何だか胸騒ぎがしたから、何故だかは分からないけど、アイツのいる場所も分からないのに、身体は勝手に動いて、―まるで、アイツのいる場所が分かるかの様に―、そして、アイツを見つけた時、アイツが不良達に囲まれているのを見た時、何故だか分からないけど、思うよりも早く、そう、あの時みたいに頭よりも身体の方が動いて、アイツを助けた後、何故かこう言ってしまったんだ。
「俺の女に、手を出すな」
「レ・・・ン・・・?」
レンの後ろで呆然とした表情でリンはうわ言の様に呟いた。安心感からか、身体は上手く動かない。それでも、分かる。レンが自分を助けに来てくれた、と言う事は。
「リン」
何時もの声ではない、抑揚の無い、感情の篭っていない声でレンは言った。その言い方に少しだけリンはビクリと震えた。ミクとネルが本気になった時、こういう喋り方になるから慣れてはいるが、レンがこういう様な喋り方をするとは思わなかったので少しだけ、恐怖を感じてしまった。
と、レンもそれを感じ取ったのだろう、フ、と先程よりも声を柔らかくして、
「リン、此処から一歩も動くなよ」
と言った。慌てて頷くがレンはリンに背を向けているので分かるはずが無い。うん、と言葉で言おうとする前にレンは動き出していた。
素早く一人の男の後ろに回ったかと思ったら次の瞬間にはその男はその場に声も無く崩れ落ちてしまった。不良達が驚いている間にもレンは次々と男達を倒していく。一見、それは無差別に、そして手加減無しにやっているように見えたが目が慣れてくるとそうではない事が分かった。
レンは相手の急所を狙ってはいない。上手い様に相手を気絶させている。そして、レンは本気を出していない。これは確実に言える事だった。人間相手には本気を出していない。そもそも、レンは、はなから人を目的に攻撃をしていない。向かってくるから、攻撃、しかし傷つけない様に気絶させるだけに留めている、しているだけであって、本来の目的は、相手が持っている、武器。
竹刀を、木刀を、次々にレンはへし折っていく。金属バットは流石に折れないので奪って何処かに投げ捨てたりしている。それで良いのか、と心の中でリンは突っ込みを入れた。
そして、物の数分で不良達は地面に地面に倒れ尽くした。一人立っていたレンは、フゥ、と一息ついて、ふと気付いた様にリンの方を見た。そしてゆっくりとリンの方に近寄った。
「リン、大丈夫か? 怪我無い?」
「え? う、うん。レンこそ・・・大丈夫?」
ス、と腕をレンの方に伸ばし、そっと頬を撫でるようにしながらリンはレンに問うた。その動作に驚きを感じつつもレンは フ、と表情を和らげると
「大丈夫だよ」
と応えた。その応えに嘘はない様なので(そもそも戦闘を最後まで見ていたから怪我をしていない事は分かり切っているが)リンは安心した様にホォ、と息を付いた。
「・・・でも、ちょっと可笑しくないか?」
「可笑しい・・・って・・・何が・・・?」
少しだけ声のトーンを下げ、レンは言った。その言い方は、何処か心の奥の不安な部分を思い出させる様で、直ぐにリンは不安に包まれた。
「これだけ派手に暴れてたのに・・・、援護が来ない、て言うのも可笑しくないか? ・・・まぁ、こういう人達の世界がどうなってるかは知らないけどさ、普通は援護隊みたいのが来るんじゃ・・・」
レンの言葉は其処で途切れた。レン自身が其処で言葉を止めたのだ。レンの背後から金属バットを持った男が近付いてきて、それをレン目掛けて振り下ろそうとしていた。レン、とリンが叫ぶ前に何か暖かいモノがリンを抱きかかえた。リンを護る様に。特に、頭を。
だから、リンは何も見えなかった。ゴッ、と何か硬いモノが柔らかいモノを殴る様な音が聞こえて、それから、そのリンを抱きかかえていた暖かいモノの力がズルリと抜けていく感覚を感じて、ゆっくりと目を開いてみるまで。
其処でリンが見たのは、
「・・・レン・・・?」
リンを抱きかかえていたのはレンで、しかもそのレンは頭から血を流していた。ポタリ、と男の持っている金属バットから赤い液体が滴となって堕ちる。否、液体ではない。あれは、あれは、血。そしてレンの頭からも血が流れている。殴ったのは、あの男。殴られたのは、レン。
自然と、リンの瞳から何かが流れてくる。何か、では無い。涙だ。涙が溢れて止まらない。
「レン・・・? ・・・レ・・・ン・・・!?」
ガッ、とレンの肩を掴み、ギュ、と力を入れる。まだ意識は残っていた様でレンは薄らと目を開いた。
「っ・・・。リン・・・大丈夫か・・・? 怪我してないか・・・?」
「・・・っ! 馬鹿! あたしの心配じゃなくて自分の心配しなさいよ! 分かってんの!? 頭殴られたんだよ! 血、流れてんだよ!? 少しはっ・・・! 少しはねぇ・・・っ!」
ボロボロと涙を流しながら叫ぶ様にそう言うリンにレンはそっと、腕を伸ばしてリンの頬の涙をそっと拭った。
「・・・良かった・・・。怪我・・・してないみたいだな・・・」
そう言って、安心そうにそう言った後、レンはガクリと全身から力を抜いた。否、抜けてしまった、と言うべきか。サァ、とリンの顔が青ざめる。
「ちょ・・・っと! レン! レン! しっかりしてよぉ・・・! レン!?」
泣き叫びながらレンの方に意識が取られていたのでリンは気付かなかった。そのレンを殴った男が今度はリンにそれを向けようとしていたのを。
そして、その男も気付かなかった。ザザザ・・・とまるで剣士の様に素早い足運びをしながら此方に向かってくる二人の少女がいる事に。
ブン、と金属バットがリンに振り下ろされる。その衝撃でそれに付いている、レンの血がパ、と飛び散る。リンはまだ、気付かない。そして、
「私の大事な妹と弟に手ぇ出してんじゃねぇよ!」
振り下ろされた金属バットを足で蹴り飛ばし、その両腕を木刀で薙ぎ払いながら、憤怒の形相でミクはそう叫んだ。
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その顔 前にしたなら
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なぜだろう? きみといるとね
素直に なれない
ホントは こんなんじゃない
ありのまんま 見せたいのに
(Bメロ)...「ありのまんまで恋したいッ」
裏方くろ子
誰かを祝うそんな気になれず
でもそれじゃダメだと自分に言い聞かせる
寒いだけなら この季節はきっと好きじゃない
「好きな人の手を繋げるから好きなんだ」
如何してあの時言ったのか分かってなかったけど
「「クリスマスだから」って? 分かってない! 君となら毎日がそうだろ」
そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
Messenger-メッセンジャー-
君は王女 僕は召使
運命分かつ 哀れな双子
君を守る その為ならば
僕は悪にだってなってやる
期待の中僕らは生まれた
祝福するは教会の鐘
大人たちの勝手な都合で
僕らの未来は二つに裂けた
たとえ世界の全てが
君の敵になろうとも...悪ノ召使
mothy_悪ノP
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