…ミクさんに起こされる前、僕は夢を見ていた。
昨日は指輪が取り戻せるか心配でなかなかうまく寝付けなかったはずなのに、気づけば眠り込んでしまっていたらしい。
夢の中で、僕は懐かしい庭に立っていた。
色とりどりの花が咲き乱れる美しい庭園。端の方には白いクロムウッドの木で造られた東屋があって、その手前の芝の上で、僕と姉は仲良く花冠を編んでいた。
普通の編み方では飽きてしまって複雑な作り方を研究する僕と、不器用にたどたどしい手つきで、ちょっと不格好な冠を作る姉。
見慣れた、でも一番幸せだった時間。
僕が一番、僕でいられた頃―――。
人込みをすいすいと進んでしまうミクさんに追いつこうと、僕は人にぶつかりながら足を速めた。
朝ごはんを昨日も訪れた酒場で食べ、なんだか色々なことを笑われたり怒られたり呆れられたりしながら会計を済ませて店を出て、ミクさんはすぐに「質屋に行こう」と歩き出した。
僕よりも頭一つ分低い、宝石のような緑の髪を必死に追いかけながら、僕はミクさんのことを考える。
指輪を奪い取られてしまって途方に暮れていた僕に、声をかけて助けてくれた彼女。儚げで頼りなげにも見えるくらい、細くて上品な雰囲気の人なのに、とてもしっかり者で、しかも傭兵だった。
女性の傭兵に会うのは初めてだったからまずはそれに驚いて、そしてその強さに圧倒されて。
すごい、と思った。こうなりたかったと思った。
こうなれていたなら。せめてミクさんの10分の1でも強かったなら、と。
ミクさんのことをまるで知らないのにそう思って、腰に吊っているだけの短剣をそっと掴んだ。使えもしない短剣。家を出るときにこっそり父の部屋から持ち出した、僕には縁のなかった武器。
数歩先を行くミクさんが振り返って、遅れ気味の僕に気付くと立ち止まってくれた。僕は駆け足でミクさんに並ぶ。
「大丈夫?歩くの早かった?」
「あ、いいえ。僕が遅いだけですから」
「そう?…でも、もうちょっとゆっくり歩くね」
別にお店は逃げていかないもんね。そう言ってミクさんは笑う。
僕は笑い返して、少しゆっくりと歩いてくれるミクさんと並んで歩き出した。
********************
鏡音くんが遅れているのに気づいて立ち止まる。追いついてくる彼を眺めながら、私は妙なことになったな、と不思議に思った。
私は、自分で言うのもアレだけれど、結構淡白な性格をしていると思う。傭兵という仕事柄、人間関係はだいぶビジネスライクになってくるし、本当に心を許している人なんて世界に3人位しかいない。というか、3人しかいない。
だから、こうして鏡音くんの面倒を(割とまじめに)見ているのは、珍しいことなのだ。
ただ、それでは彼のことを放っておけただろうかと考えると、多分出来なかったとも思う。
…鏡音君は、私の友達に、少し似ているから。
今は森の奥でひっそりと暮らすあの子に、ほんの少しだけ、似ているから。
だから、きっと放っておくことは出来なかったと思うのだ。
まぁ…あまりにも世間知らずな様子に、呆れてしまう気持ちに嘘はないのだけれど。
指輪が持ち込まれたという質屋は、幸運なことに元ギルドの人間の経営する店だった。
質屋を示す天秤とカササギのデザインされた看板には、「イン・ザ・ミラー」と店名が彫られ、真っ黒で重たそうな扉にはギルドのシンボルで鷲の紋章が刻まれている。通りに面した店だけれど、強盗対策のために窓はない。
「ここ、ですか?」
「そうみたい。店の名前も合ってるし。…入ろっか」
物おじした様子の鏡音くんに笑いかけて、予想通り重たい扉をゆっくり引き開けた。店の奥でカラコロとカウベルが鳴っている。
店の中に一歩足を踏み入れる。
瞬間。私は、続いて入ってこようとしていた鏡音くんに体当たりをして、店の外に転げ出た。
「ミクさん!?」
「離れてて!」
鋭く叫ぶ。私の叫びから一拍遅れて、ぽっかりと黒く穴が開いたようなドアの向こう…店の中から、ナメクジのような質感の触手が飛び出してきた。
「っ!!?」
「…モンスター…!」
息を呑む鏡音くんをかばうように、杖を突きつけて身構える。構えながらも、私は戦うことを少しためらっていた。
荒野ならまだしも、ここは町の中心部だ。確実に一般人が大勢、この周りの建物に残っている。彼らを巻き込むわけにはいかない。それだけは、許されない。
どうする…!
体内の魔力を徐々に集中させていきながら、私はぎり、と唇を噛みしめた。
********************
突如出現したモンスターと対峙する彼らの様子を、冷めた目で見ている影があった。
マントを頭まですっぽりと被り、フードの奥から覗く瞳は刃のように鋭く、氷山のように冷たい。
影は、緊張した表情を浮かべている少女の頭の先から爪先までをじっくりと舐めるように観察して、ふとその唇に笑みをはいた。
氷の息が漏れ出てくるような、温度のない笑み。
「…初音ミク…『心持つ機械人形(オートマタ)』か…」
ふん、と鼻を鳴らして、影はそのまま踵を返す。
「まあいい…『弱き英雄』であれ『心持つ機械人形』であれ…辿り着く者が辿り着けば良いだけだ」
その言葉は、どこまでもどうでも良さそうに平淡でありながら…しかし、どこか、狂ったかのように熱っぽい響きを帯びていた。
<NEXT>
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じん
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
レン君、背が高いのねww
ミクちゃんよりも頭一つ大きいって結構身長あるよねw
あれだね、一人称が変わるあたりが私は好きですww
レン君視点とか、ミクちゃん視点とか…これって単純な一人称よりも難しいですよね?w
さ、次回バトルパート!
バトルものといえば、ここにコメントしてるターンドッグさんがライバルですよ~ww
どっちもがんばれ~ww
2012/06/07 21:13:14
とうの。
>しるるさん
背が高くてイケメンでヘタレなレンくんもありかなと!!
むしろ私の好物でした!←
色々な人の視点を混ぜて書くとごちゃごちゃしがちなので、バランス取るのに必死ですw
バトルパートなぁ…ターンドッグさんに勝てる気がしない、けど…頑張りますw
2012/06/08 13:19:41
Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
おお…!躍動感あふれる感じ!
そして最後の奴は一体何奴…!!?
バトルシーン来ますか!よし、テクを盗むためにメモ帳の用意を(おい
2012/06/06 20:55:56
とうの。
>Turndogさん
盗むほどのテクがあるか…どうか…
ハイテンポで進めるように頑張ります^^
2012/06/07 10:35:30