら…私以外は要らないなんて、悲しいこと言わないでよ」

「………うん、ごめん」


レンはリンの上体を抱き起こして、その両腕でしっかりと抱き締めた。
リンもレンの背中に腕を回して、同じように優しく抱き締め返した。


「それに、心配しなくていいよ。私はちゃんと、レンを見てるから」

「…うん」


リンの優しげな声が、静寂な部屋に響く。
空間に漂う冷たい外気さえも、互いの温もりで気にもならなかった。


「今からはちゃんと、レンだけ見てるよ。今だけは、私の目にはレンしか映らないよ」


言いながら顔の見える距離まで離れれば、レンの嬉しそうな笑顔があった。
リンは一言だけ小さく呟いて、彼の頬に優しく口付けを送った。






















(だからレンも、今は私だけを見ててね?)




ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

今、この時だけ

良い双子の日という事で…良い双子に則しているかは謎ですが←

レンはリンに依存してて、リンはそれを優しく受け止めてあげれば良いなと思います(・ω・*)

閲覧数:849

投稿日:2010/11/25 22:48:20

文字数:3,324文字

カテゴリ:小説

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