語り部の或る詩謡い人形の記録『夕刻の夫婦』
ようこそいらっしゃいました。このたびお聞かせするのは遠い昔に青い髪の男女の人形が謡っていた全5曲から成る一連の物語の三曲目のお話です。

とある小さな村に一組の家族が住んでいたそうです。
病弱な白き髪と白き肌の夫、そんな彼を助ける妻、
そして対なる子供たちと共に静かに暮らしていたそうです。
彼らは決して裕福ではなかったのですが、子供たちは
そんなことを感じられるほど大きくはなく、妻は男を助けると決めており、
男も、家族を抱きしめるこの腕さえあればいいと
美しい妻の真紅の瞳を眺めていたそうです。

ですがそれは今、黄昏色に染まりゆく部屋の中で
思い出すだけだったそうです。

暴虐な王によって城に連れて来られた男は、本当は要らない才能ゆえに
強要された強行に腕を染め上げて嘆いていたそうです。
やがて日が沈み、空が闇に飲まれた頃、男は城を逃げ出し、
妻の元へと向かったそうです。
そして妻に冷酷な王に沢山の命たちを瞬く間に滅ぼせる武器を作るように
命じられたが、首を縦に振ることはできないことを告げ、子
供を抱えた妻の腕を引き、逃げ出したそうです。

けれども、すぐに彼らを追う足音が聞こえ、
それはだんだんと大きくなっていったそうです。

剣を持ち、彼らを追う女は、容赦なく凶器を振り上げ、男
の大切なものを奪いつくし、凶器と共に紅く哂って見せたそうです。

妻の光も、連れ去られた子供たちも全て、腕と共に切り裂かれ失った男は、

「何故これほどまでに追い込まれ、奪われねばならぬのか。」と苦しんだ末に、

「次は僕が奪う まずは腕 次に光 そして 全ての人々の幸せ 奪い去る」
低い声でそう言い放ち、心の中に誰もが持つ禍々しき黒き門を開き、
憎しみと怒りを解き放ってしまったそうです。
一度開ければもう戻れない門を開けた男は狂い
優しい彼は居なくなってしまったそうです。

そして、男は自身が生み出した紅に妻の瞳の色に重ね、
安堵さえした狂気の道筋を引き続け、道行くものから腕を、目をもぎ取り、
自らを紅く染め、全てを奪った国を、
主を滅ぼしてなおも止まらぬ憎しみを 持て余したそうです。


いかがでしたか?私のお聞かせした物語は。今日のところはここでお開きにしましょう。お急ぎで無いなら、今暫くここに留まられることをお勧めしますよ。ちょうど今は黄昏時、ふらりと現れた白と赤の若き男女に「小さな子供を知りませんか?」と、問いかけられるかもしれませんから。もし、問いかけられたならばそれはこの物語の夫婦でしょう。男は今なお、魔物の様に爪が長く大きな鋭い手で腕と目をもぎながら徘徊を続けているそうですから。次にお聞かせするのは四曲目の物語です。帰り道にはどうぞお気をつけて。よければまた、私の物語を聞きにいらして下さい。それではさようなら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

語り部の或る詩謡い人形の記録『夕刻の夫婦』

語り部シリーズ14作目です。

閲覧数:269

投稿日:2009/08/09 17:09:17

文字数:1,196文字

カテゴリ:小説

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  • 文鳥

    文鳥

    ご意見・ご感想

    黒夢~
    またまたやらかしてたか。
    最近誤字が多すぎるなあ。
    もち、速攻修正したぜ。

    2009/08/09 17:10:50

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