第三章 千年樹 パート1
少し、遠出をしすぎたのかしら。
若草の様な淡い緑色の髪をツインテールにした少女はそう考えて、騎乗した馬の手綱を一度引き絞った。それに反応して、馬の歩みが止まる。
ここはどこだろう。彼女はそう考えて、周囲を見渡した。周囲に見えるものは彼女の髪の色よりも深い緑の木々ばかり。当初は部下のネルと一緒に野狩りに出かけていたのだ。それが、気が付けば一人になっていた。そして、いつの間にか深い森に紛れ込んでいる。
こんな場所、初めて来たわ。彼女はそう考えて、微かな焦りを自覚した。緑の国に関しては全てを知悉しているつもりだったが、まだ私の知識が不足していたということか。昨年亡くなった父親が聞いたらきっとお怒りになられるわ、と思いながら彼女は諦めずにもう一度手綱を緩めることにした。そのまま、方角も分からぬままに騎乗を続ける。一応腰にはレイピアを装備しているから、多少のことがあっても乗り切れるだろう、と務めて軽く考えながら、彼女は空を見上げた。太陽の位置だけでも確認できれば帰還も可能だろう、と考えたのだが、木漏れ日の光はさんさんと彼女の身体に降りかかって来るのに、太陽の姿は見えない。厚い樹木に遮られている為に、視界が届かないのである。
やがて、空が赤く染まり始めた。夕暮を迎えたのだ。
仕方がないか。
薄暗くなった空を見上げた彼女は、今日森を出ることを諦めることにした。幸いにも非常食は二日分を用意していたから、当面は飢える心配もない。今日は野宿して、明日早い時間から帰り道を探しましょう、と考えた彼女は野宿に適した場所を探すことにした。その時、彼女の視界に映った樹木を見て、彼女は思わず感嘆の声を漏らした。
「立派な木・・。」
おそらく数千年の時を刻んだ樹木なのだろう。大人十数人が手を握ってようやく一周できる程度の太さを持つその木の幹を眺めながら、彼女はここで野宿をしよう、と考えた。ここなら安全だろう、と直感的に考えたのである。そこで彼女は馬を下り、手近な木に馬を繋いだ。足元を見下ろすと、沢山の白と黄色の花が咲いている。ハルジオンである。
「綺麗な景色ね。」
彼女はそう呟くと、ハルジオンを踏みつぶさないように注意しながら千年樹のふもとに腰かけた。すると不思議なことに、柔らかい温かさが彼女の身体を包んでゆく。
とても強い生命力を持っている木ね。
彼女はそう考えながら、眠りについた。まるで母親に抱かれているような安心感を覚えたからだった。
その千年樹から少し離れたところに、一つの小さな村があった。森林に溶け込むように生活している、俗世と隔絶されたような場所にある村である。名もなきその村の住人は一つの特徴があった。全ての村民の髪がまるで周囲の深い森の姿をそのまま映したかのような綺麗な緑髪を持ち合わせていたのである。ただ、一人の例外を除いて。
「本当、老婆のように朽ち果てた白髪ね。」
誰かがその白髪の少女に向けてそう言った。少女は微かに力の無い視線を不届きな言葉を吐いたその村民に向けて、物悲しげに俯いた。生まれてから何度聞かされたか分からない言葉であったから、もう慣れ切ってしまっていた。どうして、両親は綺麗な緑髪だったのに、あたしはこんなに汚い白髪なのだろうか。生まれてから何度繰り返したか分からない疑問をもう一度心の中で繰り返しながら、その少女は村を出た。毎晩、彼女は同じことを繰り返している。日中に傷ついた心を癒す方法を彼女は一つしか知らなかった。あたしに対して何も言わない、あの木と共に今晩も過ごすの。自分を納得させるようにそう呟いたその少女は、少しだけ歩調を速めて千年樹への道を歩いて行った。道すがら、可憐に咲くハルジオンを見て心を落ち着かせる。同じ白なのに、この花はこんなにも美しい。なのに、あたしの髪は。あたしの髪も、せめてハルジオンの様に美しければいいのに。
そう思いながら、溜息をついている間に、彼女は千年樹に辿り着いた。いつものように、自分の額を千年樹に当てながらお祈りをしようと思い、千年樹に近付いた時、彼女はその少女に気が付いた。
今まで見てきた、どの緑髪よりも美しいツインテールの少女に。
千年樹の妖精?
