村上浩介の初作品。怖い話。
その夜、私は仕事で遅くなり、帰宅するのが深夜になってしまった。疲れ切った体を引きずるようにして、やっとの思いで自宅のドアを開けた。部屋の中は真っ暗だったが、私はあまり気にせずにリビングに向かった。ソファに座って一息ついた時、不意に背筋が寒くなった。
何かが私を見ている。そんな感覚がした。私は周囲を見回したが、誰もいない。気のせいだと思い、照明のスイッチに手を伸ばそうとしたその瞬間、リビングの隅に黒い影が動いたように見えた。心臓が一瞬止まるかと思うほど驚いたが、再び確認すると、そこには何もない。
不安を感じつつも、疲れには勝てず、ベッドに向かった。寝室に入ると、何かが違うことに気付いた。いつもは閉じているクローゼットの扉が少し開いていたのだ。私は恐る恐る扉を閉め、布団に潜り込んだ。部屋の静寂が逆に恐怖を増幅させる。
やがて、薄明かりの中、何かが動く音が聞こえた。私は布団から顔を出し、音の出所を探した。目を凝らすと、クローゼットの扉がゆっくりと開いていくのが見えた。心臓が早鐘のように打ち始め、全身が凍りついた。
扉が完全に開き、暗闇の中から黒い影が現れた。その影は人間の形をしていたが、顔は判別できないほど黒く、目だけが赤く光っていた。影は静かにこちらに近づいてくる。私は動くことができず、ただその場に凍りついていた。
影がベッドのそばに立ち止まった時、私はやっと声を出そうとしたが、喉が詰まり、何も言えなかった。影はゆっくりと手を伸ばし、私の顔に触れようとしたその瞬間、私は全力で叫び声を上げた。
叫び声に驚いたのか、影は一瞬立ち止まったが、すぐに再び動き出した。私は必死にベッドから飛び起き、部屋を飛び出した。リビングの電気をつけ、振り返ると、影は消えていた。
その後、私は警察に通報し、調査してもらったが、何も異常は発見されなかった。あれは夢だったのか、現実だったのか、今でも分からない。ただ、あの赤い目の光だけは、今でも鮮明に覚えている。
それ以来、私は決して夜遅くまで仕事をしないように心掛けている。あの影が再び現れるのではないかという恐怖が、私の心に深く刻まれているからだ。
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