「どうして泣いているの?」
壁の向こうから声がした。
少年の声だ。
「どうして泣いているの?」
同じ言葉が再び発せられた。
「外にでたい。普通に暮らしたい。でも、ここからでられない。」
「どうして?閉じ込められてるの?」
「うん…。」
少女の声は暗かった。
少年はなんとかしてやりたかった。
でも、どうしようもなかった。
”それ”には窓や扉が無かったのだ。
”それ”は重厚な石を主として造られていた。
子供にはもちろん大人が道具を使っても壊すのは難しそうだ。
「まってて―」
少年は言った。
「―必ず、迎えに来るから…!」
決意を込めて。



少女は目を覚ました。
「夢…か」
少女は目を細めため息をついた。
少女は何処とも知らない”それ”の中にいた。
何年も、何年も。
少女は建物なのか穴蔵なのかわからない”それ”を「檻」と呼んでいた。
少女は変わることのない、終わることのない時間を過ごしていた。
外からは子供たちの楽しげな声が響いてきて無機質な壁越しに部屋の中に木霊していた。
この建物には何もなかった。
何一つなかった。
椅子も机もベッドもトイレも窓も扉も。
何もなかった。
光すらこの部屋の中にはなかった。
ただひとつ。
進まない時間を刻む古い時計があるだけだった。
少女はこの光すらささない暗い部屋の中でいつも一人で泣いていた。
それしかできなかった。
自分は不幸なヒロインでいつか誰かが助けに来てくれる。
ここから救い出してくれる。
そんな妄想を抱いたこともあった。
だがそれは妄想でしかない。
少女は何年もこの建物の中にいる。
それが証拠だった。
誰も助けに来ない。
ずっと…永遠に。
「私は―」
言葉が木霊する。
「私は…みんなと同じように普通に生きたいだけなのに…。」
少女の頬を涙がつたった。
少女は泣いた。
泣き続けた。
そして、泣き疲れ横になると少女は夢の中に吸い込まれていった。
この檻の中の時間は止まったまま。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音を聞いた。




「ごめんね」
声がした。
だが、辺りには誰もいない、何も見えない。
「ごめんね」
再び声がした。
懐かしいような気がした。
昔に聞いたことがあるような気がした。
「誰?誰なの?」
少女は言った。
「ごめんね。まだ時間がかかるんだ。だから、もう少し待ってて。必ず、迎えに来るから…!」
少女は飛び起きた。
辺りを見渡す。
いつもの無機質な壁と古い時計があるだけだった。
「…夢?」



少女は一人で怯えていた。
どれだけ時間が経っても自分の体に変化がないからだ。
長い時間が経ったはずなのに体はこの「檻」に閉じ込められた当時のままだ。
何も食べてないのに飢えも感じなかった。
だから少女は考えた。
もしかしたら自分は永遠にこの「檻」の中で何の希望もないまま生き続けなければならないのではないか。
そう思うと怖くなった。
その思想は少女に多大な重圧を与えた。
毎日目が覚めると一人で怯え、泣き、嗚咽をこぼした。
そして、泣き疲れ眠りにおちた。
それを繰り返し続けた。
そんな中少女は呟いた。
「もう…、死んだほうがいいかな?そうすれば楽になれるかな?」
少女は大きく口を開け舌を出した。
そして、それを勢いよく噛み千切った。
激しい痛みに襲われた。
自らが噛み切った舌とそこから溢れ出る熱い血に溺れた。
―ああ これでやっと終わるんだ。
少女の意識は希薄になっていった。
やがて目は閉じられた。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。



少女は目を開けた。
目に映る風景はいつもと何も変わっていなかった。
無機質な壁と古い時計があるだけだった。
「死ぬこともできないの?」
少女の目に涙がうかんだ。
「私は…みんなと同じように普通に死にたいだけなのに…。」
古い時計の針は止まったまま 永遠の時を刻んでいた。




少女はいつものように泣き、疲れ横になっていた。
ゆっくりと瞼が閉じられた。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。

遠い昔に交わした約束を朧げに覚えてる。
そんな気がする。
記憶の片隅に名前も知らない少年と交わした約束があった気がした。
だが、それもただの夢なのかもしれない。
この現実から逃げたくて作り出したただの妄想かもしれない。
きっとそうだ そうに違いない。
永遠に続く時間の中で少女は独りだった。



少女は明日に憧れ、焦がれて、夢を見ていた。
いつの日か交わした少年との約束。
幻想なのか真なのかわからない。
そんな不確かなものだ。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。

少女はふと昔のことを少し思い出した。
一人で泣いてる時誰かが話しかけてきた。
「どうして泣いているの?」
それは二度発せれらた。
私はここに閉じ込められたばかりだった気がする。
独りが寂しくて、悲しくて泣いていた。
どんなに声をあげても誰も気づかなかったけど、その人だけが気づいてくれた。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。

私は外に出たかった。
でも、それはできなかった。
だから今もここにいる。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。

その人はどうにかして私を助けようとしていた。
窓も扉もないこの「檻」から。
その人は私と何か約束を交わした。
私のために。

カーン カーン 何かがぶつかり合うような音が聞こえた。

……そうだ!あの人は!あの時の男の子は…!

―必ず、迎えに来るから…!



少女は何かが崩れるような大きな音で目を覚ました。
辺りには無機質な壁と古い時計と光があった。
いつもと違う風景だった。
光のほうには大きなシルエットがうかんでいた。
そこには大人の男の人が立っていた。
その人はボロボロになったつるはしを持っていた。
少女にはそれが誰だかすぐに理解できた。
男性は行った。
「ごめんね…、遅くなって。迎えに来たよ。」
少女はかつての少年に抱きつき涙を流した。
大人になった少年は少女を優しく包み込んだ。
「ごめんね。こんなに遅くなって。やっと迎えにこれたよ。」
大人になった少年は静かに、ゆっくり言った。
しばらく抱き合った後二人は手を繋いで外に向かった。
かつての少年が掘り進んできたであろう道はとても長かった。
昔少女の泣き声が聞こえたのが不思議なくらい長い道だった。
二人はしばらくその道を歩き続けた。
少女は大人になった少年を見つめた。
少年はそれに気づき優しく微笑んだ。
「ありがとう…。」
少女は短く礼を言った。
少女の止まっていた時間が動き出した。
これから少女はみんなと同じように普通に生き、普通に死んでいく。
だが、それは少女にとってかけがえのない幸せであることに違いないだろう。



誰もいなくなった部屋で永遠を刻んでいた古い時計。

カチッ。

その時計の針は今 動き出した。

永遠の有限を刻むために。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

-BUKI’s Short Story- 「時間の檻」

「時間の檻」の歌詞をもとに書いたショートストーリーです。
小説?を書くのは初めてでクオリティは期待できません。
趣味ですので。
素人ですので。
ですが、精一杯努めました。
そんな作品です。

閲覧数:288

投稿日:2014/06/21 20:52:40

文字数:2,891文字

カテゴリ:小説

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