白髪の少女は思わずそう考えた。もしかしたら、あたしの願いを千年樹が叶えてくれたのかも知れない、と白髪の少女は考えたのである。それは些細な願い。
友達が欲しい、という些細な、けれどとても大切な願いだった。その言葉を思い起こしながら、白髪の少女はツインテールの少女の表情を覗きこもうとした。どうやら、眠っているらしい、と考えて白髪の少女が顔を近付けた時。
ツインテールの少女が突然目を覚まして、腰のレイピアに手をかけた。
「・・誰!」
戦の経験のないその白髪の少女でも、ツインテールの少女が戦慣れしていることを理解させるに十分な気迫を込めた声で、その少女は短くそう叫んだ。
「ご・・ごめんなさい・・。」
白髪の少女はその気迫に飲まれて、思わず一歩後退する。その様子を見て、敵ではないと判断したのだろう。ツインテールの少女は安堵するような笑顔を見せてから、こう言った。
「ごめんなさい。少し、気が立っていて。敵だと勘違いしたわ。」
「こ、こちらこそ。」
初めて向けられた笑顔に戸惑うように、白髪の少女はそう答えた。
「あなた、このあたりに住んでいるの?」
ツインテールの少女がそう訊ねてきた。それに対して、白髪の少女は一つ頷く。
「そう。私はミク。道に迷ってしまったの。森から出る方法はご存じ?」
「それなら、分かります。」
「教えて頂けるかしら?」
ミクと名乗ったその少女は気丈な声でそう言った。しかし、既に日は落ちている。今から森を抜けることは大変な困難だろう、と考えて、白髪の少女はこう言った。
「今日はもう遅いわ。あたしの家に泊まりませんか?」
人を自宅に誘うなんて初めての経験だった。幸か不幸か、両親は既に他界しているから一人くらい増えても問題が無い。それに、あたしの髪を見ても何も酷いことを言わないことに、白髪の少女は軽い感動を覚えていた。その言葉に対して、ミクはこう言った。
「そうね。なら、お世話になるわ。ところであなた、お名前は?」
指摘されて、自己紹介をしていなかったことに気が付く。恥ずかしさで下を俯きながら、白髪の少女はこう言った。
「あたしはハク。」
「ハク。いい名前ね。」
ミクはそう言って優しい笑顔を見せた。名前を褒められた経験を持たなかったハクは、戸惑った表情で、小さくありがとう、とミクに向かって告げた。
「まだミク女王は見つからないのか!」
篝火が焚かれた野営宿舎の中央で、凛とした女性の声が響いた。声の主は金髪金眼の女性である。明るい金髪をサイドテールにした彼女の名前はネル。緑の国の最精鋭、緑騎士団の騎士団長であった。そのネルに向かって、顔面蒼白となった兵士が震える声でこう言った。
「も、申し訳ありません、まだ・・。」
「とっくに日は暮れている!ミク女王が事故に遭ったか、道に迷ったか知らないが、早く見つけろ!発見まで帰還できないぞ!」
焦りの為に口調が荒くなっていることは十分に自覚していたが、それを隠せるだけの余裕を今のネルは持ち合わせていなかった。その心理は兵士達にも共有されているのか、素直に頷いた兵士はもう一度夜の平原へと駈け出して行く。
事の始まりは今朝に遡る。いつも城内に閉じ籠っているミク女王を案じて、ネルが野狩りに誘ったのだ。たまには外に出て運動でもした方がいい、という忠義心から出た提案だったが、まさかミク女王が行方不明となるとは。ネルの忠義心が全くの裏目に出た結果になった訳だ。
それにしても、奇妙しい。
ネルはそう思わずにはいられない。ミク女王とはずっと一緒にいたはずだった。それが、一瞬ネルが視線を逸らせた瞬間に、忽然とミク女王が消えてしまったのである。まるで高度な魔術でも掛けられたかのように。人を瞬間移動させる魔術があるという知識は当然ネルにもあったが、ネルはもちろん、ミク女王だって魔術は扱えない。もし使える人間がいるとすれば、王宮に残してきた魔術師グミだけだろう、と考えて、ネルはようやく解決策を思いついた。
