ソード隊が哨戒任務中に発見した、ゲノムパイロットの機体。
それが何故ここにいるのかという以前に、彼は今危険な着陸を行おうとしている。
「少佐、着陸を行おうとしています。」
「無線は?」
「繋がりません。回線を閉じています。」
オペレーターからもゴッドアイと同じ返答が帰ってきた。
彼は一体何をしに来たのだろうか。
「滑走路との距離、あと三百メートルです。」
総合司令室中央の大型モニターに例の機体が映し出された。
馬鹿な・・・・・・速度は落ちているが、姿勢、高度共にまるでなっていない。ふらふらとした挙動は、まるで素人だ。
パイロットに異常があるのだろうか?
「滑走路に着陸します!」
オペレーターの焦った声が響いた。
次の瞬間、例の機体が前かがみの状態で射出滑走路にすべり込むように着陸した。
しかし、なかなか減速しない。機体はギアから火炎のごとく火花を散らしそのままエレベーターへと突っ込んでいく。
まずい・・・・・・!
「フラッシュバリア展開!!」
「了解!」
次の瞬間、射出滑走路の中央に、緊急の際機に体を受け止めるためのネットがせり上がった。
減速しないまま突進する機体は、当然の如くネットに突入し、大きくバウンドする。 ネットが衝撃を吸収すると、機体は前かがみから平行な姿勢に戻った。
「機体、停止いたしました。いかがいたしましょう。」
「緊急要員、機体の格納庫への移動、そして、パイロットの状態を確認、報告をさせろ。」
「了解しました。」
一件落着・・・・・・ではないな。これは、これらか何かが起こる前触れかもしれない。
面倒なことが起きなければいいが・・・・・・。
俺達が任務から帰還した時には、格納庫にゲノムパイロットの機体がおかれていた。
何人かの整備員が、コックピットを囲んでいる。それは閉じられたまま、何人かが声をかけたりしているがまるで反応はない。
彼は出てこようとしない・・・・・・?
「GP-1!」
そう言って一目散に機体へ駆け出していくのは、ミクだ。
「お、おい、危ないぞ!」
「いいから!」
ミクは整備員を押しのけ、コックピットに這い上がった。
「GP-1!わたしだ!ミクだ!!聞こえるか?!」
そうコックピットを覆っている装甲に呼びかけた。
だが、返事はない。
他の連中もそれを見守っていた。
「こうなったらこじ開けるしかない。どいてろ!」
整備員の一人が、何か大柄な工具を取り出した。
「そんなものでやったら、GP-1が痛いかも知れない!」
「そんなこと言ってもなぁ!」
すると気野が整備員と議論をするミクに近寄り、言った。
「ミク。ここは任せておこう。」
ミクは残念そうな顔をすると、機体から飛び降りた。
格納庫から出て行くまで、ミクは心配そうにあの機体を見つめていた。
なぜ彼が来たのか分からないままデブリーフィングが終わり、俺は再び格納庫に足を運んだ。
GP-1のことが気になるからだ。
勿論、ミクも一緒だ。
しかし、機体には既に人だかりはなく、コックピットのハッチが開け放たれていた。
俺は先ほどミクと議論していた整備員に問いかけた。
「あのパイロットはどうなった?」
「ああ、今ごろ看護室さ。」
「何だって?どうだったんだ。」
「ああ。俺が見たとき、死にそうなぐらい衰弱しててな。しかも縮こまって子供みたいに脅えててなかなか出てこなかった。しょうがないから数人係でセンターまで運んだんだよ。」
「そうか。ありがとう。」
「隊長。そこに行こう。」
「ああ。」
俺とミクはそのまま看護室へ向かった。
スライドドアを開けた瞬間、消毒液の臭いが鼻孔を突いた。
看護室など、俺は滅多に入ることはない。
基地の他の施設とは違い、ここはまるで別空間だ。
クリーム色の壁に、インテリアチックな間接照明。
そして、無数のベッドとそれを覆うためのピンクのカーテン。
空軍基地の中だということを忘れてしまいそうだ。
十数とあるベッドの中の一つに、一つだけカーテンに外界から遮断されたものがあった。
「隊長・・・・・・たぶん。」
「ミク。静かに行くぞ。」
俺とミクは足音を潜めてゆっくりとカーテンに閉ざされたベッドに近づいていった。そして、それの目前まで迫った。
「・・・開けるぞ。」
「・・・うん。」
俺はカーテンに手を掛け、ゆっくり開け放った。
「あ・・・・・・。」
そこには、間違いないGP-1の姿があった。
ボディスーツタイプのGスーツを着ている。
彼はベッドに頭を抱えて赤子の様にうずくまっていた。
かすかに、震えている。
「GP-1・・・・・・わたしだ・・・ミクだ・・・わかるか?」
彼にその声が届いたらしく、GP-1は弱々しく首を動かし、ミクを見た。
なんという、なんという脅えた目つきだ・・・・・・。
そこまで何を恐れている?
