これは、リンとレンがまだ小学生になったばかりの頃の話。ミクは小学三年生、グミは四年生、ルカは中学一年生、カイトとがくぽとメイコは高校一年生だった。
でもその出来事は充分印象的で、それから8年経った今でもよく昔話として話題にのぼる。
「ねーねー、劇やってみたい!」
みんなが集まって遊んでいるなか、ミクは突然そう言い出した。
「劇ぃ?」
「できんの?」
「てかなんで?」
高校一年生三人組は、突然のミクの発言に首を傾げた。
「劇ってなぁに?」
「あれだよー。幼稚園のなんか、遊んだやつ」
リンとレンが遊んでいたスコップを放り出してミクの方へ向き直る。
ちなみにレンが言ってたのはおままごとのことである。
「私は別にいいけど……」
「リンとレンは大丈夫なのかな?」
ルカとグミは至って現実的。
「あのねー、お母さんと昨日劇見に行ったの!楽しかったの!だからやってみたいの!」
ミクのこういう思いつきは日常茶飯事だ。
リンとレンは首を傾げたまま頷き、グミはリンとレンの頭を撫でつつ笑い、ルカは興味なさそうに頷いた。
その様子を見ながら、残りの三人は苦笑し、結局頷く。
「じゃあねー、役!役決めよう!ミクはお姫様ね!」
「ミクちゃんずるい!リンもお姫様やりたい!」
ミクとリンが早くも言い争いになる。
レンはリンをかばうように立ち、尚更ミクは喚き出した。
「ミクがお姫様なの!」
「あーはいはい。リンとミクと両方お姫様でいいでしょ?」
カイトが仲裁に入り、一段落つく。
「そしたら王子様二人いなきゃダメじゃない!王子様はカイトお兄ちゃんなの!カイトお兄ちゃんがリンの王子様になっちゃダメなの!」
「わかったわかった。俺がミクの王子様なのね。じゃあリンの王子様はレンでいっか?」
レンが目を輝かせて頷く。
「リンもカイ兄がいい~」
リンがそう言うと、レンが泣きそうな顔になった。リンはそれを見て笑う。
「うそうそ。リンはレン王子様がいい!」
……早くも、ツンデレ傾向がある。
メイコとがくぽはため息をついた。……カイトが面倒を見たってことは二人も参加しなくてはいけない。
「みんなはどうしようか?」
「グミちゃんはねー、ミクのねー、メイドさん!」
普通はメイドさんと言われれば怒りそうなもんだが、グミはいつもミクの面倒を見ているのでここで我がままを言っても無駄なことを知っている。
「んー、わかった」
「じゃあルカお姉ちゃん、リンのお母さんね!」
「ルカお姉ちゃんは悪役がいいよ!」
小さいのが三人、きゃっきゃっと喜んでいる横で、ルカは無関心そうにそちらをみやった。
「悪役?」
「うん!」
「えーでも、ルカに悪役なんてできるわけないよー」
カイトがふふっと笑ってそう言った。
なんだかんだ言っても小さい子が好きなんだろう。
しかしそれが大きな間違いだったらしい。
「……いいけど、悪役でも」
「え、いいの?」
「リンのお母さんが悪役なのぉ?」
「いいじゃんいいじゃん。お母さんなんだから」
ルカが珍しくにこりと笑う。
何も裏がなさそうに見えるのその笑みに恐ろしい裏があることなどそのときはわからなかったみんなは、にこにこと笑った。
「じゃあメイコお姉ちゃんはミクのお母さんね!」
「えー母親ぁ?まだ16なのに……」
「まーまー、気にすんな。俺はおそらくおじいさんとかやらされるんだろうから。」
不満そうなメイコを、がくぽがなだめる。
「結局メイコも乗り気なんだな。」
「いや、やるしかないっしょ、これ。カイトの馬鹿が王子様なっちゃったんだし。」
「がくぽお兄ちゃんは、リンの執事さんがいい!おじいさん嫌!」
がくぽが不思議そうな顔をする。
「執事?お前どこでそんな言葉覚えてきたんだ?」
「グミちゃんがねー、ルカお姉ちゃんとねー、話してた!」
グミが黙って肩をすくめる。がくぽは盛大に苦笑した。
そんなこんなで配役と、物語……ミクがルカにさらわれそうなところをカイトが助け、リンは逆にメイコにさらわれそうになったところをレンに助けられるという至ってシンプルなものが決まった。
