2.ありがとう
「ちょい来てみ?」
メイコはミクとトラボルタを連れて、キッチンの中の方へと入って行った。
キッチンの中央、目立つ所にとても大きなケーキが置かれている。
ケーキの上にはメッセージ入りの大きなチョコレート板が乗せられている。
~HAPPY BIRTHDAY 愛しのわが子 ミク~
へたくそな字だが、そこからは作り手の愛情がにじみ出ている。
「ほー、やるもんじゃな? 字は相変わらずへたくそじゃがな」
トラボルタが大きなケーキをまじまじと見つめ、悪態づいてみせた。
「へっへーん、だてにパン屋の店主をやってるわけじゃないよ。
このくらい、私にかかればチョチョイのピーさ。
……あと、私の字が下手とか言ったダルマじじいには、ケーキは食べさせないから」
メイコの視線は冷たく、老人に注がれている。
「ぬゎんじゃとー。字がへたくそなのは事実じゃろが。
だいたいお前は昔からそういう子供っぽい所が直っておらん。あの時だって――」
トラボルタはメイコに怒り心頭の様子で詰め寄って来た。
「あー、はいはい。わかってーまーすーよー」
言葉の内容とは裏腹に、メイコは耳に手を押しあてて、聞く耳もたんの意思を示している。
パン屋OSTERからこの子どもの喧嘩のような声が響くのは、毎日のことだった。
このようなやりとりは、ある意味でこの二人の重要なコミュニケーションの一つだった。
部屋を飛び交う二人の低次元な内容の言葉に、小さく別の声が混じった。
自分たちの声に邪魔されて、内容までは認識できなかったが、確かに聞こえた。
メイコとトラボルタ、この二人以外にこの部屋にいるのは、たった一人だ。
二人はたわいのない喧嘩を止めて、その小さな声の主を同時に見つめた。
「……ありがとう」
今度はちゃんと二人にも聞き取れた、ミクの小さな声。
表情に変化はないが、その美しい碧空の瞳はメイコとトラボルタを見つめてる。
メイコとトラボルタは、目を大きくして、互いの目を見つめ合い、
言葉のない会話のやりとりをした。
二人の表情は次第にゆるみ出し、互いの顔を見ながらニヤニヤしている。
先ほどまで喧嘩をしていたのが嘘のような表情である。
しばらく、へへへと笑い合った後、二人はミクの方を再び向き直した。
「ミクーーー」
もう辛抱たまらんといった様子で、二人は一斉にミクに駆け寄り、抱きしめた。
とたんにメイコとトラボルタの体に電流が走った。
二人はこうなることはわかっていたが、うれしいという感情がそれをはるかに凌駕した。
凌駕したその感情は、二人を通常では考えられない行動へと駆り立てたのだった。
衝撃でミクから離された二人は、ミクの顔を見た。
あいかわらずの無表情の顔に、きれいな瞳が輝いている。
「かまうもんかーー」
にやけ顔のままのメイコが再びミクに抱きついた。
体には電流が流れ込んでくるが本人の言葉通り、そんなことお構いなしにほほずりしている。
「わしもーー」
トラボルタもそれに続けとばかりにミクに抱きつき、ほほずりをする。
「よーし、今日は宴会じゃー。今日はわしも酒に付き合うぞー」
「……おひげ……いたいよ」
ミクも無表情の中でもどこかうれしそうに見える。
部屋の中は色々な者が散らかり、散乱している。
テーブルの上にはクリームがたくさんついた皿が置かれていて、
さらにその上には、ほんの少しかじられたチョコレートの板。
「へへへ、かわいい顔しちゃって。ちょっと遅くまで付き合わせ過ぎたかな」
部屋の片隅で小さな寝息をたてて眠っているミクを、メイコが眺めている。
「トラ、起きてるか?」
テーブルのそばでコップを持ったままうつむいているトラボルタに近づきながら言った。
「……ん? ああ、起きてるよ」
トラボルタはゆっくりと上体を起こしながら、メイコの方を見た。
メイコはその言葉を聞くと、ゆっくりとトラボルタの近くに腰かけた。
「もう、あれから六年か……。早かったような、遅かったような、
ミクは身長も結構伸びたよね。私は代わりにずいぶんと歳とっちゃたな……」
しみじみとした様子でメイコが語り始めた。
「そうじゃな、確かに老けたのぉ。まあ、それでもまだわしの所までは届いてはおらんがの」
老人はメイコの顔をしげしげと眺めながら答えた。
「そうだね……」
メイコは珍しく素直に彼の言葉を受け止めた。
「そ、それにしても、六年前にお前がわしを訪ねて来た時は驚いたのぉ」
旧友の意外な反応に戸惑い、老人はとっさに話題を振った。
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