「ふぅむ。ミクさんの部屋の人形が、しゃべったんですね」
紙魚子さんはメガネのふちを押さえながら、聞き返す。
「で、その人形って、どんな人形なの?」
ミクさんは答える。
「ええ、それが、“はっちゅーね”の人形なの」
「はっちゅーね?」
「うん。私が作ってる製品なの。部屋にはいっぱい、置いてあるんです。いろんなバージョンがあって」
「ナルホド。そのなかのどれかがしゃべったワケか。その、サナギちゃんていう娘の声で、ネ」
紙魚子さんは、つぶやくように言うと、上のほうを見つめるような視線で、何かを考えているようだ。
●“お返事ドール”なんだけど
しばらく考えていた彼女は、ミクさんに視線を戻して聞いた。
「その人形、以前もたしか、不思議なウワサがありましたね。勝手にしゃべる、とか、そんな」
ミクさんは、うなずいた。
「ええ、そうなんです」
小首をかしげながら、彼女は続ける。
「命が宿ったみたいに、しゃべる...っていうウワサは、あったんです」
紙魚子さんは、うなずきながらまた聞く。
「ふぅむむ。その人形は、おしゃべりする機能はあるんですね。体のなかの仕掛けで」
「ええ。挨拶とか、返事とか、いくつかの決まったコトバは仕掛けてあるの。いわば“お返事ドール”なんです」
●“つながっちゃった”のかも!
「“はっちゅーね”は、私が、デフォ子さんっていうデザイナーと一緒に、生み出した人形なの。でも、それが...」
ミクさんは、言いにくそうに続けた。
「人形を買った人たちから、たまに言われるんです。“不思議な人形ですね。勝手にしゃべるみたいですね”...なんて」
紙魚子さんも、うなずいた。
「聞いたことがあります、そのウワサ。でも、今度はそれとは違うのかしら」
「ええ。今度は、しゃべる声もいつもと違って。はっきりと、サナギちゃんの声になっていたの」
腕組みをして、紙魚子さんは言った。
「ふむ。何となく思うんだけど。その“はっちゅーね”の人形、もしかしたら、“つながっちゃった” のかもしれません」
「え?つながった?」
紙魚子さんは、意味ありげな顔をして言った。
「うん。向こうの世界と、ね」(;¬_¬)
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