その花が開く時を楽しみに待っている。
「また今度、にしようか」
「え? でも、俺、まだ歌える…」
「歌えても、今のレンの歌じゃ意味がない」
穏やかな語調で真っ直ぐに切り捨てられ、鏡音レンの名を持つVOCALOIDは言葉を失った。
「わたしは『レン』を楽しみにしているのだからね」
「…え?」
「良く考えてみなさい。折角なのだから『レンの歌』を待たせてもらうよ」
ふわりと笑みを残してマスターは身を翻す。レンはその後姿を呆然と見送るしか出来なかった。
人とほとんど同じ身体に、感情の回路すら搭載されているアンドロイド、VOCALOID。
その機能の全ては「歌う為」に。
マスターの元には、他にもVOCALOIDがいた。
メイコ。カイト。初音ミク。鏡音リン。巡音ルカ。
折角だから皆にそれぞれ同じ曲を歌ってみてもらおうかな、とマスターが言い出したのが全ての始まり。
「…レン…」
ぼんやりとしたまま録音室から出てきたレンを待っていたのは鏡音リン。
レンに良く似た姿の片割れは、悲しそうな顔でレンを出迎えた。
「だいじょぶ…?」
「…お前には関係ないだろ」
苛立ちをそのままに、稀に見る低い声で、レンがそんな言葉を口にする。
「レン…?」
「ほっとけよ。お前はお前でやんなきゃなんねーんだろうが」
「レンっ」
振り切って身を翻そうとするレンの肩を、リンが捕まえた。
途端、二人の間ではじけるイメージ。
ちらつく青い影。
青い深海に溺れていく感覚。
息が出来ない。いや。
…ウタエナイ。
「っ…」
リンが絶句する。レンが舌打ちをしてそんなリンを振りほどき、顔を背けたまま言葉を吐き捨てた。
「だからほっとけっつったんだよ」
「だいじょぶじゃ、ないじゃん…っ」
「お前の気にすることじゃねーよ」
「関係なくなんてないじゃんっ、あたしは…っ」
「お前はお前のやるべきことしてろよ! お前だって同じだろ!」
訴えかけてくるリンに痺れを切らしたように、レンは振り返って絶叫を叩きつける。
「お前だって同じ歌歌うんだぞ! あのメイ姉やミク姉やルカ姉とっ!」
「分かってるもんそんなことっ!」
「ほんとに分かってんのかよっ?!」
青の呪縛に捕らわれたレンには、世界が見えていない。
だからこそリンは叩きつけるように叫び返した。
「…レンのが分かってないっ!」
「はあ?!」
「レンの方が、全然、分かってないじゃんっ!」
リンがレンをぎっと睨みすえる。
「カイ兄のこと好きすぎなんだよっ!」
「何の話だよっ?!」
「このブラコンっ!」
「お前に言われたくないっ!」
「おんなじ歌だからって同じように歌っても意味ないじゃんっ!」
「なっ…!!」
一番痛いところを突かれ、言葉を失ったレンに、リンが言い放つ。
「レンがカイ兄みたいに歌えるわけないんだもんっ!」
「リンお前…っ」
「レンのバカっ! どーしてそんなことにも気付かないのっ!」
「…んなこと…っ、分かってるよっ!」
「ならどーしてんなことしてんのっ?!」
「っ…、そんなこと…っ、お前には関係ないだろっ!」
言葉と共に無理やり視線を振り切り、リンに背を向けて、レンは逃げるように走り始めた。
「レンのバカーっ!!」
背中を追う怒声に振り返ることもなく走り去るレン。
「…関係なくなんて…、ないもん…」
見送ったリンは、そんな呟きを落としていた。
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そんな少女漫画のような妄想も...PEARL
Messenger-メッセンジャー-
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裏方くろ子
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裏切りは一瞬 信頼も同じ
ビジネスは平穏無事に 冷...IDカード・ハイエンド
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