16 三度目 その1
「うふっ、お姉さん向こうのテーブル行って挨拶してくるわね。リンちゃんも一緒に来る?」
「あ、い、いえ、まだここにいます。」
「そう?じゃ、また後でお話ししましょう。リンちゃん二次会は来るのかしら?でも時間が遅くなるから帰ったほうがいいかしら。」
「は、はい。そうですね。それにそろそろ帰ろうかと思ってます。」
「あらそーお?まぁ、ご両親も心配しちゃうでしょうしね。帰るときは声かけてね。あとね、会費はたぶんセシル君が出してくれるわよ、レン君のも一緒に。」
「えぇ?でも会費はちゃんと持ってきましたよ。それに悪いですよ・・そんな出してもらったら・・。」
「んふっ、いいの気にしないで。セシル君は人におごったりするの大好きな人なんだから。ここに来て4千円なんて高いでしょ?私が中学生のころだったらとてもそんなお金ないわよ。」
「はぁ・・。いいんですかね・・。」
「心配しないで、セシル君にはありがとうってお礼だけしておけばいいのよ。レン君なんてよくセシル君からお小遣いもらってるんだから。」
「えぇ!?レンが?」
「そうよ、ネカフェ行くお金ちょうだいーとか、アイテム買うお金ちょうだいーとか言ってもらってるわよ。」
あの・・アホレン・・。そういえば、さっき首絞めて尋問したときそんなこと言ってたっけ・・。
「リンちゃんもおねだりすればきっともらえるわよ。」
「私はいいです・・。」
そんなみっともない真似はしたくない。ただ実際のところゲームの中のセシルさんには甘えて課金アイテムをもらっている。
ゲームの中のセシルさんにはもらっていい。リアルでのセシルさんの世話にはならない。私は意味のわからないルールを勝手に決めた。
「それじゃね、リンちゃん。」
そう言うとミスティさんはセシルさん達のいるテーブルに向かった。
はぁ・・・。なんだろう・・なんか疲れた。なんでだろう。こんなに疲れるってのは。もう今いる人で今日のオフ会参加者は全部なのかな・・・。
私は会場を眺め参加者達の顔をさりげなく見ていった。自分が思っていた感じと違う・・。オフ会ってものがこんな感じになるとは思っていなかった。別に誰が悪いってわけじゃないけど・・misakiは別として。なんか違うな・・。あんまり楽しめなかった。自分がつまんない人間なのかな・・。
というか、楽しむというより驚かされっぱなしのような気がする。楽しんでるヒマなんてないじゃない。誰だって私と同じ状況になったら驚くわよ。
へたすりゃ気失うわ。私はそう言って自分を納得させていた。
もうそろそろ帰ろうかな。レンはどうするんだろう?まさか二次会まで行くのかな・・。でも時間が遅くなってお母さんが心配する。お母さんには友達の誕生パーティーとウソをついてここに来ている。あまり遅くなってはさすがに申し訳ない。でもレンを見ると本当に楽しそうにはしゃいでいる。
「ホントサーセン、サーセン、俺ただの中坊っすからおねがいしますよー。」
誰に何について謝っているのかわからないが、うれしそうにサーセンサーセンと言っている。なんかいいな・・あんなに楽しそうにして。レンがうらやましい。こういう周りが大人ばっかりの集まりであっても誰とでも楽しくできる。
いや、それじゃまるで私がネクラの人間みたいじゃない、違うわよ。ここに来てセシルさんがあんなじゃなかったら違うわよ。別に顔がカッコよくなかったとしてもあんなドリームブレーカーな身のこなしはないわよ。完璧オタクじゃないのよ。純正100パーセントな日本のオタク。隙と妥協のない新化を止めないMADE IN JAPANだわ。
そのあとはmisakiよ。こいつは本当に腹が立つわ。このあとゲームの中で会ったらどうしよう。ホントどうしたらいいかわからないよ。誰に相談したらいいかもわからないし。もうゲームなんてやめようかな。それが一番の解決方法かしら。でも・・すんごい敗北感・・。認めたくないわ・・・。
そしてそのあとはミスティさんか・・。別にあの人が何かしたってわけじゃないけど・・・。驚いた。眉毛に驚いた・・。だってつながりそうなんだもん。それにノーメイクっぽいし。せめてちゃんと化粧をしてほしい。いや、化粧よりあの眉毛よね。まゆげよね。まゆげをどうにかしてほしいよね。だってつながりそうなんだもん。つながっちゃったらさ、悲しいよ。なんか悲しいよ。少なくとも私は悲しいよ。だってやだもんそんなの。つながってほしくないもん。・・・背高くてスタイルはいいんだけどなー。
他にもあのジャスティスって人・・。なんなのよ、ゲームの中じゃあんなに偉そうにいきがってるクセしてここで会ったら私と目も合わせないじゃないのよ。ターナカさんの話だと女性と経験がないから照れてるとかいって、みっともない。そんなんじゃ一生そのままよ。今度ゲームで会ったときどんな態度を私にとってくるんだろう?これで今まで通りの偉そうなキャラだったら言ってやろうかしら、なによ、童貞のクセに偉そうにすんじゃないわよ!20過ぎてまだ童貞のクセに偉そうにしてんじゃないわよ!って全体チャットで言ってやろうかしら。やだ・・、考えてたら楽しくなってきちゃった。今までいろいろと罵声をあびさせられて涙まで出そうなときもあったけど、これで一気に仕返しができる。
・・あぁ、よそう。やめよう、そんなの。私はそんなミジンコじゃない。いや、そんなこと言ったらミジンコに失礼よ。でも、もしまた偉そうなこと言ってきたら容赦しないわ。
あとは・・茜さんか・・。意外だったな・・。男の人とはレンから聞いていたけどあんなオジサンだったなんて・・。私のお父さんより年上っぽい。でも人はすごいよさそう。さっきから見てると自分からは話さず人の会話を聞いてにこにこ笑っている。やはりゲームと同じであの雰囲気は茜さんそのものだ。
16 三度目 その2へ続く
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