何もかも捨て去ったかのように寂しさを感じさせる木々達に、桜のつぼみがぽつりぽつりと見られる。
ああ、昨年の桜は雨続きで存分に鑑賞出来ぬまま終わってしまったなと感慨に耽りながら傘を取り出し、人気の無い商いの並ぶ道を駆け抜ける。今日もまた雨であった。
すると。
雨天により閉められた店の前、明確に言えばその店の屋根は最低限雨がしのげる程度のものであったのだが、若い女性が俯いて立っていた。二つに結われた長い髪に若干目を奪われ、しかし人として次にやらねばならぬ動作に移り変わる。
「宜しければこの傘をどうぞ。僕の家はすぐそこなので」
俯いていた女性が顔を上げた。とても、愛らしい顔立ちであった。透き通る眼に吸い込まれてしまいそうだった。突然声を掛けられ、返事に困っていたようだったので傘を持たせそのまま走りさった。家に着き雨粒を払いながら女性を顔を思い浮かべてなんとも言えぬ気持ちを抱く。考えてみれば自分の近所には大変歳を召された女性が多いという結論を出して少々苦笑いしながら書斎の間へと足を運ぶ。
おもむろに紙を用意し、先ほど起きた、ほんの小さな出来事を紙に書きだした。
そう、僕は小説家を営んでいた。

【哀華繚乱】

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【小説】哀華繚乱

気力があれば続きをそのうち…。
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投稿日:2013/03/22 23:53:50

文字数:509文字

カテゴリ:小説

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