「おい、誰か!」
ネルがそう叫ぶと、手近な場所にいた兵士がネルに駆け寄って来た。
「お前、今から王宮に走ってグミ殿を連れて来い。寝ていたら叩き起こせ。緊急事態だから早く来いと伝えろ!」
「はっ!」
ネルの気迫に飲まれた様に硬直したその兵士は、短く叫ぶと馬に跨り、王宮への道を駈け出して行った。暗さの為に、その兵士の姿がネルの視界から消えるまでには僅かな時間しかかからなかった。
「こんな深夜に、何の用?」
睡眠を中断させられたグミは、深夜にも関らず訪れた兵士に向かって不平そうな言葉を告げた。ミク女王よりも濃い緑の髪を持つ彼女は緑の国唯一の魔術士である。まだ少女と言って差し支えのない年頃にも関わらず、緑の国のどの官僚よりも深い知識を持っていると評価されている人物であった。
「そ、それが、ミク女王が野狩りの最中に行方不明に・・。」
息を切らした兵士がそう告げた時、グミの表情が暗転した。帰りが遅いとは思っていたが、まさか行方不明になられているとは。
「どういうこと?ネル殿が付いていたのではないの?」
「それが、ネル殿の目の前で忽然と姿を消されてしまい・・。ネル殿は魔術ではないかと疑っておられます。」
「分かったわ。すぐに出かける支度をします。」
グミはそう言うと、一度兵士を部屋から追い出して扉を閉めた。緑の国に仕えるようになってからあてがわれた、緑の国の王宮内にある自身の私室の奥に進み、クローゼットを開く。手ごろな衣装を手にとって手短に着替えを済ませ、最後にお気に入りである白い外套を羽織ったグミは部屋を出て、私室の外で控えていた兵士に向かってこう言った。
「すぐに案内して下さい。」
グミは年に似合わぬ凛とした声で兵士に告げると、厩舎に向けて歩き出した。
不思議な場所ね。
千年樹のふもとで出会ったハクと名乗る白髪の少女の道案内を受けながら、ミクはその様な感想を持った。日中は余裕が無くて深く観察することができなかったが、気配が通常の森とは異なる。異物を寄せ付けない、極度すぎる清涼感。真水の様な、息がつまりそうな清潔感に軽い酔いを感じながら、ミクはハクの真後ろを歩き続けた。右手に手綱を掴んだ愛馬が不機嫌そうに軽くいなないたので、ミクは愛馬の鼻面を軽く撫でてやることにした。愛馬の体温に何故か安堵したミクは、歩みながら白髪のポニーテールを左右に揺らしているハクに向かってこう尋ねた。
「ハクの村まではもう少しかかるの?」
「・・今日は、少し遠いわ。」
ハクが呟くように、そう言った。
「今日は?」
「ええ。この森は気紛れだから。」
ハクが何事も無かったかのようにそう言った。今日は、とはどのような意味なのだろうか。村の位置が点々と変化することなどはないだろうし、まさか道に迷ったのではないだろうか、と僅かに不安に陥る。しかし、その割にはハクの足取りはしっかりとしていた。通いなれた通学路を歩む学生のように。罠を疑ってみたが、ハクの気配からは殺気はもちろん、何かを胸中に含んでいるような気配も見えない。戦の経験は持ち合わせていないのだろう。油断というよりは無邪気という背中を見つめながら、ミクは諦めたように回転する歯車の様に両足を動かした。それから三十分余りが経過した時、ハクがその両足を止めた。
「着いたわ。」
ハクがそう言って前方を指し示す。その白く透き通る指先に示された先にあるものは二本の大イチョウ。大イチョウは村と森の境界線になる門としての役割を果たしているようだった。その二本の大イチョウの奥に見えるものは二層建て煉瓦造りの礼拝堂。そして、その周りには礼拝堂を取り囲むように村民の住宅らしき木造平屋建ての建物が、複数立ち並んでいた。
「立派な大イチョウね。」
「ありがとう。あたしの村の守り神なの。」
ハクはそう言って少しだけ口元を緩めた。笑顔を見せることに慣れていないのだろう、とミクは考え、更に質問を続ける。