舞台は公園の広場を戦いの場所に、滑り台をミクの家に、ブランコをリンの家に。
シンプルに終わるはずだった。
もうすでにこの時点でそれが狂っていたのに気づく人は一人をのぞいていなかった。
途中までは予定どおりだったのだ。
「リンはいただいた!」
「一歩でも動いたらミクを殺す!」
はなはだ小学生にはよろしくない内容だったが、年配陣が割と楽しんでいたのでそこは目をつぶるとして。
まだここまではよろしかった。
「ミク!今助けにいくから待ってろ!」
カイトが広場の近くの小さな山から飛び降り、ブランコまで走っていく途中で、怖くなったリンがメイコを突き飛ばした。
不意打ちを食らったメイコが、後ろによろける。
そこは滑り台の上の穴のあいた場所で。
「危ないめーちゃん!!!!」
カイトが方向転換し、全力疾走で滑り台の後ろに回った。メイコを支える。
そのとき、レンがリンを助けに走ってきた。
「リンを返せ!!!」
力一杯メイコを殴りにいく。
しかしメイコとレンの間にカイトが立っていたものだから大変だ。
「カイ兄までリンを!!!!」
レンがカイトを先に攻撃しだした。
しかし本気で戦ってくるレンと違い、カイトは本気で戦えないので、防戦一方になる。
グミが困ったような顔で制止に入るが、そのときレンが見境無くグミまで殴ろうとした。慌ててカイトがそっちも助けに回る。
そこでリンが、レン助けて!などと叫ぶからレンは張り切ってしまう。
「ちょ、レン、レン、待って!待って!ちょっ、え、だ、ダメダメダメ!」
ついにカイトはお腹を殴られて倒れ込む羽目になり、がくぽがぎょっとしてカイトを担ぎ上げた。
「レン王子様、ありがとう!」
「リン、無事だったか?」
レンとリンは気にせず感動の再会をしている。
そしてそこからがさらに大変だった。
「……がくぽさん、カイトさんをこっちに連れてきてちょうだい」
ルカが無表情でがくぽに命令する。
よくわからないままがくぽがその通りにすると。
「無様な格好ね。負けた側はとらわれると決まっているでしょう?」
ルカがにっこりと笑った。
「悪役なんてできるわけないって言ったことがどれだけ間違いだったか思い知らせてやる」
さらりと言われ、カイトがひ、と息を飲んだ瞬間、ルカはカイトの脇腹を思い切り蹴り上げた。
痛みでのたうち回るカイトの手を踏む。
「こんなんで痛がっているとは、情けない王子ですこと」
そしてなぜかルカが持ってきていた縄でカイトの腕と足を縛る。
「何しようかしら……?抵抗したらミクを殺すわよ?」
爪でカイトの頬をなぞる。
他の人は全員あまりの恐怖に固まってしまい動けない。
「レンはさすがだわ……この人を捕獲してくれるなんて」
カイトの顔は青ざめ、逃げようとするが縄がそれを許さない。
「髪を刈ったら伸びるまでどれくらいでしょうね……?はさみを持ってきた方がよろしくて……?」
ついにカイトは叫んだ。
「ごめんなさいーーーー!!!!!!ルカ様ごめんなさいーーーー!!!!許して!!」
ひれ伏すようにしたカイトを見て、ルカは満足そうに笑った。
「わかればいいの、わかれば」
「カイト、その後数週間はルカさけてたもんね~」
今もまた、みんなでなんとなく集まったとき、その話になる。
「いや……怖かったんだよ……髪刈るとか……うん……」
「ごめんなー、止めらんなくて」
「そうだよがっくん!止めてくれないから!」
「カイ兄……ごめんね?俺小さい頃馬鹿だったから……」
「……レン……あんな本気で殴るなんて……」
ルカはずっとくすくす笑っていた。
「カイトさんのやられている姿、面白かったわ」
カイトの顔がまた青ざめた。
「もう嫌だあああああああああああああああああっ!」
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