赤い鳥居が連なっている。その先に小さな祠がある。その手前に狛犬がわりの狐の像が左右一対で置かれている。闇の狐はこうした稲荷を拠り所に、各地を巡っていた。
稲荷の信仰は根強い。場所によっては立派な社殿を構えていることもある。都市部の入り組んだ場所でも稲荷の祠は取り壊されも移動すらもされず、そのまま丁重に信仰を集める場として残されている。
闇の狐は人形遣いによって「自然であるもの」ではなくなった。狐はその意味をわかりかねていたし、その意味を知るものに訪ねて回っているところであった。
狐が人形使いの言葉を受けて、人形遣いの奇妙な術を受けて、狐は気を失った。その時には人形遣いは姿を消していた。正しくは、気を失った狐を人形遣いはある場所に置き去りにした。そこは――稲荷の祠の前であった。
人が鳥居に畏れを抱くように、狐も鳥居を畏れていた。その祠は狐が初めて対峙するものだった。
「ようやく目覚めたか、若いの」
祠から声がする。狐ははっと飛び起きて、それから自分の身を急いで確かめた。それは何の違いもなかった。ただ変哲のない、今までと同じ自分の体であった。
「お前さんが変わるのはこれからよ、若いの」
祠からもう一度声がかかる。狐は首をかしげて
「誰?」
と応えた。
「ここの神だよ、若いの。自分で言うのはむずがゆいがの」
むずがゆさを感じたのは狐も同じであった。神と言う存在そのものが、狐と言うまだ「自然であるもの」には異質の存在過ぎるゆえであった。
――続く。
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