「この村の名前は?」
「無いわ。あたし達はビレッジとしか呼んでいない。」
「そう。」
まだ私の国に名も無き村が存在したなんて。その事実に軽い驚きを感じながらミクは村の外観を観察することにした。村を守るべき衛兵の姿はもちろん、村を外敵から守る為の柵すら存在しない。まだ治安が行き届いていないこの時代にこの無防備さは自殺行為と言えた。
「村の防衛はどうなっているの?こんなに村が解放されているのは盗賊に侵入して下さいと言っているようなものよ。」
「防衛?」
不思議そうな表情でハクはそう言った。
「そうよ。」
「分からない。でも、ビレッジを訪れる人間は久しくないわ。少なくとも、あたしが記憶する限り、外の人間がビレッジを訪れるのはミクが初めてのはず。」
「どういう意味?」
「ここは迷いの森だから。普通の人間は千年樹までたどり着けないはずなの。」
「迷いの森・・。」
「そう。とにかく、細かいお話はあたしの家でしましょう。」
ハクはそう言うと、ミクを促すように軽く頷いた。
ハルジオン⑦ 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
みのり「お待たせしました!第七弾です!」
満「みのり!いきなり何言っているんだ!」
みのり「満聞いていないの?作者のレイジさんが普通に説明文を書くのに飽きたからって、今回からあたし達がナビゲートすることになったんじゃない。」
満「あいつにさん付けは必要ない。レイジで十分だ。」
みのり「・・まあ、一応あたし達の生みの親だし。」
満「あいつ、みのりは俺の娘とか叫んでないだろうな?」
みのり「まだそこまで重症じゃないと思うけど・・。」
満「か○みんは俺の嫁ってこの前ニ○ニコ動画にコメント入れてたぞ。」
みのり「変態だね。とりあえず、先に進めようか。」
満「そうだな。こんな話をしていてもつまらないからな。その前に、オリキャラである俺達がナビゲートなんてしていいのか?」
みのり「・・さぁ?とりあえずレイジさんがあたし達のことを気に入っちゃって、何かの形で登場させたくなったんだって。」
満「迷惑な話だ。」
みのり「そうだね。で、今回の投稿作品だけど、ここから完全に新ストーリーになります!」
満「『白ノ娘』を反映させているストーリーだな。曲の序盤の部分か。」
みのり「そう。ミクとハクの出会いのシーンだね。」
満「この後どうなるんだ?まだ昼間だから今日中に後一回くらい投稿するんだろ?」
みのり「それが・・未定で・・。」
満「なんで?」
みのり「レイジさんからのコメントをそのまま掲載します。『やっと『劇場版 涼○ハルヒの消失』のチケットが取れたぁああ!今から行ってくる!!』
満「・・・。」
みのり「満、コメントお願い。」
満「出来るか!あの野郎、続きを待っている読者もいるっていうのに・・!読者への感謝が足りないっ!」
みのり「そうだね。とりあえず、映画が終わったら書くとは言っているから、あと一回なら投稿可能かな・・?」
満「出来なかったら次はいつだよ。」
みのり「月末で営業成績追われているから、もしかしたら少し時間が空いてしまうかも。下手したら二週間くらい・・。」
満「だから焦って今日映画に行くことにしたのか。」
みのり「そうみたい。とりあえず今日もう一本頑張ると言っているから、お優しい心でお待ち下さい。それでは次回お会いしましょう!」
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Messenger-メッセンジャー-
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BPM=200→152→200
作詞作編曲:まふまふ
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