それとも、よほど恐怖的な出来事を目にしたのだろうか。
「・・・・・・ぁあ・・・・・・ぁ・・・・・・み・・・・・・く。」
彼が僅かに喋った。
「どうしたんだ・・・・・・わたしに言ってみて。」
ミクがGP-1のことを思いやさしく問いかける。
「・・・・・・ぉ・・・・・・が・・・・・・。」
GP-1が必死に口を動かし何かを伝えようとしている。
だが、うまく聞き取れない。
「ゆっくり、もういちど、言ってみて。」
「・・・・・・くぉ・・・・・・、み・・・・・・くぉ・・・・・・が・・・・・・!」
「ミクオ?」
確かに、ミクオと言った・・・・・・。
「み・・・・・・くぉ、が・・・・・・み、くぉが・・・・・・あぁあぁあ・・・・・・!!!!」
GP-1はミクオのことを言っているのだ。
ミクオが一体どうしたというのか。
だが、GP-1がストラトスフィアから逃げ出し、ここに来たという理由には間違いないだろう。
おそらく、ミクオの暴力にでも耐えかねたか。いや、この精神病並みの脅え方・・・・・・何があったのか。
何を見た?
GP-1は息を荒くし、頭を抱えた。ほぼ錯乱状態だ。
「隊長・・・!」
ミクが助けを求めるように俺を見た。
「これじゃしょうがない。今はそっとしておこう。」
「・・・・・・。」
俺達は、カーテンを閉めるとそのまま看護室を後にした。
GP-1のあの脅え方・・・・・・尋常ではなかった。
精神病でも、似たような症状を持つものは存在するが、精神面で耐性の高いゲノム人間がそれになる可能性はほぼゼロ。
戦闘におけるストレスが積み重なってああなる心配もない。
おそらくナノマシンで感情の抑制、戦闘時の興奮をあおっているためだ。
身体的負担はかなりのものになるが、それを想定して造られたゲノムパイロットだ。
彼、GP-1の身に何が起こったのか、もしくは彼が何を目の当たりにしたのか。
これは、今知っておく必要がある。
なぜなら、ストラトスフィア、いやミクオが起こしたことによって彼が恐怖し、逃げ出したのなら、それは恐ろしい事態を招くことを意味するからだ。
問題は、どうやってあの状態の彼から、詳しい情報を得ることだが・・・・・・。
そうだ。やはりゲノム人間にはゲノム人間で対抗するしかない。
「朝美、いるか。」
「いるよー。なーに隊長。」
「お前に特別な任務がある。」
「とくべつなにんむ?」
「そうだ。お前しかできないことだ。頼む。」
「ん~・・・・・・分かった。」
「成功したらいいものくれてやる。」
「ほんと?!それならまかせて~!」
こいつ、今精神年齢は五歳ぐらいだよな・・・・・・・・・。
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