そうなのだ。あの大戦で、人類の文明の多くは失われた。特に栄華を極めた大戦前の技術のほとんどは、今では闇の中だ。かろうじて手元に残った技術を、原理の分からないまま使ってるのが大戦後の人類の現実なのだ。
それなのに、この小娘は失われた技術を普通に使ってやがる。一体何者なんだよ?
「お前って……失礼ね」
露骨に嫌な顔をしている。
「そんな細かい事はどうでもいい。問題は、どうしてお前がこんな旧時代の技術を使えるって事だよ」
「別にそんな事、どうでも良いじゃない」
「どうでもよくない! 重要な事だ!」
オレの剣幕に押されたのか、それともただただ呆れてるだけなのか、彼女はため息を吐いた。
「私はここにずっと住んでるのよ。だから、こんな技術を使えても別に珍しくとも何ともないわよ」
「ここに住んでたからって……そんなのは理由にならないだろう?」
「事実だからしょうがないじゃない」
不機嫌そうに言ってそっぽ向いた。
くそ、コイツじゃ埒があかない。大戦が終結したのは約30年前だ。つまり、ミクが生まれる前の出来事だ。コイツが生まれた頃からここに住んでたとしても、旧時代の技術がこの街にある由来までは知るわけがないか……。
そこでオレは思い至った。なんでこんな事を忘れていたんだろう?
「おい、ミク」
「なによ?」
「この街には長老とか、そういうこの場所を仕切ってるリーダーとかはいないのか。ソイツと話をしたい」
「いないわよ」
「え? 嘘だろ? 人間が住んでいれば、大体集落を仕切ってるリーダーがいるはずだろう?」
「いるわけないじゃない。それに、ここは集落じゃないし」
ミクの言葉に、オレはハッとした。
そうだ。目の前に見えるビル群の周りには生活の痕跡がまるでない。いや、それどころか人っ子一人気配がしないのだ。ミクが住んでいるのに、なぜここまで人の気配がしないのか?
もしかして、そういう事なのか……。
「ここには、私しか住んでないわ」
悲しそうな顔をオレに見せたくないのか、彼女は俯いた。
「そうか……。やっぱり他の人達は……」
「みんな死んだわ。私を残して」
「……すまない。変なことを聞いちまったな」
「気にしなくても良いわ」
「…………」
オレは何も言えなかった。
どのくらいの期間をひとりで暮らしているのかは知らないが、それはとてつもなく寂しい事だと言うことは想像できる。オレは“施設”で生まれ育ったが、旅するようになって孤独でいることの辛さと寂しさは嫌と言うほど味わってきた。
ミクにも、楽しかった子供時代はあったのだろうか? 笑い合える友達はいたのだろうか?
まだ出会って数時間も経ってないオレが、彼女の過去を知るはずもなかった。
「……なにしんみりしてるのよ。ほら、お茶ぐらいはご馳走するから家に来てよ」
彼女は言葉とは裏腹に、相変わらず面倒くさそうな顔をしている。でも、少し目が泳いでるような気がする。右手に髪の毛の先端を巻いていじっているし。
……まったく、どっちが本音なんだろうね。
オレは苦笑しながら彼女の言葉に従う事にした。
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