「カガリビト」3章【ハロー、プラネット。】の続きです。
【カガリビト】
ドアを開けると、そこは見覚えのある風景だった。カガリ火の里の裏山の山頂。快晴の抜けるような青い空の下、初夏の風に白いクチナシの花が揺れていた。
そんな中、遠くを見ながら一人佇む白髪の青年の姿があった。
「兄さん・・・」
僕はゆっくりと歩いていき、兄さんの隣に立った。出てきたドアはいつの間にか消えていた。
「兄さん、何を見ているの?」
僕が、横顔を見ながら尋ねる。
「・・カガリ火の里をな・・・」
僕は兄さんの目線の先を見た。遠くに小さな集落が見えた。
「カガリ火の里・・・懐かしいね・・・」
僕も遠くを見たままポツリと呟く。
「あぁ・・・そうだな・・・」
初夏の温かな風がフワリと吹いた。
「ところで、アレク。あのロボットはどうなった?」
兄さんがこちらを見て尋ねる。
「うん。多分なんとかなった・・・」
僕も兄さんの方を向いて答える。
目が合う。
「・・・っぷ」
「・・・っぷっはっはっは・・・」
何だか二人して笑ってしまった。
「アレク・・・ゴメンな」
兄さんは急に真剣な顔で話し始めた。
「兄ちゃん、結局お前を助けてやる事・・・できなかった。いくら物語を壊しても、次の物語が出てくる。そして、ここに来てしまった・・・」
「うん・・・」
「お前も夢で見ただろう?アレク・・・」
兄さんは辛そうに言葉を搾り出した。
「ここでお前は、俺に殺されて・・・死ぬ」
「うん・・・」
兄さんはこちらを向き直した。
「なのに、どうしてここへ来た!?逃げてくれれば・・・どこかに逃げてくれればッ・・・!」
「違うよ、兄さん」
僕は分かっていた。ここで自分が死ぬ事。そして、どこへ逃げたってその運命からは逃れられないことも。それでも、僕には、僕にはやるべきことがある。
「僕は兄さんに殺されるんじゃない。僕は僕の仕事をやるだけだよ」
「ヒック・・・でも・・・アレクが・・・アレクが・・・」
兄さんの顔は涙と鼻水でグショグショになっていた。黙っていればイケメンなのに。
「泣かないの!兄さん!兄さんはこの物語の主人公なんだから!」
「こんな運命なら!こんな物語なら!壊れてしまえばいいんだ!お前を殺してまで、俺は物語を進めたくない!!」
兄さんは子供の様に駄々をこね始めた。
僕は兄さんの手を取り、目を見てゆっくりと話した。
「兄さん、終わらない物語ほど残酷なモノはないんだよ。僕が最初に左足を失った物語・・・そこでは、役目を終え、カガリ火の消えた主人公たちが、エゴにより無理矢理延命させられていた。僕の初めての使命はカガリ火を灯すことじゃなくて、消すことだったんだ。その時、僕はその使命の意味が分からなかった。でも、今なら分かる。なぜ生きているのか、なんのために生きているのかも分からずに、ただひっそりと忘れられて消えていくよりも、たった一つ、たった一人にでいい。何かを残せたならば、それはすごく素晴らしい事だと思うんだ・・・」
「でも・・・でもぉ・・・」
兄さんが情けない声を出す。兄さんは優秀だったが昔からこんな節があった。本当は怖がりで、泣き虫。なのに僕を懸命に守ろうとしてくれる優しい兄だった。僕はそんな兄さんが大好きだった。
「兄さん、僕は幸せだよ?沢山の命が、誰にも悲しまれず、喜ばれず、当然の様に消えていくこの世の中で、僕のために世界を滅ぼそうとしてくれた兄が居たんだから。僕は世界一幸せな人間だよ?」
僕は兄さんを抱きしめた。
「だから、泣かないで、エレク兄さん。きっと、また会えるから・・・」
僕は兄さんのカガリ火を見た。その炎は黒く染まり冷たくなっていた。
僕は息を大きく吸い込んで叫んだ。
「我が心臓を贄とし、この者に再びカガリ火を灯したまえ!」
胸のあたりが温かくなる。
「アレクッ!ダメだッ!アレク!アレク・・・!」
徐々に眠たくなってくる。
最期に兄さんのカガリ火が見えた。煌々と燃え上がる温かい炎。
「あぁ、この炎だ・・・」
それは小さな頃から僕を守ってくれた、懐かしい、少し頼りないけど世界一優しい炎だった。
僕は兄さんの腕の中で、静かに目を閉じた。
