これは、私が大好きな、ねこぼーろさんの【樂壇】自己解釈です。
ねこぼーろさんの素敵な世界観を壊されたくないという方は、閲覧しないで下さい。



















廃れた音楽ホール。それはかつて少年がオーケストラを夢見た場所。 一人の青年へと成長し、いつの間にかマエストロの夢も諦めてしまった。そんな彼が現実に嫌気が差して逃げ込んだのはやはり、あの時の夢の樂壇だった。

埃をかぶったステージ。光を忘れたスポットライト。薄暗いホールで、他に誰も居ない観客席に座り込んで眺める。かつて目指した樂壇。今や、自らの果てた夢と等しく朽ちた樂壇。

ふと、気配を感じて閉じていた目を開ける。ステージに佇む少女。その手には錆び付いてもう動かないメトロノーム。その美しさに、彼はしばし目を見瞠って見詰めていた。

少女が、口を開いた。ホールの空気がピンと張り詰める。そして彼は息を呑んだ。

「聞こえる…」

あの時の、オーケストラだった。

メトロノームが、時を刻み始める。少女の声は真冬の空気のように鋭くて、優しい。彼は何かに引き寄せられるように樂壇へと駆け登っていた。

「僕は…」

音が、言葉が、一緒くたになってあふれ出す。思わず泣いてしまいそうになって、ふと頬に手をやると既に濡れていた。

「夢を諦めた、僕は……」

これは夢だ。そんな予感がした。それでも、話さなければならないと思った。失われた己の夢のために。

少女の瞳は真直ぐに青年を見詰めていた。


何時もそうだ、僕は偽者で。夢を見てた彼(あれ)は本物で、それじゃあ、僕は何者?


スリップする気持ち。無理矢理に、戻して、戻して、僕は0になって。そうしないと、ダメになってしまう気がして。

「此処が…」

ふいに、じっと青年の目を見詰めていた少女が口を開いた。メトロノームはとっくに止まっていた。

「君の樂壇だよ」

直後、乾いた音を立てて、少女の手を離れたメトロノームが床を打った。あの時の夢のように粉々に砕け散って、もう元には戻らない。にこり、と少女は微笑う。急に、少女が、消えてしまうような気がした。だから青年は思わず声をあげた。

「待って…!!」

開け放したままだった扉から一陣の風が吹き込む。あの懐かしい残響、記憶が繋ぎ合わせた旋律が、聞こえたような気がした。

「ねぇ、笑って」

それが、少女の最後の言葉だった。


***


数年後。青年はあの音楽ホールのステージに立っていた。床は磨き上げられて埃一つなく、ライトは煌々と青年を照らし出していた。そして観客席には、溢れんばかりの人、人、人…。

今日は、彼が、オーケストラを奏でる日だ。

鼓膜を震わす静寂。それを切り裂いて、流れ出す旋律。あの時の音。

記憶に眠っていたオーケストラを、今。

「君の、生命の音…」

観客席の一番後ろ、一心不乱に指揮を振る青年を見詰める瞳。

「永久に…歌うように…」

咲いて、歌い続けて、この場所に。

だって、此処が君の樂壇なんだから。

「…ねぇ」


ふと、何処かで、メトロノームの音が聞こえたような気がした。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【自己解釈】樂壇

ねこぼーろさんの【樂壇】が好きすぎてこんなことに。
こんな勝手文章に快く許可を下さったねこぼーろさん、
ありがとうございます!!(土下座


ねこぼーろさんの素敵な曲はこちら!!

http://www.nicovideo.jp/watch/sm14598878

閲覧数:175

投稿日:2011/07/10 12:15:05

文字数:1,309文字

カテゴリ:小説

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