「……これより、ヒト心臓形状式機械心臓移植術を開始する。お願いします」

『お願いします』

「じゃあ始めるぞ、メス!」



リンとキヨテルの会話から1週間後。リンの機械心臓移植手術が始まっていた。


「……よし、心膜を剥離するぞ。メッツェン!」

「ハイ!」


軽やかに手術を進めていく。後ろで作業をしている手術室ナース達も驚くほどのスピードだ。


(なんか今日の院長、すごく気合いが入ってるわね……!)

(ものすごい集中力……!)



―――――氷山清輝。氷山記念病院の院長で、『若き天才』と言われている。心臓手術においては右に出る者はおらず、外国でも何度か心臓移植を重ねた猛者だ。

そのキヨテルが―――――ただの少女のために全身全霊を注ぎこんでいた。

『医者だから患者のために全力を出すのは当然』―――――このキヨテルという男は、とある理由からその常識が通用する男ではなかった。

だが―――――


「よし、人工心肺接続完了。……心停止確認。これより大動脈を切断する!!」

(はっ……速い!!)

(通常タイムの……二……いや、三分の一!!)


超高速。彼が自ら禁じたその『スピード』は、並みの外科医の三倍以上の速さを誇る。


(14年も発作を繰り返してきたリンちゃんの身体は長時間の手術に耐えられるほど体力を残してなんかいない!!限界は2時間以内……それまでに人工心肺を離脱させる!!)


針が舞う。クーパーが踊る。心臓につながる血管がことごとく切断されてゆく。

そして―――――心臓が切り離された。


「よし! 心臓の切除完了!! ―――――機械心臓を!!」

「ハイ!!」


機械心臓をナースから受け取り、神速の針で血管を縫いとめていく。

一本。二本。命を―――――紡いでゆく。


助かる。リンちゃんは助かる。


手術室の誰しもが、そう思った―――――――――――その瞬間だった。





《―――――ピリッ》





『……え?』


誰かが、ポツリと声を漏らした。


それは、とても小さな音だった。


外科医と、それに関わるナースでなければ決して気づけないであろう、小さな小さな音だった。


だが―――――逆に外科医とナースにとっては、全身に鳥肌がたつほどの―――――全員を震撼させるに値する程の音だった。





縫合を終えていた大動脈が―――――縫い目から破けていた。



大動脈だけではない。他の縫合を終えていた血管の縫い目や、縫合中の血管の縫い目、更には血流を遮断していた血管鉗子のところからも裂けていく。

そして―――――破けた血管から、送血されていた鮮血が溢れだした。




『う……うわああああああああああっ!!!?』

「なっ、何!? 何が起きてるの!!?」


「くっ……落ち着け!! お前達、落ち着くんだぁっ!!! 牛の心膜パッチだ!! 何とかして抑え込むぞ!!」


現場は完全に混乱していた。機械心臓と繋げた血管が異常に脆くなっている。縫うために穴をあけただけ―――――いや、それどころか押さえつけられただけで、簡単に裂けて血液が溢れゆく。


「駄目です院長!! 心膜パッチを縫いつけても縫いつけた穴から裂けていきます!!」

「血圧急降下!! 72-42……いえ32!! 計れません!!」

「出血量5000!! も……もうダメだ!!」





「そんな……リンちゃん……駄目だ、逝っちゃだめだ……!!」





「リンちゃ―――――――――――――んっ!!!!!」










キヨテルの叫びも空しく、『血圧測定不能』を示す警告音が手術室に鳴り響いた―――――――――――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

四獣物語~大砲少女リン③~

リン、まさかの術中死……!!?
こんにちはTurndogです!!

キヨテルの『禁断の本気』が招いたのか?
それともまた別の何か?

どちらにせよ黄泉の国へまっさかさまのリンちゃん!!
そこに待ちうけるのは――――――――――――

……また?

閲覧数:97

投稿日:2014/01/20 22:14:54

文字数:1,544文字

カテゴリ:小説

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