【エピローグ】
夢を見た。
金髪の双子、ココロを作る科学者、世界の終わりを旅するロボット、そして、不思議な声を持った緑の髪の女の子・・・。
俺が目を覚ました時、既にアレクは冷たくなっていた。
俺は、アレクを埋葬した。右手にアレクの好きだったクチナシの花束を持たせて、この丘の里がよく見える位置に墓を作った。
「アレク・・・」
救えなかった・・・。
それどころか、俺は、イタズラに物語を混乱させ、たくさんの人を無駄に傷つけただけだった・・・・。
振り返ると、そこにはドアがあった。
アレクの言っていたことはよくわかる。でも、やっぱりカガリビトのシステムは許せなかった。
神よ。運命よ。もし存在するならば、この矛盾した2つの感情を解決してください。俺の命はどうなっても構わない。我々兄弟の願いを叶えてください。
俺は祈りを込めてドアを開けた。
そこは、薄暗い、近代風の建物の中だった。
「ここは・・・?」
オフィス風の部屋の中、その部屋には机も椅子も無い。ただ一つ、部屋の中央に置かれた台の上にガラスケースが置いてある。
俺はガラスケースに近づいて、中を見た。
「初音ミク・・・?」
そこには、大きく『試作品』と書かれたCD-ROMのようなものが入っていた。
その表紙には、夢で見た緑の髪をした女の子の絵が描いてある。
俺はガラスケースを開け、そのCD-ROMを取り出した。
その瞬間、俺の頭の中に映像が流れ込んできた。
この女の子がクリエイターと言われる人々からカガリ火を集め、たくさんの人にその火を配り、またそれを受け取った人が大きくして女の子に返す・・・。その繰り返しによって、カガリ火が枯れない世界を作っていた。
俺は再び、手元にあるCD-ROMを見つめた。
それは、まだ、ただの音声合成ソフトでしかなかった。
「これが、神の、運命の、答えなんですね・・・」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「我が命を贄とし、このモノにカガリ火を灯したまえ!!」
俺の身体が燃え上がる。同時に莫大な量のカガリ火が、そのCD-ROMに流れ込む。
俺の身体は灰となり、消滅した。
世界はきっと、これからも何かを犠牲にしながら続いていくだろう。それは人間が、物語がある限り避けられないことだ。だが、この子が居る限り、しばらくはカガリビトが犠牲になることはないだろう。
人知れず、物語の影で犠牲になった全ての人々にクチナシの花束を。
残された世界には、縁なしの絶望を。そして願わくば、暫くの永遠を。
【終わり】
【あとがき】
えー、まず、長々とここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。
1年半ぶりに文字を書こうと思いまして、リハビリにと書きました。
せっかくなので、僕の大好きな素晴らしい作品たちの力をお借りしました。汚してしまってごめんなさいの気持ちでいっぱいです。
またぽつぽつオリジナル作品など書けたらいいなと思っています。その時はまた読んでいただけると幸いです。
ありがとうございました。原作様たちに最大限の敬意を込めて。
「カガリビト」終章
※これはmillstones様の素晴らしい楽曲「カガリビト」を元にした「悪ノ娘」「ココロ」「ハロー、プラネット」の二次創作です。私の妄想です。
ちなみに
「カガリビト」・・・楽曲を聞いただけ。設定読んでない。
「悪ノ娘」・・・小説は一回読んだけど実家に置いてきてしまった。
「ココロ」・・・楽曲は聞いた。小説もミュージカルも見てない。
「ハロー、プラネット。」・・・楽曲は聞いた。ゲームやりたいなぁ。
てな感じで、かなり原作様とは食い違っていると思います。勉強不足ですみません。
・あらすじは、カガリビトの少年アレクが楽曲の世界を回ってカガリ火を灯していくお話です。
・中途半端に原作を汚されたく無い方は観ないことをお薦めします。
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